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オフィーリアは変わらない
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~ジルベルト視点~
僕がメガネをかけていても、かけていなくても、僕だって分かるのか。僕の顔がカッコいい? 初めて言われた。
“キレイな顔”
“お母様にそっくりね”
“女の子みたい”
王都では貴族らしさを求められるからキレイに着飾っていると“男女”と言われ幼心に傷ついた。
領地ではシャツにパンツというラフな格好で過ごせるし、領民と共に町を良くしようと貴族としての振る舞いをしなくてもいいから楽だった。
母は花が好きで町が花でいっぱいになる事を望んでいた。花を育てる余裕がない領民もいるけれど心は豊かになると言った。
父は町がキレイだと犯罪も減る。と言った。母はよく町に行き領民と会話をしたし、教会に顔を出したり、自ら花を植えたりしていた。そんな母を領民達も慕っていた。
ある日母が乗った馬車が事故に遭い呆気なく亡くなった。一時間前までは元気だったのに……それから家の中は暗くて母の死に向き合う事も出来なかった。喪に服しているといえば聞こえが良いけど何にもする気が起きなかった。邸にいて父といても辛いだけだし、外に出てみた。すると領民達は朝早くから仕事へ行く前に花の世話をしていた。
「坊ちゃんおはようございます。ほら奥様が植えてくださった花がキレイに咲きましたよ。種を取って来年もキレイに咲かせましょう」
領民達は母の事を思ってくれていた。辛い、悲しい。と邸に籠っている僕たちを母はどう思っているだろうか……呆れるだろうか? 怒るだろうか?
領民達は逞しい。その時に領民に支えられているんだと思った。母の死を受け入れない限り前には進めない。
町が見渡せる丘の上に母の墓所がある。領民達はここにも花を絶やさずに置いてくれている。昔母が作っていたシロツメクサの冠をなんとなく作ってみた。歪で人に渡せるようなものではないけれど、母の墓所に置いた。きっと笑ってくれるだろう。下手くそって。
あぁ……寂しいな。そう思って泣いた。声をあげて泣いたのはその時が初めてだった。
泣いた後はすっきりした。寂しいと思っても良いんだよな? 不慮の事故で亡くなった母だけど、母の思いは生きていると感じることができた。
父は相変わらず元気がない。でも領主としてそれではいけないと思っているようだった。だから早朝の町に連れて行った。
「領主様、おはようございます!」
領民に挨拶をされ父も気丈に振る舞っている。母の育てていた花について領民は説明をした。父は目を細めて話を聞いていた。その後父は無言だった。それから花を手向に行こうと墓所に向かった。父は墓所を見て涙を流した“領民に愛されていたんだね”
僕はそっとその場を離れた。父が泣いている姿を初めて見たから。邸へ帰る馬車の中で父が言った。
「今年は花まつりを開催しようか。いつかやりたいってカトリーヌが言っていたから」
「良いと思う。僕たちも前に進もうよ、父さん」
「寂しいな。でも頑張ろう」
「うん。寂しいね」
母が亡くなってからようやく動き出せた。父は領民に感謝し町の発展に更に力を入れるようになった。
僕も町に出る。すると“奥様そっくりだ”と言われる。親子だから似ていて当然だけど、鏡を見るのが辛く感じる時もあった。
たまに王都へ行くと“夫人にそっくりだ。女だったら妻にしたいくらいだ”と揶揄された。父は僕の顔を見て辛くないのかな……そんな事を思うようになった。
王都の貴族は嫌いだ。何も知らないくせに好き勝手いうから。でもルシアンとフローリア嬢は違った。
「ジルベルトがいないと伯爵は余計に寂しいだろう」
「最愛の妻の子ですものねぇ」
「花まつりか。良いな」
「私たちも行きましょう」
「ジルベルトの顔はキレイだから勿体無いぞ!」
「顔で言い寄られるのが嫌なんでしょう? ジルは絶対モテるのにね」
僕の友人は二人しかいない。それでも満足だった。伯爵家の子息というだけで近寄ってくる貴族や、顔が良いとか面倒な付き合いはしたくない。表面上はどれだけでも繕えるようになったけれど内心は面倒。でも領民の為だと笑っていられた。
気持ちが落ち着いた時にたまたま教会に来ていた女の子に目が行った。領民ではないな……町娘風だけど貴族だ。どこの子だろう? と最初は疑っていたが、気さくに神父と話す姿や笑う顔は可愛いと思った。
女の子を見て可愛いと思ったのはその時初めてだった。その後また町で女の子を見かけて、転んだ女の子に声をかけハンカチを渡した。普通の貴族はそんな事を絶対にしない。
