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あれ? この人は……

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「あれ? 私お風呂に入って……」

 チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえ朝日が差してくる時間だった。

「バスローブで寝ちゃったの?」

 記憶がない。疲れてどっぷりと寝てしまったようだ。眠りが深かったようで、疲れが吹き飛んだみたい! 

「バラの香りに癒されたのかもしれないわね!」

 ワンピースに着替えてキッチンへと向かった。焼きたてパンの香りがする!



「デビス、おはよう」

 なぜかビクッとするデビス

「お、おはよう……ございます」

 目も合わさないなんてなんかある! でもデビスは何か隠していても私に気付かせないようにするはず。


「なに?」

「リアは、その……昨日はよく眠れましたか?」



「えぇ。湯船に浸かっていた事までは覚えているけれど起きたらベッドで寝ていたの。ちゃんとベッドに行ったのは良いけれどバスローブで寝たのね。気をつけないとね」


「……そうですか」

 ほっとするデビスは朝から私の好きなクロワッサンを焼いてくれていた。カフェラテも用意されていて、フルーツとヨーグルトに私の好きなものばかり。


「ねぇ、朝から私の機嫌をうかがってる?」

「え! どうしてですか?」

「だって私の好きなものばかり並んでいるもの」

「気のせいですよ。たまたまです」


「怪しい……」


「ほ、ほら早く食べてください。開店準備もありますから」


 怪しい……


******


 それからしばらくは忙しい日々を過ごした。


「ありがとうございました!」

 今日はありがたいことに朝からカフェにお客様がたくさん来てくれた!

 お昼を過ぎた頃、お会計を済ませた客席を片付けようとしたら、椅子に日傘が立てかけてあった! お客様の忘れ物だわ。

 今ほど会計を済ませたばかりだから、急げば間に合うかもしれない。



「デビス、ちょっと忘れ物を届けに行ってくるわね!」

「えぇ! ダメだよ。俺が行く」

「デビスはお客様の顔を知らないでしょう? こんな事を言い合っているうちに遠くへ行くかもしれないから行ってくるわね」

「リア!」

「すぐに戻るから!」





 と小走りで店を出て行ってしまった。一人で出かけるなんて! 追いかけようとすると

「すみませーん」

 とお客様から声が掛かった。

 ちっ! リア早く帰ってきてくれ!



******


「わざわざありがとうございました」

「いえいえ、間に合って良かったです! 素敵なパラソルですね」


「海の街に行った時に買ったのよ。お気に入りなのに忘れるなんて……気をつけるわ。本当にありがとう、また寄らせてもらうわね」


「はい。お待ちしておりますね」


 良かった、間に合って。ちょっとだけ話し込んじゃった。デビスが心配するから帰らないと……


 家の方へ向きを変えて歩き出そうすると、ドンっと体がぶつかり

「きゃぁ」

 盛大に転んで膝が地面についたのだった。

「いったぁい……」

「よそ見してんじゃねぇよ、田舎者か? なんだ! よく見ると可愛い顔してんじゃねぇか」



 ジロジロと不躾に人の顔を見る大きな男の視線が私の足元に。


「怪我してんじゃねぇか? よし。俺がみてやろうか。足だしな! 舐めてやるよ」

 ニヤリと笑う大きな男が私の足に……触れてこようとした!


 きっ、きもちがわるいっ! 逃げなきゃ。地面に手を付き立ち上がろうとした。


「待った? 何してるのこんなところで?」

 あ、あれ? この人……

 若い男の人はにこりと笑って手を差し伸べてきた。

「なんだてめぇは! この子は俺が、」


「リアちゃん!」

「あ、マダム……」

 髪を切って貰い、この街で初めて知り合いになったマダムだ!


「騒がしいから何かと思えば! リアちゃんに何の用だ!」

 街の人が集まってきたので大きな男の人は居た堪れない顔をして、ちっ。と舌打ちをし

「前見て歩けよ!」

 と悪者が言いそうな捨て台詞を吐いて去って行った!



「大丈夫?」

 出された手を掴んで起こしてもらった。親切だなぁ。

「あ、はい」

 膝を見ると血が出ていた。ストッキングも破けていて見苦しい……

「血が出ている! 医者に、」


「……見苦しい姿を見せてしまいました。家で消毒をしますので、気になさらないでください」

「リアちゃん、この人と知り合いかい?」

 マダムに言われて首を振る。

「そうかい! あんたもありがとね。リアちゃん送るよ」

 マダムに言われ、親切な男の人にお礼をして歩こうと思った

「いたっ……マダムすみません手を借りても良いですか?」

「勿論だよ、」


「送っていくよ! そんな姿じゃ帰せないよ。その様子じゃ家は近いんだろう?」

 若い男の人はやはり親切な人のようで、家まで送ってくれると言う。

「大丈夫で、」

「いいから乗って」

 上着を肩にかけられておんぶの体制を取られた。

 え! えぇっっっ見知らぬ人の(しかもイケメン)背中に乗るなんてハードル高すぎ! 無理です。


「いえ、それは」

「そう? 抱き抱えても良いかな?」

 一旦地面に下ろされ、抱き抱えられた。

「え? 抱き、きゃぁ」
 
 横抱きって言うか、お姫様だっこ?! 顔が近いっ!


「ダメです。恥ずかしいです!」

「じゃあ、はい乗って、遠慮はなしだよ。これも何かの縁に違いない」

「リアちゃん、送ってもらおう。ったくダンナは何してんだい! こんな時に!」




 店番ですよ。マダム!






 
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