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嫌がらせ?

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「ないのよ……」

「何が?」

「ハンカチ。ここに置いたはずなの」

 場所取りをするためにハンカチを置いた。

「なんだろうね。気持ち悪いな」

「……うん。一応紛失届出しておくね」 

「キャサリン、アレックス、席あった?」

 遅れてきたルヴィにもハンカチの件は伝えた。場所取りのためのハンカチはなくなったけれど、席は空いていたので座ることにした。話をしていたら楽しくてハンカチのことはすっかり忘れていて、日直の仕事をしていた。帰りにみんなのノートを集めて職員室へ持っていこうと思い廊下を歩いてきた時に、急に躓いてノートをばら撒いてしまった。

「……いたた」

 何に引っかかったかは分からないけど自分が思うよりも足が上がっていなかったのかもしれない。もしかして段差が? ないわねぇ。歩く時に両手が塞がる事がなかったから前が見えなかったのかもしれない。今のでちょっと足を捻ったかもしれないけれどばら撒いてしまったノートを拾い職員室に届けた。汚れていなけれど良いわね、と一冊ずつささっと手で払った。

 ノートを無事? 提出し頭を下げて職員室を出た。足に違和感はあるけれど歩けない程ではない。家に帰って冷やせばなんとかなるか……アレクが教室で待っているから早く行かなきゃ! 階段は負担が掛かるけれどゆっくり上り下りすれば問題ないか。

「キャサリン嬢!」

 声をかけられ振り向くとそこにはローハン殿下が居た。まさか殿下に声をかけられることになるとは思わなかった。いままでのお茶会でも自分が近くにいかないと声をかけてもらえなかったから。

「殿下にご挨拶申し上げます」

 頭を下げる。優しい殿下の事だから“ここは学園だから気にしないで。ここでは身分なんて関係ないよ”って言われるのかと思いきや……

「頭を上げて良い」

 ん? そうきますか? まぁ上げますけれども……

「何かご用でもおありでしたでしょうか?」

 首を傾げて聞いてみた。用事がなければ声なんて掛けないよね……どうせまた私を笑う気なんでしょうね! 王族だし無視出来ないし表面上微笑んで答える。マナーの先生にとりあえず微笑んでおけば間違いないと言われた(適当すぎない?)

「あ、あぁ……来週末に母が茶会を開くんだけど良かったら君も来ないか?」

 ハイ? ナニイッテンノ? コノヒト(不敬)

「……お茶会ですか? 招待は受けておりませんので勝手に行くわけには参りませんわ」

「……来て欲しいと思っているんだが、私からの招待と言うことで……どうだろうか?」
 
 何を言っているのだろうか? 婚約者候補を辞退する家が続出したから新たに婚約者候補を選び直すお茶会と聞いている。今までは伯爵家以上の家に限られていたのに貴族の家ならオッケーと範囲は広まったと聞いた。それにセリアさんという方がいらっしゃるのに婚約者候補ってバカげている。

「申し訳ございません。その日は予定があるのです」

「私はだね、君を婚約者にしたいと思ってい、」
「キャシー! 遅いから迎えに来た」

 カバンを持ってアレクがきてくれたようだ。助かったわ! ナイスタイミング!

「殿下? こんなところで……どうされましたか?」

「アレックス殿か。今大事な話をキャサリン嬢としているのだ。貴殿には関係のないことだ」

 大事な話なんてしてないよね? ナニイッテンノ?

「あれ? キャシー、足どうかした?」

 ん? あっ。転んだ時の? 意識していなかったけれど庇っていたのね。

「アレックス殿、無視するな、」

「そこで躓いちゃって少し足を捻ったみたい」

 スカートが転んだ時に少し汚れたみたいで、払う。

「なんだって! すぐに帰ろう、医師の手配をさせなきゃ。殿下話はまた今度にしてください!」

「お、おい」

「なんですか? 怪我をしている令嬢を拘束して立ち話なんて紳士の行いではありません。失礼します」

 ひょいっと抱えられて馬車まで歩き出すアレク。殿下がこちらを見ているわね。とりあえず頭を下げといた。

「歩けるから! 腕を貸してくれれば良いのに」

「また転んだらどうするんだよ。それにこっちの方が早い」

 足の長さ? アレクめ、短足と言いたいのか。

「重くない? カバンもあるのに」

「大丈夫。筋トレだと思えば辛くない」

「……ヒドイ! 重くないよ。とか言ってよ」

「迷惑かけてごめんね。とか私の為に……とか言って欲しいくらいだよ」

「そうよね。アレクが来てくれて助かったわ。迷惑かけてゴメンね、ありがとう。これでいい?」

「キャシーは重くなんてないよ。羽のように軽くて重さが感じられない……これでいい?」

 二人でぷっと笑った。そして馬車の中で降ろされた。

「どこで躓いた?」

「廊下。もっと足を上げて歩くようにしないと。両手が塞がっていたからのせいもある」

「……そう。気をつけて」

 それから何故かキャサリンの周りでちょっとした不思議な事が起きた。

「キャサリン嬢だよね? これは君のかな?」

 先輩からノートを渡されたので確かめることにした。パラパラとページを捲ると私の物で間違いなかった。
 
「はい。私のものです。ありがとうございます、これはどこで?」

 ノートには足跡がべったりと付いていた。先輩が気がついて払ってくれたけど……このノートは一昨日無くしたものだった。

「焼却炉の近くに落ちていたけれどまだ新しいものだったし名前が書いてあったから直接渡しにきたと言うわけだよ」

「ご丁寧にありがとうございました」

「いや、気にしないでくれ」

 顔を赤らめて戻っていく先輩。名前を聞き忘れた……確か伯爵家の子息だったわね。

「何? どうかした」

「先輩がノートを届けてくれたのよ」

「最近キャシーはよく物をなくすよね? ちゃんと管理しときなよ」

 ……管理はしているけれど、勝手になくなるのだから困った物だ。今回は運良くノートが戻ってきたけれどやはり気持ちのいい物ではない。

 それから数日後、食堂で躓き食器を落としてしまった。明らかに足を掛けられた……

 アレクがすぐに駆けつけてくれて周りの人たちも声をかけてくれた。

 迷惑をかけて恥ずかしいわ。しばらく食堂へ行くのは控えよう……

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