上 下
43 / 46

ハンター?

しおりを挟む
「どちらから来たのですか? 初めての来店ですよね? お客さん美男イケメンだから一度みたら覚えているはずだもの」

 直接的過ぎて回答に困る。下町の女性が全員こうだとは思わないけれど、若干引いている自分がいる。

「ははっ。ありがとうございます、良かったらお姉さんも飲みませんか? お目付け役がいるだけで愛想もありませんので、一杯付き合ってください」

 酒を飲ませ、情報を引き出す作戦。

「えー。いいんですか!」
「もちろんです。何がお好きですか?」
「えっと、私あまりお酒は強くないけれど同じ赤ワインをいただいてもいい?」
 
 さらにボトルを追加して一緒に飲むことにした。僕はあまり飲まずに酒はマイヤー卿が引き受けてくれた。僕は酒にもこういう場所にも慣れてはいない。

「見れば見るほど美男ね。もう惚れちゃうわ。ううん、惚れたかも」

 トロン。とした目つきに見せかけて、獲物を狙う目をしていた。一気に鳥肌が立った。
 
「坊ちゃん、隅に置けませんね。きれいな女性から一目惚れをされるなんて!」
「社交辞令でしょうけれど嬉しいものですね。直接女性から褒められることなんてありませんから」

 嬉しいことは1つもないのだけど、ここはそう言っておこう。いい感じにワインが回ってきたようで、他愛もない話をしていたら聞いてもいない事を話してくれた。


「お兄さんたち貴族に知り合いがいる? お店の常連さんが貴族の屋敷で勤めていたんだけど、ちょっとしたことでクビになっちゃったんだって!」

「貴族に知り合いはいますがいろんなタイプがいますし、何があったかは分かりませんが罰を受けなかっただけましだったのでは? 中には鞭打ちをするような過激派もいますよ」

 ちょっとした事で使用人に鞭を打つ家だってある。うちはしないし、キャシーが聞いたら怖がるだろう。
  
「でもクビってひどくない? 給料も良かったみたいだし、ボーナスを貰った時にプレゼントをしてくれたり、高いボトルを入れてくれたりしたのよ。その常連さんが言うには自分は重宝されているから給料もいいって言ってたの。謝ったのに虫のいどころが悪くて首にされた。みたいなことを言っていたわ」

 自分のいいように解釈しているのか、見栄なのか。確かにサムには悪くない給料を支払っていた。しかしボーナスとなると話は別だ。給料が良い代わりにボーナスの支給はしない契約になっていた。となるとそのボーナスはどこから捻出されたものなのか。また問題が出てきた。

「それは災難でしたね。その人はいま何をしているのですか?」
「喧嘩をしたとかで牢屋にいるんじゃないかしら。金払いが良かったから残念がっている店の子もいるわ。色んな子に手を出していたみたいだし!」

 語尾を強めて、ぐびっとワインを飲み干した。

「それよりお兄さん今フリーなの? 良かったらまた飲みに来てほしいな」

 暑いと言って上着を脱ぎ、胸の谷間を強調してくるが、心は無。早く帰りたいとさえ思ってきた。

「そうですね。こうやって飲みに出るのも悪くないですね。素敵な出会いも……その、ありそうですし?」
「そうでしょ! また来てよ! 料理も美味しいでしょう? 人気があるのよ。食材を仕入れている店は貴族の邸にも出入りをしているの」
「貴族の邸と同じ食材を使っているのですか? このムール貝、新鮮で美味しいです」

 うちでは貝の料理が出てくることはあまりない。キャシーは貝を食べると調子が悪くなる。でもたまに食べたいというから皆が頭を悩ませる。


「貴族の邸に御用聞きに行って買ってもらうって言っていたわ」
「顔の広い方なんですね」
「金に弱いところがあるのは良くないところだけど良い人よ。ちょっとお願いしたら聞いてくれる時もあるもの。それよりこの後二人で飲みに行かない? 私の部屋……なんてどう?」

 ウィンクをして手を握られた。
 
「お酒が入ってない時の方が僕としては嬉しいですね」

 金に釣られるところがあるとは悪くない情報だ。それにしても部屋で二人……考えただけでゾワっとした。獲物を狙うハンターの目だ! 多めのチップを渡してまた来ます。と伝え店を出た。

「ウブな坊ちゃん感が出ていて良かったですよ」

 ウブというか、苦手なタイプの女性だから引いていただけだけど、こちらから近付いているのだから、あからさまに避けるわけにもいかない。店を出た事にホッと胸を撫で下ろし本題に入る。
 
「この店に食品を卸している業者と我が家の業者が同じという事ですね?」
「そうです。どうしますか、坊ちゃん?」

 調べがついていたのか。

「金に釣られるところがある。と証言がありますから金で釣るのが良いでしょうが、話を聞く限り業者の男は女好きなのではないですか? 彼女のお願いを聞くくらいですし、彼女がそんなに金を払うとは思えないんですよね……」
「そうだと思いますよ。坊ちゃんは中々筋がいいです。所々にヒントが隠されているのです。お酒を飲むとつい口が軽くなってしまいますからね。何か感じ取れる事もあったと思いますが、単独行動はダメですよ? 次はどうしますか?」

 飲み屋に通って彼女と付き合って口を割らすのが一番の近道……絶対しないけど!

「業者に金を渡しますか……貴族の家の話になるので口を割らないような気もしますし脅す行為も視野に入れないといけませんね」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【完結】見た目がゴリラの美人令嬢は、女嫌い聖騎士団長と契約結婚できたので温かい家庭を築きます

三矢さくら
恋愛
【完結しました】鏡に映る、自分の目で見る姿は超絶美人のアリエラ・グリュンバウワーは侯爵令嬢。 だけど、他人の目にはなぜか「ゴリラ」に映るらしい。 原因は不明で、誰からも《本当の姿》は見てもらえない。外見に難がある子供として、優しい両親の配慮から領地に隔離されて育った。 煌びやかな王都や外の世界に憧れつつも、環境を受け入れていたアリエラ。 そんなアリエラに突然、縁談が舞い込む。 女嫌いで有名な聖騎士団長マルティン・ヴァイスに嫁を取らせたい国王が、アリエラの噂を聞き付けたのだ。 内密に対面したところ、マルティンはアリエラの《本当の姿》を見抜いて...。 《自分で見る自分と、他人の目に映る自分が違う侯爵令嬢が《本当の姿》を見てくれる聖騎士団長と巡り会い、やがて心を通わせあい、結ばれる、笑いあり涙ありバトルありのちょっと不思議な恋愛ファンタジー作品》 【物語構成】 *1・2話:プロローグ *2~19話:契約結婚編 *20~25話:新婚旅行編 *26~37話:魔王討伐編 *最終話:エピローグ

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

辺境のいかつい領主様に嫁ぐことになりましたが、どうやら様子がおかしいようです

MIRICO
恋愛
アルベルティーヌは辺境の雪国の領主、クロヴィスとの婚約のために城へやってきた。 領地も広く鉱山のある大金持ちで、妖精のような男だと噂に聞いていたが、初めて会ったクロヴィスは頬に傷のある、がたいの良い大男だった。 クロヴィスは婚約破棄が続いていたため、姉の婚約者であるフローラン王子に勧められて婚約をすることになったが、どうやらクロヴィスは気が進まない様子。 アルベルティーヌを何とか都に帰らせようとしているが、どうやら様子がおかしい。 クロヴィスが大男だろうが、寒くて住みにくい土地だろうが、ドラゴンがいようが気にしないアルベルティーヌだったが、クロヴィスは秘密を持っていて……。 小説家になろう掲載済みです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...