私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

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西の大国の王子

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「お久しぶりですバルト殿下」

「夜会に令嬢を伴っているのは初めて見ます。とても美しい方ですね。レディお名前を伺ってもよろしいですか?」

 胡散臭い笑顔だ……苦手。


「初めてお目にかかります。マリアベル・ロマーニと申します」

「バルト殿下、彼女は私のでございます」


 更に笑顔になり、手を取られキスを落とされた。ひぇぇぇぇ……


「レディは隣国のロマーニ侯爵家のご令嬢? 確か夫人の実家はペルソナ公爵家でしたね」

 詳しすぎて胡散臭いよ! この人。


「はい。おっしゃる通り私の父はロマーニ侯爵で、母の実家はペルソナ公爵家です」

 なんなのー! この人。手を離して!


「なるほど。こんな縁があったとはね。私の父があなたの母上に求婚していたのはご存知ですか?」

「いえ……」

 ママってば西の大国の陛下に求婚されていたの! パパと結婚してくれて良かった! 


「バルト殿下、失礼ですが私達は、」

 リアンさんが助け舟を出してくれた! そうだよ。私達は今から庭園デートなんだから! そっとバルト殿下から手を離してくれた。


「フロリアン殿。レディと一曲ダンスをお付き合いいただいても構いませんか? レディよろしいですか?」


 断れないやつだ……ここで断ればパートナーのリアンさんにも悪いし……基本は誰を誘っても良いんだし、最初に婚約者のリアンさんと踊ったし後は自由なんだよね。ここはダンスを楽しむ場でもある。

「……喜んで」

「マリア、ここで待っているから」

「フロリアン殿は随分過保護でいらっしゃるのですね。レディを信用していないのでは? それに貴方と踊りたいレディ達が沢山いるのではないですか?」
 
 むっ。いちいちカチンとくる。


「フロリアン様、一曲だけ踊って来てもよろしいですか? 余所見しないで待っていてくださいね」

「……分かった」

 軽く頬にキスを落としてくれた。みんなの前で! ラブラブだね。


 手を取られてダンスを踊った。なんでこのタイミングでスローな音楽になるのよ! ちょっと密着しないで……気持ち悪いよ! 愛想笑い出来てるかな。



「このまま貴女を攫って国へ行っても構いませんか?」

 苦笑いするしかない(……構います。攫われるのはもうゴメンです)


「一目惚れを信じますか?」

 なんとか苦笑い(……勝手な思いを押し付けるのはどうかと思います)


「まだ婚約段階なんですよね?」

(……もう婚約者です。国同士の架け橋的な存在です)


 苦笑いも出来なくなってきたーー!


「私の父は貴方の母上を未だに思っていますよ。姿絵を見せてもらったことがある。貴方にとても似ていますね」

「……殿下はわたくしではなく母の若い時の姿に惹かれているのですね」


 ちょっと急に抱きしめてこないで! 顔を近づけないで!

「マナー違反ですわね。ダンスを楽しめませんので」

 と言って身体を離そうとした。


「私に婚約者がいますが貴女が私と婚約者してくれるのなら婚約破棄をしても良いと思っています。側妃や愛妾にするつもりはありません。正妃として迎えたい」

 会ったばかりの見知らぬ女にこんな事を言うなんて、おかしいでしょう!

「謹んでお断り致します。わたくしはフロリアン様をお慕いしています」


 無理無理無理無理無理だから!


 あ、曲が終わる! ちょっと腰に手を回さないで! よろけた瞬間に足を踏んだ。顔を歪めた隙にダンス終了の一礼をしてリアンさんの元へ一人で向かう。

 パートナーの元へ戻してくれるのは礼儀だけどそんなの関係ないよね!


「リアン様!」


 フロアを出て約束通り庭園デートだ。

「あの男近寄りすぎだろ! 嫌なことされたか?」

「うん。気持ち悪かったよ……あの人ママの昔の姿に私を重ねているみたいだった」

「どう言う意味だ?」

 ダンスの間の話を説明した。



「なるほどな……この話は俺に任せておけ。親父と陛下と侯爵にも俺から伝えておく。ロマーニ夫人には言わない方が良いだろう」

 そうだよね。ママに言ったら絶対気にするよね。それに気持ち悪いもんね。


「うん。お願いします。きっと伯父さんも協力してくれると思うから何かあったら伯父さんにも言ってみて」


「西の大国の王子か……随分と身分の高い相手に気に入られるんだな、マリアは……」

 ボソッとリアンが言った。





「わぁー綺麗だね。ここだけ別世界みたいだよ」

 庭園に着くとライトアップがなんとも美しい。ロマンチック!


「そうだな。普段の庭園の様子とは違って見えてすごく綺麗だ」

 あれ? なんかリアンんさん元気がない。

「どうしたの? 声に元気がないよ」


「ん? マリアは気にしなくて良い。俺の問題だよ」

 そんなこと言われても気になるに決まっている。

「言ってくれなきゃ分かんないよ。せっかく綺麗な庭園を見ているのにリアンさんが元気ないとつまらないよ」


 リアンさんの手を引いてベンチに腰掛けた。

「リアンさん、私との結婚面倒になった?」

「は?」


「リアンさんが嫌だって言ってもマリア押しかけ女房になるから! リアンさんが、」

「待て。なぜそうなった? 俺は嫌だなんて言ってないし思ってもいないぞ。マリアは俺の隣に立てるように頑張ると言ってくれたが、それは俺の台詞だ。マリアは色んな男に狙われている。婚約期間中に取られないようにするにはどうすれば良いかと考えていただけだ」

「リアンさんのばか! 好きじゃない人にモテても気持ち悪いだけだよ! リアンさんにモテたいの」


「相変わらず熱烈だな……」

「マリアはね、リアンさんともっとキスしたいと思うし触れたいと思うし、結婚したくてしょうがないんだよ。軽蔑する?」


 もう押し掛けるつもり満々だから好きなことを言っちゃおう!

「するわけないだろう……バカなのはマリアの方だな。俺がどれだけ抑えているか知らないいんだな。その発言に後悔するなよ」

 ニヤリと笑い目が鋭く光った? 

 







 
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