上 下
45 / 46

シャロン

しおりを挟む
 
 因みにシャロンは偽名で年齢不詳といいつつも、結構なお姉さんだとマイヤー卿が言った。女性に年齢を聞くのは失礼だろうから聞かないでおこう。と心に誓った。見た目は二十代にしか見えない。
 
「シャロンさん今日も美しいです!」
「ブランドンさんだけですよ、そんな嬉しいことを言ってくれるのは」

 などと会話をしていると建物の影からランドリー係の使用人が恨めしそうに2人を見ていた。

「ブランドンさんはこちらに食材を卸して長いんですか?」
「僕は半年くらいです。契約している家に御用聞きに行って、それから街へも行きます」

 シャロンさんにデレデレとしているブランドンという男。見た感じでわかる、これはダメ男だ……

「街へ? そういえば最近行ってないわ。流行りのお店を教えてくださる?」

 シャロンが言うとブランドンはペラペラと話をする。

「シャロンさん、もしなにかいるものがあったら言ってくださいね! 手に入れてきますから」
「あら、嬉しい! その時はお願いしますわ。なんでも良いのかしら?」
「もちろんです! なんでも言ってくださいね」

 最後にぼそっとブランドンはシャロンさんになにかいった。シャロンさんはにまりと笑みを浮かべた。決定的な何かを聞いたんだろうなぁ。女性は怖い。

「シャロンは録音機器にしっかり録音していますので、大丈夫です。あのブランドンという男は昨日の飲み屋の女性と関係を持っています。今朝方部屋から出てくるところを確認しました」

 マイヤー卿はいつ寝ているんだ?

「ほらブランドンが帰りますよ」

 シャロンさんと別れ、ブランドンが帰ろうとした所にランドリー係の使用人が声を掛けていた。

「ブランドンさん! 酷い。最近冷たいと思ったらシャロンさんなんかに乗り換えたの!」
「マリーか。どうした? そんなに怒って。可愛い顔が台無しだぞ」
「しらばっくれても無駄よ! それとあの栄養剤……」

 言い淀むランドリー係のマリーという使用人。
 
「え? 効果なかった? 外国から取り寄せたペット用の栄養剤だったんだけど」

 栄養剤と言われてミルクに与えたのか!

「ミルク様、お口に合わなかったみたいで嘔吐して大変だったの」
「え! 大丈夫だったのかい!」

 驚いているが演技だよな! 白々しい。ランドリー係の子はブランドンに騙されたのだろう。

「アレックス様の機転でミルク様が助かったみたいだけど、もしアレックス様がいなかったら……ミルク様は」

 泣き出すランドリー係の子。悪意がなく栄養剤と称してミルクに与えたのか。

「マリーはネコ様を可愛がっていたからね。でもその事をお嬢様が知ったら悲しむだろうし、クビになるかもしれない。クビになるだけならまだしも厳しい罰があるかもしれない。だからここだけの秘密にしておこう」
「……うん」

 ってそんなわけあるかい! マイヤー卿と目が合い頷く。マイヤー卿は裏門の警備員に合図を送り門を閉めた。そしてシャロンさんも出てきて、2人を捕らえた。

「犯人が現場に戻ってくるって本当ですね。よく推理小説にある」

 ルヴィの影響ではないが謹慎中の息抜きで推理小説を読んだ。

「結果を知りたい、経緯が知りたいって犯人は思うんですよ。実行犯はランドリー係の子、犯人はブランドン、依頼主は飲み屋の女性ってところですね。どうしますか?」

「殺人(猫)です。貴族の家での犯行ですから罪は重いでしょうね。ランドリー係の子は何も知らなかったようだし罪を軽くしてもらうように口添えはします」

 その後ブランドンは解雇され罪を問われる事になる。飲み屋の女性は“ちょっと痛い目に遭わせたかっただけよ!” と言った。僕は貴族らしく身なりを整え変装用のメガネをかけて、飲み屋にいた時の雰囲気とはまったく違うイメージで飲み屋の女性と対峙する。


「ウチのネコは単なるペットではなく家族なんですよ。家族が苦しい思いをしているのに黙っているわけにはいけません」
「単なるネコじゃない! 死んでもその辺のネコを捕まえればいいじゃない! 路地裏にいっぱいいるわよ!」

「あなたには弟さんがいましたね? 弟さんが殺されてもその辺の孤児を連れて家族にしますか?」
「するわけないでしょ! ロビンはこの世で1人なんだから!」
「おかしいですね? ミルクもこの世でたった1匹です。僕の家族が大事に育てています」
「ネコと一緒にしないでよ!」
「ミルクは確かにネコです。言葉を発しない弱い生き物です。あなたはさっきからぎゃあぎゃあと煩い。うちのミルクの方がよっぽど賢いです」

 ミルクは人を見る。義父、義母には媚を売りキャシーの前では好き勝手して僕には爪を立てる。それでも構うとミルクは遊んでやるよ。という態度で僕に接してくる。屋敷の皆からしたらミルクは癒しの存在でミルク様などと呼ばれているくらいだ。

「ふん、私をどうするつもりよ! どうせ大した罪にならないのに」
「愛猫家の弁護士を見つけたので裁判をする事にします。裁判までは牢屋でお過ごしください。サムもそこにいるようなので、会うこともあるでしょうね、それでは失礼」

 愛猫家の弁護士に任せておけば間違いない。ネコ命の弁護士だと聞いている。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

本物に憧れた貴方とわたし

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:553pt お気に入り:309

彼女は1人ぼっちだから…

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:29,411pt お気に入り:634

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,952pt お気に入り:3,613

妹が裏表のない性格だって本当に信じていたんですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:588

貴方は好きになさればよろしいのです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,767pt お気に入り:2,842

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:4,955

お子ちゃま王子様と婚約破棄をしたらその後出会いに恵まれました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:2,785

処理中です...