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ミルク!

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「ミルクは? 見かけないんだけど」

 私の部屋にもいなかった。こんな事初めてだわ。

「ミルク様は先ほどお食事を摂られいつも通り散歩に行かれる所を見ました」
「そう? ありがとう」

 ふむ。ミルクは邸の中にいるのかしら? 天気がいいから庭に出たのかもしれないわね。

「ミルクー。ミルクーどこにいるのー? いたらこっちにいらっしゃい」

 ここまで呼んだら出て来てもおかしくないのに、不思議ねぇ。柵を越えて外に出たとか……それは危険だわ!

「ミルクーミルクってばー!」

 え? 本当にいない?!

「お嬢様、ミルク様は見つかりましたか?」

 メイド達も一緒に探してくれている。ここまで姿を見せないのは珍しいもの。

「ううん。いないの、どこに行ったのかしら。もしかしてかくれんぼしているつもりだったりして。この木陰にいたりとか――きゃぁぁぁぁぁ……」

 み、ミルクがっ!

「ミルク、ミルクっっ!」
「ミルクさまっ!」

 ミルクが嘔吐してぜぇぜぇと苦しそうにしている……

「! 息はありますね。お医者様を呼んできます。お嬢様は声をかけ続けてください」
「ミルク、どうしたの! ミルク大丈夫?!」
 
「ミルク、ミルク……辛いね、頑張ろうね、ミルク……」

「……な、どうしたの、え、ミルク?!」
「アレクっ、ミルクが死んじゃうよ……どうしよう……ミルク、ミルク」

 屋敷中がバタバタとしている

「ちょっとごめん、キャシーミルクを見せてくれ」

 アレクがミルクの様子を見て吐瀉物に顔を近づける。何してるの……アレク。

「何か甘い匂いがする。嗅いだ事がある匂いだ。ミルクの餌からはこんな匂いはしない。とにかく胃の洗浄をしよう。ミルクを放っておけない」

 すぐに水が用意されてアレクが洗浄をしているんだけど、ミルクはぐったりしているしアレクが正しいのかなんだが分かんないけど、アレクもミルクも頑張ってとしか思えない。暫くすると馬丁がやってきて、畑違いではありますけど手伝います! とミルクのお世話をしてくれた。

「今できる事はした……あとは医者に任せよう」

 お医者様が駆けつけてきてくれた。というかマイヤーさんが馬に括り付けて乗せられて来られたというか……

「お、お待たせしました。今はどういう状態で……」

 お医者様ごめんなさい。すごくぐったりとしている……私は状況が分からなくてアレクが理路整然と説明してくれた。

「ふむ。確かに甘い匂いがします。私も毒性の物だと思います。調べさせてもらいますので吐瀉物を持ち帰ります。量からして少量しか口にしてないのが幸いでした。それと胃の洗浄をされたのはとても良かったと思います。じき呼吸も落ち着くと思います」

 お医者様の言った通り暫くするとミルクはすぅすぅと寝ていた。その姿を見たら涙が出てきた。

「ミルク落ち着いたみたいで良かったな」
 
「……うん。ひっく、アレクの、おかげ、私、何にも出来なくて……ミルクが死んじゃったら、なんで、こんな事に、ひっく、ミルクいつも元気なのに、グッタリして、ミルク、」

 何にも出来なくて名前を呼んでただけで、無力なんだ。ミルクが死んじゃったらって考えてたもの。ミルク……ごめん。

「ミルクはいつもしっかり餌を食べるのに残していたからおかしいとメイド達が思っていたらしいんだ。いつもと同じ餌を与えたらしいから餌に毒物が入っていた可能性がある。残った餌は調べるとして誰がミルクをこんな目に合わせたか調べないといけない。邸の者を疑いたくないのだが調べなきゃまた同じことが起きるかもしれない。こんな悪質な事を許すわけにはいけない」

 邸の使用人を疑いたくはない。でもミルクをこんな目に遭わせた犯人を許せないわ。ミルクは喋れないんだから苦しいとか辛いとか痛いとか言えないんだもの。

「峠は超えたと思いますが油断は禁物ですな。私は家に帰りミルク様が口にしたものを調べたいと思います。翌朝また来ますのでそれまではミルク様の様子を見ていてください」

 お医者様は帰って行った。峠はこえたって……本当に死んじゃいそうだったんだ……くらり。と目眩が。

「キャシー! どうした」
「ミルクの事を考えると血の気が引いて……」
「気持ちはわかる。ミルクのことは僕たちに任せてキャシーは休んだら方がいい」

 目眩がしたからアレクに抱き止められた。

「でもミルクが心配だし、付いてたい」
「気持ちはわかる。でもキャシーに倒れられたらミルクが悲しむ。馬丁とメイド達が付いてくれるそうだし今日は休んだ方が良い。馬丁は徹夜で出産に付き合えるほどタフだし自らミルクの世話をすると言ってくれた、皆を信じられないか?」

 何時間も馬の出産に携わっている馬丁達ならプロのようなもの……

「そうね、私がいたら逆に迷惑かけるかもしれないし……お願いしようかな」

「そうと決まったら部屋で休むと良い。部屋まで送って行くから」
「今からアレクはどうするの?」
「まだやらなきゃならない事があるから帰って来たら義父上に相談するよ。その間に調べ物をしたい。おやすみ」

 額にキスをしてアレクは扉を閉めたのだった。
 
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