18 / 46
猫に負けた
しおりを挟むミルクとかいう猫がうちに来てからキャシーは変わった。
「キャシー、街に行こうか?」
と誘ってみる。いつもなら喜んで行く! というのに……
「ううん、行かない。ミルクがお留守番になっちゃうもん。寂しい思いをさせたくないもの。だから少しでも一緒にいるの」
猫って気儘なんだよな? 屋敷の中を好きに歩かせときゃ良いのに……
「……それならせめて庭でお茶でもしない? 天気も良いし、」
「さっきミルクがお水を飲んでいたから、その様子を見ながらみんなでお茶をしたの。すごく可愛かったんだよ」
にこにこと機嫌よさそうにミルクとかいう猫を膝に乗せ撫でている。僕は猫に負けた……義父よ。なぜキャシーに猫を与えたんだ……
せっかく学園での騒動? が一段落してゆっくりキャシーと過ごそうと思っていたのに……あんまりじゃないか!
とぼとぼと廊下を歩いていたら父に会った。
「おや、アレクどうした? どこか具合でも悪いのかい?」
偶然通りかかった義父に声をかけられた。
「いえ。何も……ところで義父上はどこかへ行かれるのですか?」
派手ではない上品に纏められた他所行きの服装をしていた。
「今からカーター子爵と会うんだよ。言ってなかったか?」
……言っていた。一緒に行かないか? と誘われて断ったんだよな。キャシーと過ごそうと思っていたから。カーター子爵とは僕の実家の父の事。
「聞きました」
「アレクも一緒に行かないか? カーター子爵もアレクの顔を見たいと思うんだが……忙しいのかい?」
暇を持て余しているように見えたんだろう。たった今暇になりました……せっかくの誘いだし義父と一緒に出掛けるのも悪くないか。
「それなら……少し待って貰えますか? 着替えてきます」
「あぁ、エントランスで待っている。急がなくて良いからな」
はい。と返事をしてすぐに部屋へ行き着替える。急いで義父の待つエントランスへ行こうと思っていたら、キャシーと会った。
「あれ、アレクお出かけ?」
「義父上と実家の父に会いに行く事になった」
「ふぅん。そうなんだ。おじさまによろしくお伝えしてね」
? なんだ、キャシーが急にそっけないように見えた。
「あ、うん。行ってくるよ」
って見送りもなしか。寂しいもんだな……
「どうしたんだい、誘っておいてなんだが体調が悪いのなら無理しなくても良かったんだ。今なら戻れるぞ」
キャシーに断られたのが結構きている……まだあの猫が家に来てたった数日なのに僕は猫に負けたんだ……
「いえ。至って元気です」
体は元気だ。
「実父に会うのに嬉しくないのか?」
「そうですね……本音を言うと、父や兄は既に別の家の人といった感じに思えて……父の研究は人の為になる物で尊敬してますが、ウエストウッドの家が居心地が良すぎて義父上や義母上、キャシーが家族だと思っています。使用人の皆も良くしてくれるし恵まれているなぁと感謝しています」
本当に感謝しかない。こんな僕を養子にしてくれていずれは伯爵家を継がせてくれるつもりなんだから。それもキャシーと結婚しても良いとも言ってくれた。そうしたら一度伯爵家から子爵家に籍は戻され、婿養子になる。
「キャシーがアレクが寂しくならないようにと、うちに来た頃はかまい倒していたよな……アレクも面倒だっただろうによく相手してくれていたね。懐かしいなぁ」
縦巻きドリルになる前のキャシーは天使のように可愛かったんだ。少しの間おかしなことに? なっていただけ。あの髪型をしていた時はやたらと強気だったんだけど、今は毒が抜けたように昔のキャシーに戻ったようだ。
「そうですね。キャシーのおかげで今の僕があるといっても過言じゃありませんよ」
「ここ数日はアレクに構わず猫に構っているから味気ないんじゃないか?」
……バレている。
「そうだ! あの猫どうしたんですか? 人気なんでしょう?」
「あぁ、あれはロス侯爵家で生まれた子猫なんだよ。キャシーが猫を飼いたいと言っていた話を覚えてくれていて譲って貰ったんだ。命を預かるという責任がある。ちゃんと面倒を見るようにと言い聞かせたから離れないんだろうな。喜んでくれて良かった」
そうだよな……前から猫を飼いたいと言っていたけれど、もう少し大きくなってからじゃないとダメだと言われていた。あの猫を飼うことが出来て嬉しいのだろう。
「あの猫は雄でしたね」
僕は見た。しっかりと雄だった!
「はははっ。アレクは猫に妬いているんだな」
楽しそうに義父が笑っていた。その後実父に久しぶりに会った。僕に顔は似ているけれど、他人のように思えた。義父が席を外したタイミングで実父と二人になった。
「アレックスは伯爵に似てきているね。みんな君に良くしてくれているんだろう。元気そうで良かった。良かったらまた家に遊びに来て欲しい。君の母も会いたがっていたよ」
「そうですね。僕も母上や兄上の顔を見たいです。近いうちにお邪魔します」
父は帰っておいで。とかおかえり。とは絶対に言わない。遊びにおいで。というんだ。それは僕はもう伯爵家の息子だから。
「今度は麦だけではなく米も育てているんだ。研究結果がそろそろ出る頃だから見においで」
研究に没頭しているんだろう。麦だけではなく、病気に負けない米を作っているのか。小麦の代わりに米粉なるものを使ったパンがもちもちしていて美味しいそうだ。それは気になる……
15
お気に入りに追加
474
あなたにおすすめの小説
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女
かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!?
もふもふに妖精に…神まで!?
しかも、愛し子‼︎
これは異世界に突然やってきた幼女の話
ゆっくりやってきますー
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
【完結】いいえ。チートなのは旦那様です
仲村 嘉高
恋愛
伯爵家の嫡男の婚約者だったが、相手の不貞により婚約破棄になった伯爵令嬢のタイテーニア。
自分家は貧乏伯爵家で、婚約者の伯爵家に助けられていた……と、思ったら実は騙されていたらしい!
ひょんな事から出会った公爵家の嫡男と、あれよあれよと言う間に結婚し、今までの搾取された物を取り返す!!
という事が、本人の知らない所で色々進んでいくお話(笑)
※HOT最高◎位!ありがとうございます!(何位だったか曖昧でw)
アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる