42 / 55
番外編
デートからの
しおりを挟む王宮についてからアイリスはすぐにリュカの元へ行く。
「ママ!」
「リュカごめんなさいね。良い子にしていたかしら?」
王妃様の元でおもちゃで遊び、フルーツを食べて大人しくしていましたよ。とメイド達から聞く。王妃様は先程急ぎの用があり陛下の元へ行かれました。
「そう。お利口さんにしていたのね。リュカ」
アイリスに褒められて喜ぶリュカ。
「さぁリュカ行きましょうか」
手を繋いでまた馬車へ向かおうとするアイリス。
「王太子妃様、一体どちらへ……」
「しばらく殿下の顔を見たくないと伝えてちょうだい」
「「「「「え?」」」」」
「お待ちください」
「私たちが怒られます」
「王太子妃様!」
「何があったのですか!」
バタバタと騒がしい王族のプライベートスペース。そこに……
「義姉上?」
エヴァンの弟サイラスだ。
「あら、サイラス殿下ではないですか? 今お帰りですか?」
サイラスは学園から帰ってきた所、たまたま居合わせてしまった。
「えぇ。義姉上、一体この騒ぎは……リュカを連れて何処へ?」
散歩に行くくらいならこんな騒ぎにはなっていないだろう。また面倒なことになっているのだろうか。止めなくては……そうじゃないと兄上が……考えただけでゾワっと鳥肌が立つ。
「サイラス殿下にご迷惑をおかけするつもりはございません。見なかったことにして下さいな」
そう言ってリュカの手を引き歩き出した。リュカは王妃に買ってもらった王冠を引きずっている。どうやら気に入ったようだ。
「いやいや、待って下さいよ。義姉上!」
ケンカだろうか……兄上は何をしたんだよ!
義姉上、待って、お願いだから……何を言っても聞く耳を持たず、とうとう門まで来てしまった。
門の外に出られては困る。絶対馬車に乗せてはいけない。どうしても乗るのなら、殺される覚悟で同乗するしかない。とサイラスは思っていた。
エヴァンはアイリスに近寄る男は実弟であっても良い顔をしない。
「アイリス、なぜ怒っているんだ? リュカを連れてどこへ行くつもりだ」
エヴァンが帰ってきた。助かった。サイラスはほっと胸を撫で下ろした。
「……なぜ、サイラスと一緒にいる? どこかへ行こうとしていたんじゃないだろうな」
ジロリとエヴァンはサイラスを見る。その目は殺気立っていて余計な事を言ったら、何をされるか分からない。
「ま、まさか!」
首をこれでもかと左右に振るサイラス。
「リュカ、行きましょう」
リュカはエヴァンを不思議そうに見ていた。
「どこへ行くつもりだ!」
アイリスの手を強引に取る。
「触らないでくださいっ」
「なぜ怒っているのか、聞かせてくれ。私は何をした!」
エヴァンを睨みながらアイリスは言った。周りははらはらとしている。アイリスが怒る姿を久しぶりに見た。そして今回はリュカを連れて何処かへ行こうとしていた。これは只事ではない!
「孤児院で……」
「孤児院?」
「女の子に結婚を仄めかしていました! キスもされていました! それに孤児院の子達には優しくしているのに、リュカとはいつも喧嘩しています! リュカもパパが嫌いだって」
リュカを抱きしめ泣き出すアイリス。
「ママ、泣いちゃだめ」
よしよしとリュカはアイリスの頭を撫でる。いつもアイリスがリュカの頭を撫でるように。
「ママにはリュカしかいない……」
いつもの痴話喧嘩だ。と周りは思い、そぉーっと離れていった。ただいつもと違うのは、リュカが巻き添えになっているという事だった。
「……子供が転びそうになったから助けただけだ。あのまま転んでは怪我するだろう」
「リュカが転んだ時は助けませんでした」
「レイが近くにいて間に合っただろう」
「リュカにはおやつをあげないのに……あの子達にはあげていました!」
「虫歯になったら困る。リュカに甘いものはまだ早い」
「リュカより孤児院の子達と仲が良かったではないですか!」
「リュカは我が子だ。本心で接している」
「キスされてました!」
「キス? 何かが触れたくらいだろう」
「わたくしが同じ事をされても、そんな事を言えますか?」
「……言えんな、悪かった。しかしあの子を罪に問う事は出来ん。まだ分別もつかない子供だ」
エヴァンは子供に全く興味がなかったが、リュカがうまれてからは、積極的に孤児院に関わっている。アイリスの為だと思っていた。
ひっくひっくと泣くアイリスをみてリュカも泣き出してしまった。悲しい気持ちは伝染する。
「バカだな……アイリス、リュカもおいで」
リュカをひょいと抱きしめ、アイリスも片手で抱きしめるエヴァン。
「何もかも、アイリスとリュカが健やかに暮らすためにやっている事だ。ただ、変わったことといえばリュカが生まれて守るべき対象が増えたというだけだ」
「リュカの事も愛していますか?」
「アイリスの次だ。何を置いても私にはアイリスが一番だ。子が産まれて、国やリュカの将来を考えるとアイリスの言った通り子供は国の宝だと思った。言葉が足らずにアイリスを悲しませてしまって悪かった」
アイリスはエヴァンの気持ちを聞いて少し恥ずかしく思ったが、ぎゅっとエヴァンの上着を掴んで頷いた。
リュカは泣き疲れたのか、精神的に不安だったのか、エヴァンに抱かれながら寝てしまった。
「ん? リュカは何を持っているんだ?」
片手にリュカを抱き、片手でアイリスの肩を抱き歩く。
「王妃様から買ってもらった王冠です」
「母上か……全く」
二人のプライベートルームのソファに並んで座る。リュカはまだエヴァンに抱っこされたままだった。
14
お気に入りに追加
1,474
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる