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野太い声

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「庭師が何の用だ?」

 体の大きな庭師のおじさんだった。あれ、この人見た事がある。幼い時に木の上から落っこちそうになった時に助けてくれた……んだっけ? あの後怒られて怖かった。

「通路があるのに無視して花を踏みつけながら歩く人がいますか! 花にだって命はあるのですよ! 口にしないだけで痛いと悲しんでいる」

 踏み荒らされた花達を見る。お花達の声が聞こえるようだわ。踏み荒らしてごめん……

「ごめんなさい。せっかくキレイに整えてくださっていたのに」

 庭師に頭を下げた。

「お嬢さんは悪くない。そう言って謝れるのだから次からはしないだろう」
「はい。約束をしますわ」
「素直でよろしい。殿下は嫌がるお嬢さんを無理やり連れてさらに庭を荒らして何をしたいんだ! って、まさかお嬢さんを連れ込んでナニを……」

 ナニをって何? 意味はわからないけれどよくない事だよね!?

「はぁ。気分が悪い、萎えた。偉そうに注意をして俺を誰だと思っている。お前なんてすぐにクビにできるんだぞっ!」
 
 え! そんな事でクビにするの? ローハン殿下って優しいイメージだったのに……嘘でしょう。だってお茶会ではずっとにこにことしていて……って。ううん、違う。外側しか見てなかった(何回目)んだってば!

「クビにすりゃ良い。そうやって気に入らない者をクビにした結果がこうだ。そして子爵家から遣わせた人間が殿下の周りを彷徨いているのだろう。すでに王族としての権威が落ちている。わしは植物の世話が出来ればどこで働いても良い。クビにするならしな!」

「それが望みならお前はクビだ! いいか。紹介状なんて書かないからな! 野垂れ死ぬ事になるだろうな!」

 え! ひどいわ!! このおじさんは悪くないのに! 人に指をさしたらいけないって習ってないの……
「行くぞ、キャサリン」

 また腕を取られそうになったけれど、次は咄嗟に腕を後ろに隠した。ここに私の味方はいない……メイド達も顔を顰めて下を向くくらいなんか言ってよね!

「庭師さん、覚えていますか? 私小さな頃木登りをして落ちそうになったところを助けてもらった事があります」

「……ん?」

 私の顔をジロジロと見て何かを思い出したように手をポンっと叩いていた。

「あの時のお嬢ちゃんか! 目の色が珍しいからすぐに思い出したぞ。大きくなられたもんだ」

「その節はありがとうございました。庭師さんうちで働きませんか!」
「ん? 紹介状なんてないぞ」
「はい。今は私の護衛? として、家に着いてから庭師として働けるように父に話をしますのでお願いします!」

 庭師のおじさんがにやり。と笑った。庭師といっても王宮で働いているからいつどこで誰に姿を見られるかわからないから、白いシャツに黒いパンツ、ブーツを履いていた。ジャケットでもあれば完璧だったんだけど、おかしく見える事はない。それに体格がいいからおじさんに隠れる事も出来そうだし……強そうだし。

「スカウトってやつだな。今はお嬢さんの護衛でしたね?」
「はいっ!」

 ちゃんとした契約はまだだけど王族が一度口にした事を覆す事は恥になるからおじさんは既にクビになっている! フリーだ。
 
「おじさん、お名前は?」
「ダニエル・マイヤーです」
「私はキャサリン・ウエストウッドです。マイヤーさんよろしくお願いしますわ」

 マイヤーさんの動きは早かった。本物の護衛さながら! 殿下から引き離してくれて王宮の総合案内的なところで馬車を借りる許可を得て、無事に家に帰ることが出来たの。家に帰りお母様にマイヤーさんの話をしたら庭師として雇ってくれると言った。お父様が帰ってきたら面談予定。アレクはまだ帰ってきてなくて、お母様に制服が汚れている事やマイヤーさんをどうして連れてきたかという話をすると、雷が落ちた……

「なんで殿下についていくの! あんたが嫌がったから婚約者候補を辞めたんでしょう! ちゃんと断りなさい! 殿下の部屋に連れて行かれていたらナニをされていたと思うの!」

 ここでもナニって……ナニって何?

「口付け……とか」

「バカっ! そんな事部屋じゃなくても出来るでしょうが!」
「そうなの? 二人きりの時にするんじゃないの?」

 沈黙の後お母様がため息を吐いた。

「……怒ってごめんなさいね。情緒系の教育を怠ったのね……そのまま雰囲気に流されて身体を奪われたらどうするの? って話よ。殿下のお手つきになったら婚約内定の令嬢の家にも迷惑がかかるし、キャシー自身が傷つく事になるわ。何のためにアレクがいるの? どうして相談しないの?」

 しようと思ったら出来たのかも知れないけれど今日はアレクと話をしていない。こんな中途半端な気持ちでアレクに向かい合って良いのか分からない。

「だって、アレク朝からいないもの。学園だって別々だったしお昼もすぐにいなくなったし、授業が終わるといなくなったし……ルヴィもその場にいたからルヴィは知っているの。でも馬車を断った時点で理由も伝えれば良かったから私が悪いの」

 反省している。お手付きと聞いて思い当たることがある。部屋に連れていかれそうになったあの時でしょ? マイヤーさんがナニをする気かと聞いていたもの。そういう事?

「分かればよろしい。罰として一週間自宅謹慎とおやつ禁止を言い渡します」

 ……自宅謹慎は問題ないけれど、おやつ禁止は厳しい。
 
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