私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

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二人だけの記念日

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 今日は記念日です。え? 何のって、それはリアンさんが私を見つけてくれた日。本当の誕生日を知らなかった私達はこの日を私の誕生日にしたんだよ。でも本当の誕生日はあったから、出会った日って言う事にしたの。


 今までは二回誕生日をしてくれていた家族にもこの事を説明したら、あ、そう。って言われて去年は誕生日プレゼントを一回しかくれなかったんだよね。

 パパなんて口を聞いてくれなかったの! だから私も次の日にパパの真似をして口を聞かなかったら謝ってきたんだけど、寂しいんだって……そんなの私もだよ! でもしょうがないのも分かっているみたいだしくだらない事でギクシャクするのは嫌だよ。



 今日はリアンさんと朝からデートする。晴天に恵まれて気持ちいい朝だ。

 私がそわそわしているとメイド達は嬉しそうに準備をしてくれる。

「綺麗にしてね。リアンさんを驚かせたいから」

 いつものように外出着は歩きやすいワンピースだけど、この日の為に持ってきた物だった。

「こちらのワンピースはいつもと雰囲気が違いますね」

 クールなものは似合わないから、いつもは可愛い服を選びがちだけれど、先日行ったお店でクール&スイートと言うミックスされた物があったので、購入したのだ。ママも悪くないんじゃない? って言ってくれたから悪くないんだろう。


「髪型も変えてみましょう。メイクは薄めにしておきますね。先日はフロリアン様に謝罪されましたが……控えてくださいましね」

 ……あれ、ね。きゃぁぁっ。顔がにまにましてきた!


「お嬢様は本当にフロリアン様の事がお好きなのですね」

「えぇ。だって素敵だもの! 嫌って言われても押しかけ女房になるつもりよ」

「……フロリアン様に限ってそれはないかと。押しかけ女房なんて言葉をどこで覚えてきたのですか……」
 
 呆れるメイド達。


「だってどこをどうみてもカッコいいでしょう? あの優しい眼差しで見つめられたらキュンってなってドキドキしておかしくなりそうだもの。逞しい腕とかずっと離したくないって思うもの」

 その瞳に他の女の人を映して欲しくない。って言ったら引かれるかな……引かれるよね。

「その優しい眼差しを向ける相手はお嬢様にだけです。わたくし達はフロリアン様のそんな姿を未だかつて見たことございません。ご安心ください」

「そうだったら良いなぁ」


 今日は記念日だからおしゃれして、お出かけして夕食を食べる予定。どこに行くのかなぁ……リアンさんが計画してくれたって言うのが嬉しい。

 用意ができて、リアンさんに会いに行く。

「お待たせしました」

「……いや、そんなに待っていないから気にするな。行こうか……」

「はーーい」

 自然に腕を組んで歩いた。足元は軽やか。

「どうした? わかりやすいほどにご機嫌だな」

「え、だって今日はリアンさんに出会って十三回目の記念日でしょう? 四歳の時に見つけられて、今十七歳だから」

「時が経つのは早いな」


 馬車に向かおうと歩いていた時だった。

「フロリアン様っ!」

 執事が走って呼び止めた。

「なんだ? 騒がしいな……」


「お客様が来られると連絡が……」

「ちっ。忙しいと言って断ってくれ。俺は休暇中だ」

「……それが、バルト殿下から急用ということでして……」







「嫌な予感しかしない……」

「マリアベルお嬢様の同席をお願いしたいと言う事です」

「わたくしも?」

 せっかくのデートが台無しだ! あの王子め!

 ******

「マリア……その顔何とかならないのか?」

「どんな顔!」

「頬を膨らまして怒っているのが丸わかりだ……」
 
「せっかくのデートなのに。記念日だよ?」

「とにかく話だけ聞いて帰ってもらおう。俺だって残念だよ」

 出掛ける寸前でストップをかけられた。大した話じゃなかったらどうしてやろうか……!



「やぁ、フロリアン殿に、マリアベル嬢。急に悪かったね」

「……どうされましたか? 急を要する話でしたか?」

 リアンさんは落ち着いて話を聞いていた。私はお預けを食らった犬のように待て! の、状態。

「そうだな。急を要するさ。マリアベル嬢、私と婚約してくれないか?」

「「へ?」」

 リアンさんと声が重なり、目が合った。何て言った?

「君の事をずっと探していた。ようやく会えた。そんな気がしたんだ」

「ちょ。ちょっと待ってくださいバルト殿下はマリアベルと会った事がありませんよね? それなのになぜ」

 そうだよ! 会ったが事ないのに……この王子おかしいよ!

「運命っていうか……DNAと言うか、やはり私は父の子なんだな。好みが似ているというか」

「あの……先日の夜会でお話をしましたが殿下はわたくしの母に姿を重ねておられるのですよね?」

「父に聞く話によると、先に正妃が……私の母なんだけどね。側妃と言う身分が気に入らなかったのではないかと言っていた。だから当てつけのようにロマーニ侯爵とすぐに婚約をしたと言う話だ。父はとても後悔していたよ」

 ……なんだろう?

「私には婚約者がいるんだが、きちんと婚約をなかったことにして、別の相手をあてがうつもりだ」

「殿下、なぜそのような事をする必要があるのでしょうか?」

 リアンさんが冷めた声で聞く。私はもう聞きたくないよ!

「マリアベル嬢、どうか私と婚約をして欲しい。そして未来の王太子妃、将来王妃として隣にいてほしい」

 ……聞きたくなかった。


「それは無理な話です。貴方の婚約者殿は貴方の隣に立つ為にどれだけ努力をしてきた事でしょう。殿下の我儘で婚約をなかったことになどできないでしょう。いくら王族として強い立場にあるとしても相手の気持ちを考えてあげてください。令嬢にとって婚約破棄など心に傷を残すような真似はいただけません」

 そうだ、そうだ! 最悪だよこの王子。

 
 
  

 
 

 
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