数年後再会して僕の顔を覚えていてくれた。嬉しかった。
僕がメガネをかけていても、かけていなくても、僕だって分かるのか。僕の顔がカッコいい? 初めて言われた。
“キレイな顔”
“お母様にそっくりね”
“女の子みたい”
王都では貴族らしさを求められるからキレイに着飾っていると“男女”と言われ幼心に傷ついた。
領地ではシャツにパンツというラフな格好で過ごせるし、領民と共に町を良くしようと貴族としての振る舞いをしなくてもいいから楽だった。
母は花が好きで町が花でいっぱいになる事を望んでいた。花を育てる余裕がない領民もいるけれど心は豊かになると言った。
父は町がキレイだと犯罪も減る。と言った。母はよく町に行き領民と会話をしたし、教会に顔を出したり、自ら花を植えたりしていた。そんな母を領民達も慕っていた。
ある日母が乗った馬車が事故に遭い呆気なく亡くなった。一時間前までは元気だったのに……それから家の中は暗くて母の死に向き合う事も出来なかった。喪に服しているといえば聞こえが良いけど何にもする気が起きなかった。邸にいて父といても辛いだけだし、外に出てみた。すると領民達は朝早くから仕事へ行く前に花の世話をしていた。
「坊ちゃんおはようございます。ほら奥様が植えてくださった花がキレイに咲きましたよ。種を取って来年もキレイに咲かせましょう」
領民達は母の事を思ってくれていた。辛い、悲しい。と邸に籠っている僕たちを母はどう思っているだろうか……呆れるだろうか? 怒るだろうか?
領民達は逞しい。その時に領民に支えられているんだと思った。母の死を受け入れない限り前には進めない。
町が見渡せる丘の上に母の墓所がある。領民達はここにも花を絶やさずに置いてくれている。昔母が作っていたシロツメクサの冠をなんとなく作ってみた。歪で人に渡せるようなものではないけれど、母の墓所に置いた。きっと笑ってくれるだろう。下手くそって。
あぁ……寂しいな。そう思って泣いた。声をあげて泣いたのはその時が初めてだった。
泣いた後はすっきりした。寂しいと思っても良いんだよな? 不慮の事故で亡くなった母だけど、母の思いは生きていると感じることができた。
父は相変わらず元気がない。でも領主としてそれではいけないと思っているようだった。だから早朝の町に連れて行った。
「領主様、おはようございます!」
領民に挨拶をされ父も気丈に振る舞っている。母の育てていた花について領民は説明をした。父は目を細めて話を聞いていた。その後父は無言だった。それから花を手向に行こうと墓所に向かった。父は墓所を見て涙を流した“領民に愛されていたんだね”
僕はそっとその場を離れた。父が泣いている姿を初めて見たから。邸へ帰る馬車の中で父が言った。
「今年は花まつりを開催しようか。いつかやりたいってカトリーヌが言っていたから」
「良いと思う。僕たちも前に進もうよ、父さん」
「寂しいな。でも頑張ろう」
「うん。寂しいね」
母が亡くなってからようやく動き出せた。父は領民に感謝し町の発展に更に力を入れるようになった。
僕も町に出る。すると“奥様そっくりだ”と言われる。親子だから似ていて当然だけど、鏡を見るのが辛く感じる時もあった。
たまに王都へ行くと“夫人にそっくりだ。女だったら妻にしたいくらいだ”と揶揄された。父は僕の顔を見て辛くないのかな……そんな事を思うようになった。
王都の貴族は嫌いだ。何も知らないくせに好き勝手いうから。でもルシアンとフローリア嬢は違った。
「ジルベルトがいないと伯爵は余計に寂しいだろう」
「最愛の妻の子ですものねぇ」
「花まつりか。良いな」
「私たちも行きましょう」
「ジルベルトの顔はキレイだから勿体無いぞ!」
「顔で言い寄られるのが嫌なんでしょう? ジルは絶対モテるのにね」
僕の友人は二人しかいない。それでも満足だった。伯爵家の子息というだけで近寄ってくる貴族や、顔が良いとか面倒な付き合いはしたくない。表面上はどれだけでも繕えるようになったけれど内心は面倒。でも領民の為だと笑っていられた。
気持ちが落ち着いた時にたまたま教会に来ていた女の子に目が行った。領民ではないな……町娘風だけど貴族だ。どこの子だろう? と最初は疑っていたが、気さくに神父と話す姿や笑う顔は可愛いと思った。
女の子を見て可愛いと思ったのはその時初めてだった。その後また町で女の子を見かけて、転んだ女の子に声をかけハンカチを渡した。普通の貴族はそんな事を絶対にしない。
数年後再会して僕の顔を覚えていてくれた。嬉しかった。
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