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猫に負けた

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 ミルクとかいう猫がうちに来てからキャシーは変わった。

「キャシー、街に行こうか?」

 と誘ってみる。いつもなら喜んで行く! というのに……

「ううん、行かない。ミルクがお留守番になっちゃうもん。寂しい思いをさせたくないもの。だから少しでも一緒にいるの」

 猫って気儘なんだよな? 屋敷の中を好きに歩かせときゃ良いのに……

「……それならせめて庭でお茶でもしない? 天気も良いし、」
「さっきミルクがお水を飲んでいたから、その様子を見ながらみんなメイド達でお茶をしたの。すごく可愛かったんだよ」

 にこにこと機嫌よさそうにミルクとかいう猫を膝に乗せ撫でている。僕は猫に負けた……義父よ。なぜキャシーに猫を与えたんだ……

 せっかく学園での騒動? が一段落してゆっくりキャシーと過ごそうと思っていたのに……あんまりじゃないか!

 とぼとぼと廊下を歩いていたら父に会った。

「おや、アレクどうした? どこか具合でも悪いのかい?」

 偶然通りかかった義父に声をかけられた。

「いえ。何も……ところで義父上はどこかへ行かれるのですか?」

 派手ではない上品に纏められた他所行きの服装をしていた。

「今からカーター子爵と会うんだよ。言ってなかったか?」

 ……言っていた。一緒に行かないか? と誘われて断ったんだよな。キャシーと過ごそうと思っていたから。カーター子爵とは僕の実家の父の事。

「聞きました」
 
「アレクも一緒に行かないか? カーター子爵もアレクの顔を見たいと思うんだが……忙しいのかい?」

 暇を持て余しているように見えたんだろう。たった今暇になりました……せっかくの誘いだし義父と一緒に出掛けるのも悪くないか。

「それなら……少し待って貰えますか? 着替えてきます」

「あぁ、エントランスで待っている。急がなくて良いからな」

 はい。と返事をしてすぐに部屋へ行き着替える。急いで義父の待つエントランスへ行こうと思っていたら、キャシーと会った。

「あれ、アレクお出かけ?」

「義父上と実家の父に会いに行く事になった」

「ふぅん。そうなんだ。おじさまによろしくお伝えしてね」

 ? なんだ、キャシーが急にそっけないように見えた。

「あ、うん。行ってくるよ」

 って見送りもなしか。寂しいもんだな……

「どうしたんだい、誘っておいてなんだが体調が悪いのなら無理しなくても良かったんだ。今なら戻れるぞ」

 キャシーに断られたのが結構きている……まだあの猫が家に来てたった数日なのに僕は猫に負けたんだ……

「いえ。至って元気です」

 体は元気だ。

「実父に会うのに嬉しくないのか?」

「そうですね……本音を言うと、父や兄は既に別の家の人といった感じに思えて……父の研究は人の為になる物で尊敬してますが、ウエストウッドの家が居心地が良すぎて義父上や義母上、キャシーが家族だと思っています。使用人の皆も良くしてくれるし恵まれているなぁと感謝しています」

 本当に感謝しかない。こんな僕を養子にしてくれていずれは伯爵家を継がせてくれるつもりなんだから。それもキャシーと結婚しても良いとも言ってくれた。そうしたら一度伯爵家から子爵家に籍は戻され、婿養子になる。

「キャシーがアレクが寂しくならないようにと、うちに来た頃はかまい倒していたよな……アレクも面倒だっただろうによく相手してくれていたね。懐かしいなぁ」

 縦巻きドリルになる前のキャシーは天使のように可愛かったんだ。少しの間おかしなことに? なっていただけ。あの髪型をしていた時はやたらと強気だったんだけど、今は毒が抜けたように昔のキャシーに戻ったようだ。

「そうですね。キャシーのおかげで今の僕があるといっても過言じゃありませんよ」

「ここ数日はアレクに構わず猫に構っているから味気ないんじゃないか?」

 ……バレている。

「そうだ! あの猫どうしたんですか? 人気なんでしょう?」

「あぁ、あれはロス侯爵家で生まれた子猫なんだよ。キャシーが猫を飼いたいと言っていた話を覚えてくれていて譲って貰ったんだ。命を預かるという責任がある。ちゃんと面倒を見るようにと言い聞かせたから離れないんだろうな。喜んでくれて良かった」

 そうだよな……前から猫を飼いたいと言っていたけれど、もう少し大きくなってからじゃないとダメだと言われていた。あの猫を飼うことが出来て嬉しいのだろう。

「あの猫は雄でしたね」

 僕は見た。しっかりと雄だった!

「はははっ。アレクは猫に妬いているんだな」

 楽しそうに義父が笑っていた。その後実父に久しぶりに会った。僕に顔は似ているけれど、他人のように思えた。義父が席を外したタイミングで実父と二人になった。


「アレックスは伯爵に似てきているね。みんな君に良くしてくれているんだろう。元気そうで良かった。良かったらまた家に遊びに来て欲しい。君の母も会いたがっていたよ」

「そうですね。僕も母上や兄上の顔を見たいです。近いうちにお邪魔します」

 父は帰っておいで。とかおかえり。とは絶対に言わない。遊びにおいで。というんだ。それは僕はもう伯爵家の息子だから。

「今度は麦だけではなく米も育てているんだ。研究結果がそろそろ出る頃だから見においで」


 研究に没頭しているんだろう。麦だけではなく、病気に負けない米を作っているのか。小麦の代わりに米粉なるものを使ったパンがもちもちしていて美味しいそうだ。それは気になる……





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