22 / 35
開店準備です
しおりを挟む「本は高いところには積まないようにしましょう。女性のお客さまが取りにくいでしょう?」
本棚に本を並べているとデビスに言われた。脚立を人前で登るのは確かに勇気がいるものね。
「そうね。上の棚はどうするの?」
少し寂しい空間のようにも思えるけれど。
「季節の小物を飾ったり、写真を置いても良いのでは?」
「そうね。季節を感じるのは良い事だわ」
本を並べるのに数日かかった。髪を切ってくれたマダムにブックカフェを開くと言ったら次の日に読まなくなった本を譲ってくれたのだ。正直助かる。読んだことのない絵本などとても興味を惹かれた。喜んでいるとマダムが街の人に声をかけてくれて街の人も協力してくれて思ったよりも早く本が増えた!
街の人には感謝をしなくてはいけない。私も何か困っている人がいたら必ず助けよう。って思った。
本をあらかた並べ終わったら次はブックカフェで出すフードメニューを決める。
一階にも厨房がある。カフェなのだからやはりスイーツは必然!
「リア、何か希望はありますか?」
「うーん。そうねぇ。あ! アップルパイは? 孤児院でも子供たちが喜んでくれたし私も大好きだから! あとチーズタルトもドーナツもマフィンも美味しかったわね」
「成程……分かりました。材料の買い出しに行きますか?」
「えぇ!」
街へ買い物へ行く前にデビスが思い出したように
「ここのカフェは今人気なんですよ! 偵察がてらお茶をしましょうか?」
「良いわね!」
あれからお金の話はしなくなった。デビスが嫌がるからだ。それと不思議な事に荷物の整理をしていると私のカバンの中に見慣れないものが入っていることに気がついた。
家族写真やお母様の指輪、お父様のブローチ、お兄様の万年筆、ジュリアの髪飾り。デビスに聞くと、ため息混じりに、さぁ? と言われたのでお母様の仕業かもしれない。写真は飾っておく事にした。
それにやたらと重たい巾着が出てきて、その中には金銀宝石……これはお父様の仕業だと思った。
お父様にプレゼントしてもらったお気に入りのピンクダイヤやブルーダイヤは希少なものだったから置いてきたのに、なぜか荷物に入っていた。在処を知っていたのは私のメイドをしていたサラ……。多分だけどお母様と共犯ね。
ありがたいけれど、持たせすぎだと思うわね。贅沢をしなければ多分このお金と宝石で生きていけそうな気がするわ。なんて考えていると、目の前には
「わ! チョコレートケーキだわ! コーヒー? 初めて飲むわ」
「コーヒーは苦味がある飲み物で帝国で良く飲まれているものです。帝国では今やお茶よりもコーヒーを好む人が増えているとの事ですよ」
帝国とはこの国の南側にあるこの辺で一番大きい領土を持つ国だ。
「そうなの? デビスは詳しいわね」
「初めて飲む場合は苦いので砂糖やミルクを入れた方がいいよ」
「えぇ、緊張するわ……」
! 苦い。でも懐かしいわ! コーヒーを眠気覚ましに飲んでいた記憶が蘇る。
「どうですか?」
「苦いけれど、クセになる……そんな感じね」
その後満足して店を出ると、コーヒー豆の販売店があった。
「気になりますか?」
「えぇ、とても!」
中に入ると40代くらいの男性に声をかけられた。ここの主人だそうだ。
焙煎機でコーヒーを煎る香りが鼻腔をくすぐった。そのほかにもコーヒー器具の販売もしていて、エスプレッソというさっき飲んだよりも苦くて濃いコーヒーが作れる器具もあり、説明を受けた。
……要するに、これでカフェラテが作れるということね! 是非購入をしなくては!
「コーヒーを淹れる為の器具って実験みたいで、見た目にも楽しいわね。店内から見えるところに置けばインテリアにもならない?」
「それは良いね、そうしよう」
私たちの会話を聞く主人は
「店を開くのかい?」
「えぇ、実はブックカフェを開店します。今は開店準備中なんですよ」
デビスが言うと、卸価格で売ってくれるとの事! やった!
「散髪屋のマダムに聞いていたんだよ、若いのにこの国へ来た二人がいると、応援しているぞ。そうだ、これ持っていきな」
「お菓子ですか?」
「コーヒーのお供にはピッタリだぞ、帝国ではこれをコーヒーに浸して食べたりするんだ」
固くて細長いクッキーのようなものだった。ナッツも入っていて美味しそう。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
二人で頭を下げて出て行った。
「リアと出かけると何かしら発見があるようで楽しいですね」
「それは街の人が親切だからでしょう?」
「それもありますが、リアが楽しそうだから。だと思います」
「顔に出ていた? 私楽しいの。これからお店の経営を手伝えるなんて、信じられないもの。私も何か作れるかなって考えるだけでも楽しいわ」
「リアが作る? ……それは賛成できませんね」
「なんで!」
「包丁を使って指を切ったり、火を使って火傷したり、コップを割って怪我をしたり……それに手が荒れます! 無理です」
「あのね、私とデビスは夫婦なんでしょ? 妻なんだからそれくらい当たり前よ! 絶対にするから」
「……簡単な作業でお願いします。あと本を触るときは手袋をしてください」
「そうね! 本が汚れるもの、気をつけるわ」
「紙で切った傷は意外と深いですからね。地味に痛いんですよ。凶器です!」
「昨日少し切ったのよ、確かに、」
手を取られどこですか! と聞かれ人差し指を見せた。
「塗り薬を買いに行きます! 後はクリームと手袋と、」
ぶつぶつ独り言を言い手を繋いだまま歩き出すデビス、相変わらず過保護だと思った。
あ
ハンドクリームを買う際に、いい香りのするボディクリームやシャンプー、トリートメント、ソープなども購入した。
化粧水や保湿剤は値が張るにも関わらず良いものを揃えてくれた。
「メイドや侍女はいませんから、リア自身で行ってください。湯船に浸かる際は私に声をかけてください。溺れたら困るので近くにいます」
「いえ、それはちょっと、遠慮するわ」
「……それならば、ベルを置いておきます。ベルが鳴らない場合は強制的に浴室へ入りますから!」
「わ、分かったから!」
「水が苦手なんだから遠慮はしないで欲しい。夫婦なんだから」
「遠慮する所はあっても良いと思うの」
夫婦と言っても婚姻届を出したわけではない、移住して一年は犯罪に手を染めない、逮捕歴がないと分かった時点で受理されるのだそう。
だから夫婦と言っても、仮夫婦と言ったところ。だからデビスに伝えなきゃ。好きな人と結婚した方がいいって! 私の二の舞はゴメンだもの。本当に婚姻届を出すと言ったら伝えればいいわね。
16
お気に入りに追加
2,851
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる