上 下
6 / 61

それから二年

しおりを挟む
 オフィーリアは十四歳になった。

「姉様待ってよ!」
「こっちこっち!」

 はぁはぁと息を整えるアンドリュー。

「はぁ、やっと追いついた……」


 領地に来てから丸ニ年が経った! アンドリューの体調も良くなり、驚くほど元気になった。まだ安心は出来ないけれど食事の量も増えたし顔色も良いの。

 お医者様が言うには王都は埃っぽくて、元々気管支の弱いアンドリューには辛い環境だったみたい。空気の良さって健康に繋がるんだとつくづく思ったし、領地って他の貴族の目もないから楽なんだわ! ストレスフリーよ。


 そんな中でも遊んでばかりはいられなくて領地に着いてからすぐに教師が呼ばれてアンドリューと共に学んだ。
 アンドリューは身体が弱かった事から本を読むことが多くて、私よりも二つ年下なのに授業について来れるほど優秀なの!  

 私の点数はと言うと……



「上の下と言った感じですね。良くてAクラスに入れると思います」

 教師が言った。Aクラスといっても一学年では関係なくて二年生になってからなんだけどね。一年学年のうちはいろんな人と交流を持つためクラスは成績順ではない。


「Aクラスで下位にいるかBクラスで上位になるかどっちがいいと思う?」

 難しい選択だわ。これを間違えると学園生活は厳しくなるわよ……アンドリューはAクラス確定だろうけど、私は凡人だもの……


「もう少し努力してAクラスの下の上にいた方がいいと思うよ」

 そう言う考えもあるのね! 下の上って考えるともう少し頑張れそうな気がする。アンドリューさすが賢い。

「分かった……頑張る」

 アンドリューは元気になってからは剣術まで習うようになった。ひ弱である事にコンプレックスを抱いているみたい。



「ここで何するの?」
「ピクニック! もうすぐ昼食を届けてもらえるの」


 緩やかな流れのきれいな川のほとりだった。

「先に言ってよ! それなら植物図鑑を持ってくればよかった」

「また来れば良いでしょう? それよりも」

「ちょ。ちょっと何してるの! 人に見られたらどうするのさ」

 タイツをガーターから外して足を出した。

「誰もいないもん」

 そう言って川の水に足をつけた。

「気持ちいい……リューも足つかったら?」
「いや、僕はいい……」

 と言って目線をあさっての方向にやる。

「なんでよ! 一人じゃ楽しくないわよ。ちゃんとタオルも持ってきているわよ」
「僕は見張っているから、姉様は好きにしてて……」

 せめてこっちを見て話したらどうなのよ! と思ったけれど、喧嘩するつもりはないからやめた。

「見張りなんて良いのに。誰も来ないわよ」


 ちゃぷちゃぷと足を上下に浸からせている。もう少しスカートを上げないと濡れちゃうわね。シルクのワンピースだからシミになると怒られちゃう。

 空を見ながらちゃぷちゃぷと足を浸からせていると、馬車が近づく音が聞こえてきた。邸のメイド達が食事を持って来てくれたのだろう。


「そろそろ上がって……ってなんて格好をしてるの! 姉様は一応伯爵家令嬢だよ! 足を丸出しにして……姉様は露出狂なのか!」


 露出狂って……少し太ももが見え隠れするくらいで大袈裟な……十二歳に怒られる十四歳って……

「姉様はあと一年もしたら貴族学園に通って大人の仲間入りになるんだよ? こんな姿見られたら嫁の貰い手が無くなるんだからね!」


「……大袈裟ね、とにかくみんなが来るまでにタイツを履くからリューは見張ってて! それとも私がタイツを履くところ見ていたいの?」


 と言うと顔を赤くさせて後ろを向いた。アンドリューはしっかりとしてきたわね。こんなに口うるさくなるとは思わなかったけれど元気になってよかった。

 それから木陰で昼食タイムとなった。それにしても青空の下で取る食事は良いわね。

「ねぇ、帰りは町に寄ってみない?」
「良いけど、また買い食い?」

 失礼な弟め!

「みんながどんな顔をしているかみたいの。楽しそうに生活をしていると良いなって思って」


 町に花を増やしたいと両親に言ったら、反対はされなかったけど難しい事だって言われた。生活もままならない人が中にいるのに反対されるかもしれないって。

 でも悪いことではないし町の美観にも繋がるから数年計画との事になった。

 庭師に相談して、今年咲いて来年また使い回しできるような花を選ぶ。春にはチューリップ、夏にはグラジオラスなど球根が増えてお金がかからなく、目を楽しませてくれるものを中心に……それと勝手に増えるだろうハーブも植えた。


 ハーブに関しては大成功ですくすくと育って花を咲かせる種類もあるし、お茶でも楽しめたり料理にも使えると領民に人気だ。

 目下の野望はハーブ園を作りたい。そしてそのハーブでいろんな物を作りたい。ステンドグラスが美しい町には敵わないけれど、うちの領地も中々きれいに清掃されているわよね!



「あ、ゴミ……」

「……姉様、素手でゴミを拾うのやめてくれ」

「だって、町が綺麗だと気持ちがいいじゃないの! みんなだって綺麗にしてくれているし、私も協力したいのよ」

 流石に素手で拾っちゃダメよね。気をつけます。


「気持ちはわかるけど早く帰ろう。ピアノの練習あるだろう? サボるとまた手が動かなくなるよ」

「そうね、しっかりした弟がいて安心だわ。ミルクジェラート食べてから帰ろ」

「……また食べるのか。良いけど」


 って失礼ね! 少し歩いたから良いの! 





しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

お飾り王妃は愛されたい

神崎葵
恋愛
誰も愛せないはずの男のもとに嫁いだはずなのに、彼は愛を得た。 私とは違う人との間に。 愛されたいと願ったお飾り王妃は自らの人生に終止符を打ち――次の瞬間、嫁ぐ直前で目を覚ました。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

結婚を先延ばしにされたのは婚約者が妹のことを好きだったからでした。妹は既婚者なので波乱の予感しかしません。

田太 優
恋愛
結婚を先延ばしにされ続け、私は我慢の限界だった。 曖昧な態度を取り続ける婚約者に婚約破棄する覚悟で結婚する気があるのか訊いたところ、妹のことが好きだったと言われ、婚約を解消したいと言われた。 妹は既婚者で夫婦関係も良好。 もし妹の幸せを壊そうとするなら私は容赦しない。

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」  王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。 「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」 「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」 「……それはそうかもしれませんが」 「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」  イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。 「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」  こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。 「そ、それは嫌です!」 「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」  イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。  ──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。  イライジャはそっと、口角をあげた。  だが。  そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

処理中です...