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入学準備
しおりを挟むキャサリンは来月に迫った入学式の準備に追われていた。
「学力は問題ありませんね」
家庭教師に言われてキャサリンは満足していた。ローハン殿下のお隣に立つ為にはバカではダメだものね!
キャサリンは不器用ながらに令嬢の嗜みともいえるお針仕事も頑張っている。大きな作品を作れと言われれば厳しいけれど刺繍、ボタンをつけるくらいならその辺の令嬢と変わらないくらいのレベルにまで達しているだろうと思う。
「キャシー? 制服が出来上がったそうだから試着してみたらどう?」
義兄のアレックスが呼びにきた。なぜアレックスが呼びにきたかと言えばアレックスも同時に入学となるから。義兄と言っても年齢は同じだが十ヶ月アレックスが早く生まれたから。
「うん。合わせてみるわね」
制服のスカートの丈はショート・ミドル・ロング丈と選べる形になっている。ショートと言っても膝丈で若い子たちの間では普段着でもショート丈は人気だ。素足を見せる事はないのでタイツの着用は当然のこと。
でもキャシーが選んだのはミドル丈。ロングより動きやすいからという理由とショート丈は恥ずかしいから。かと言ってロング丈だと重苦しいし、そこは乙女の恥じらいと上品に見えるであろうミドル丈を選択。
「どう? 似合う?」
くるくると回ってみせた。うん、自分で言うのもなんだけど軽やかね!
「良いんじゃない? でも髪型がゴージャスすぎて制服には合わないよ」
……む。確かにシルエットが大きいかも。
「ローハン殿下に似合うって言われたからこの髪型で行くわ」
私は縦巻きロールを維持するわよ。縦巻きロールのリタイヤが多い現状で最後の一人になるまで……
その時はそう思っていた。
入学式を迎えると毎日ローハン殿下に会えるわね! とウキウキしていた入学一週間前にある噂がキャサリンの元に入ってきた。
ガチャン……
「え……?」
「平民の女とローハン殿下が腕を組んで仲良さそうに歩いていたらしいわ」
同じく婚約者候補で伯爵家のルヴィとのお茶会で言われた。ルヴィはキャサリンの友達でかつてのドリル仲間でもある。歳は同じく十三歳。
「平民が? ローハン殿下と? なんで?」
平民の子を侮辱するわけでは無いの! 優秀だから学園に入ったわけだし……でも。
「……学園には一定の優秀な平民がいます。殿下と同じクラスで友人となったと聞いたわ」
悲痛な面持ちのルヴィ。ルヴィもローハンを慕っていた。中々決まらないローハンの婚約者に淡い期待を寄せてもおかしくはない。
「そんな……」
「入学式の舞踏会ではその平民をエスコートするのだと噂になっているのよ。兄が学園に通っているので間違いないわ」
この事が原因でローハン殿下の婚約者候補における選定が遅れているのかもしれないわ!
「それに、殿下が言うには婚約者は自分で選びたいと……平民と言う事は学力的には優秀でしょうしお顔も可愛らしいんだって」
その後ルヴィとのお茶会は解散となり、入学式を迎えることになった。
自分の目で見るまでは、信じない! と思っていたけれど、入学初日に仲良さそうに噂の女の子とローハン殿下が親そうにお茶を飲んでいる姿をみてしまった。ショックを受けて時間が止まったように感じているとローハン殿下と目が合った。
「やぁ、そういえば今年入学だったね。おめでとう。君は相変わらずだね」
相変わらずって? 君って?
「ローハン、知り合い? 本当にローハンは女の子の知り合いが多いんだから、妬けちゃうわ」
顔をプクッと膨らませて一緒にいた女の子に言われたローハン殿下。
「ごめんごめん。これも貴族との付き合いなんだ。面倒かもしれないけど慣れて欲しい」
「そうなの? それにしても……ゴージャスな方ね。ザ! 貴族って感じね」
くすくすと笑う女の子。
「貴族なんてみんなそんなものだよ。それに彼女はまだ良い方だからそんな風に言ってはダメだよ。学園に身分は関係ないけれど、嫌な貴族もいるんだからね。敵を作るのは賢明じゃ無いよ」
「分かったわ。よろしくお願いしますね」
ローハン殿下と一緒にいる女の子に言われた。ここで無様な姿を見せるわけにはいかなかった。
「……えぇ。こちらこそ。それでは失礼致します」
なんとか挨拶して去ろうとした。
『すごい髪型ね……』
『あぁ。彼女は昔から変わらないんだよ』
『固そうな髪ね。いつの時代の髪型なの?』
『俺はセリアの柔らかい髪の方が良いかな』
ローハン殿下はセリアと呼ばれている女の髪に触れた。それを見て早足で二人の前から逃げるように去るとくすくすと二人は笑っていた。
敵は作らない方が賢明ですって? 私はローハン殿下やあの子の敵なの?
応援ありがとうございます!
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