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もう、逃げない令嬢

疑惑3

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「浮気する気満々ですのね……殿下が出ていかないならわたくしが出ていきます!」

 アイリスの声が震えている


「待て、待ってくれ! そうじゃないんだよ」

 引き止めるエヴァン

「離してくださる? 他の女の手を取った手でわたくしに触れないで!」

「取ってない!」


焦るエヴァン、こんなに怒っているアイリスを見たことがない。

 護衛と侍女を部屋の外で待機させる、二人きりの空間となった。



「さっきの護衛の発言だが、私の言葉が足りなかった……今日のアイリスのドレスは私が頼んで作らせたもので……夜会のドレスに似たものになっているんだけど、いつもと違って胸元も開いていて……その、もし、触れても止めるなよ。と言う意味だったんだよ……。最近は口付けをしても睨まれるくらいだから……。ドレスとても似合っている。美しいよ」


 無言のアイリス


「結婚式まであと一年足らずになったから、ダンスの練習の後に晩餐をして、今日は花火が上がるからテラスで一緒にみようと思って……思い出を作りたくて」


 無言のアイリス


「アイリスはバラが好きだから、飾ろうと思って、バラ園に行ったら風が心地よくて少し木陰で休んでいたら、うとうとしてしまって……最近執務も増えてきて、少し疲れていて……これは言い訳になるけど」


 無言のアイリス


「サイラスに起こされたら、知らない女が隣にいたんだよ……頼む信じてくれ、何もないんだよ」

 懇願するようにアイリスの膝下に縋り手を取るエヴァン。


「……わかりました」

「分かってくれた?」


「二度目はありませんからね」

「もちろんだよ」

 立ち上がりアイリスを抱き寄せようとするが、拒まれる。

「なんで?」

 エヴァンが驚いた顔をする

「あの女の家は潰すの?」

「浮気してないっ!」

「エヴァンに触れたでしょう?」


「えっ?」

「他の女の香水を纏わせてわたくしに触れないでくださる?」 

 手を解くアイリス


 自分の匂いを確認するエヴァン

「髪に臭いが付いたのか……くそ、あの女!」

「どこの誰ですか?」

「知らん!」

「エヴァンはわたくしのものなんです、他の者が気安く触れて言い訳がありませんね?」

 真顔のアイリスは感情のない顔つきだ


「……その通りです」


「分かればよろしい、その鼻につく臭いを落としてきなさい」


「ハイ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「遅くなってしまった、悪い」

 エヴァンが部屋に入ってきた


 窓が全開である


「どうしたの、寒くない?…」

「空気の入れ替えです」

 にこりと笑うアイリス

「ごめん、その……不快にさせてしまって」

「もうしないのでしょう?」

「勿論です」

「二度と許しませんよ」

「触れても良い?」


無言のアイリスに近寄り

「ごめん、言葉が足りなかった私に非がある」

 アイリスを抱き寄せる


「アイリスが私から逃げたらあの女の一族郎等潰すところだった……許せん」


「わたくしも言いすぎましたね、申し訳ございません。頭にきてしまって……」

「いや、アイリスは悪くない」

 頭を振るエヴァン


「こんな些細なことで周りを困らせてしまいました」
「些細な事ではないよ……逆だったらと思うと自分が抑えきれない」

「カッとなってしまって……サイラス殿下に謝らないと」

「そうだな、心配しているかも知れん」

アイリスの頬にキスをした

「アイリスに呼び捨てにされるのは悪くないね……」

「感情的になっちゃったの」

「あの冷たい目にもぞくっとした……」



「もうやめて下さい。大事な事を言い忘れていましたけど、思い出を作ろうとしてくれて、ありがとうございます……わたくしのことを思ってくれた事が、嬉しいです」


「サプライズは失敗したけどね……違う意味でのサプライズになってしまった」

 ガクッと肩を落とすエヴァン


 手を繋いでサイラスの元へと行きノックをして部屋に入る。


「仲直りしたんですね! 良かった」

 心底ホッとした顔をするサイラス


「悪い、迷惑をかけたな」

「ごめんなさい、つい……」

 二人が頭を下げてきた

「良かったです……姉上がこれからは一人になるなんて言うから……あの令嬢は一体?」


「王家のプライベートゾーンにずかずか入ってきた、男爵の娘には不法侵入で男爵家に抗議を入れる。王宮への立ち入り禁止とする」

「……それは安心しましたよ」


「男爵家の令嬢だったのね?」

「調べさせた」

 即答するエヴァン


「わたくしが、あの時、顔を見た時に勝ち誇ったような顔をしました……エヴァンはわたくしのものなのに……驚いて立ち去ってしまった自分が情けないですわ……」


「バカだと言うことか。立ち入り禁止じゃ緩いか?」

 サイラスを見る


「いえ、それくらいにしておきましょう。もしまた何かあれば、考えましょう兄上!」

 ぶるぶると震える


 アイリスの眉がピクリと動く

「次はございませんと、申しましたわよね?」

 アイリスがエヴァンを見る

「次などない! 信じてくれ」


「サイラス殿下も聞きましたね? もし貴方の兄上が浮気のような真似をするなら、すぐにわたくしに言うように! 隠したら許しませんからね? いいですね」

「は、ハイ」


「わかればよろしい、それでは行きましょうか?お邪魔いたしました」


 仲良く手を繋いで帰っていくエヴァンとアイリスを見て似たもの同士なんだなとつくづく思ったサイラスだった。





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