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開店準備です

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「本は高いところには積まないようにしましょう。女性のお客さまが取りにくいでしょう?」

 本棚に本を並べているとデビスに言われた。脚立を人前で登るのは確かに勇気がいるものね。

「そうね。上の棚はどうするの?」

 少し寂しい空間のようにも思えるけれど。

「季節の小物を飾ったり、写真を置いても良いのでは?」

「そうね。季節を感じるのは良い事だわ」

 本を並べるのに数日かかった。髪を切ってくれたマダムにブックカフェを開くと言ったら次の日に読まなくなった本を譲ってくれたのだ。正直助かる。読んだことのない絵本などとても興味を惹かれた。喜んでいるとマダムが街の人に声をかけてくれて街の人も協力してくれて思ったよりも早く本が増えた!

 街の人には感謝をしなくてはいけない。私も何か困っている人がいたら必ず助けよう。って思った。


 本をあらかた並べ終わったら次はブックカフェで出すフードメニューを決める。

 一階にも厨房がある。カフェなのだからやはりスイーツは必然!


「リア、何か希望はありますか?」

「うーん。そうねぇ。あ! アップルパイは? 孤児院でも子供たちが喜んでくれたし私も大好きだから! あとチーズタルトもドーナツもマフィンも美味しかったわね」

「成程……分かりました。材料の買い出しに行きますか?」

「えぇ!」


 街へ買い物へ行く前にデビスが思い出したように

「ここのカフェは今人気なんですよ! 偵察がてらお茶をしましょうか?」

「良いわね!」


 あれからお金の話はしなくなった。デビスが嫌がるからだ。それと不思議な事に荷物の整理をしていると私のカバンの中に見慣れないものが入っていることに気がついた。


 家族写真やお母様の指輪、お父様のブローチ、お兄様の万年筆、ジュリアの髪飾り。デビスに聞くと、ため息混じりに、さぁ? と言われたのでお母様の仕業かもしれない。写真は飾っておく事にした。


 それにやたらと重たい巾着が出てきて、その中には金銀宝石……これはお父様の仕業だと思った。


 お父様にプレゼントしてもらったお気に入りのピンクダイヤやブルーダイヤは希少なものだったから置いてきたのに、なぜか荷物に入っていた。在処を知っていたのは私のメイドをしていたサラ……。多分だけどお母様と共犯ね。

 ありがたいけれど、持たせすぎだと思うわね。贅沢をしなければ多分このお金と宝石で生きていけそうな気がするわ。なんて考えていると、目の前には


 
「わ! チョコレートケーキだわ! コーヒー? 初めて飲むわ」


「コーヒーは苦味がある飲み物で帝国で良く飲まれているものです。帝国では今やお茶よりもコーヒーを好む人が増えているとの事ですよ」

 帝国とはこの国の南側にあるこの辺で一番大きい領土を持つ国だ。

「そうなの? デビスは詳しいわね」

「初めて飲む場合は苦いので砂糖やミルクを入れた方がいいよ」

「えぇ、緊張するわ……」



 ! 苦い。でも懐かしいわ! コーヒーを眠気覚ましに飲んでいた記憶が蘇る。

「どうですか?」

「苦いけれど、クセになる……そんな感じね」

 その後満足して店を出ると、コーヒー豆の販売店があった。


「気になりますか?」

「えぇ、とても!」


 中に入ると40代くらいの男性に声をかけられた。ここの主人だそうだ。

 焙煎機でコーヒーを煎る香りが鼻腔をくすぐった。そのほかにもコーヒー器具の販売もしていて、エスプレッソというさっき飲んだよりも苦くて濃いコーヒーが作れる器具もあり、説明を受けた。


 ……要するに、これでカフェラテが作れるということね! 是非購入をしなくては!


「コーヒーを淹れる為の器具って実験みたいで、見た目にも楽しいわね。店内から見えるところに置けばインテリアにもならない?」


「それは良いね、そうしよう」


 私たちの会話を聞く主人は

「店を開くのかい?」

「えぇ、実はブックカフェを開店します。今は開店準備中なんですよ」

 デビスが言うと、卸価格で売ってくれるとの事! やった!


「散髪屋のマダムに聞いていたんだよ、若いのにこの国へ来た二人がいると、応援しているぞ。そうだ、これ持っていきな」

「お菓子ですか?」


「コーヒーのお供にはピッタリだぞ、帝国ではこれをコーヒーに浸して食べたりするんだ」

 固くて細長いクッキーのようなものだった。ナッツも入っていて美味しそう。


「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

 二人で頭を下げて出て行った。


「リアと出かけると何かしら発見があるようで楽しいですね」

「それは街の人が親切だからでしょう?」

「それもありますが、リアが楽しそうだから。だと思います」


「顔に出ていた? 私楽しいの。これからお店の経営を手伝えるなんて、信じられないもの。私も何か作れるかなって考えるだけでも楽しいわ」


「リアが作る? ……それは賛成できませんね」

「なんで!」


「包丁を使って指を切ったり、火を使って火傷したり、コップを割って怪我をしたり……それに手が荒れます! 無理です」


「あのね、私とデビスは夫婦なんでしょ? 妻なんだからそれくらい当たり前よ! 絶対にするから」



「……簡単な作業でお願いします。あと本を触るときは手袋をしてください」

「そうね! 本が汚れるもの、気をつけるわ」

「紙で切った傷は意外と深いですからね。地味に痛いんですよ。凶器です!」

「昨日少し切ったのよ、確かに、」


 手を取られどこですか! と聞かれ人差し指を見せた。


「塗り薬を買いに行きます! 後はクリームと手袋と、」

 ぶつぶつ独り言を言い手を繋いだまま歩き出すデビス、相変わらず過保護だと思った。


 ハンドクリームを買う際に、いい香りのするボディクリームやシャンプー、トリートメント、ソープなども購入した。
 化粧水や保湿剤は値が張るにも関わらず良いものを揃えてくれた。


「メイドや侍女はいませんから、リア自身で行ってください。湯船に浸かる際は私に声をかけてください。溺れたら困るので近くにいます」


「いえ、それはちょっと、遠慮するわ」

「……それならば、ベルを置いておきます。ベルが鳴らない場合は強制的に浴室へ入りますから!」

「わ、分かったから!」

「水が苦手なんだから遠慮はしないで欲しい。夫婦なんだから」

「遠慮する所はあっても良いと思うの」



 夫婦と言っても婚姻届を出したわけではない、移住して一年は犯罪に手を染めない、逮捕歴がないと分かった時点で受理されるのだそう。


 だから夫婦と言っても、仮夫婦と言ったところ。だからデビスに伝えなきゃ。好きな人と結婚した方がいいって! 私の二の舞はゴメンだもの。本当に婚姻届を出すと言ったら伝えればいいわね。


 


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