上 下
73 / 81

西の大国の王子

しおりを挟む

「お久しぶりですバルト殿下」

「夜会に令嬢を伴っているのは初めて見ます。とても美しい方ですね。レディお名前を伺ってもよろしいですか?」

 胡散臭い笑顔だ……苦手。


「初めてお目にかかります。マリアベル・ロマーニと申します」

「バルト殿下、彼女は私のでございます」


 更に笑顔になり、手を取られキスを落とされた。ひぇぇぇぇ……


「レディは隣国のロマーニ侯爵家のご令嬢? 確か夫人の実家はペルソナ公爵家でしたね」

 詳しすぎて胡散臭いよ! この人。


「はい。おっしゃる通り私の父はロマーニ侯爵で、母の実家はペルソナ公爵家です」

 なんなのー! この人。手を離して!


「なるほど。こんな縁があったとはね。私の父があなたの母上に求婚していたのはご存知ですか?」

「いえ……」

 ママってば西の大国の陛下に求婚されていたの! パパと結婚してくれて良かった! 


「バルト殿下、失礼ですが私達は、」

 リアンさんが助け舟を出してくれた! そうだよ。私達は今から庭園デートなんだから! そっとバルト殿下から手を離してくれた。


「フロリアン殿。レディと一曲ダンスをお付き合いいただいても構いませんか? レディよろしいですか?」


 断れないやつだ……ここで断ればパートナーのリアンさんにも悪いし……基本は誰を誘っても良いんだし、最初に婚約者のリアンさんと踊ったし後は自由なんだよね。ここはダンスを楽しむ場でもある。

「……喜んで」

「マリア、ここで待っているから」

「フロリアン殿は随分過保護でいらっしゃるのですね。レディを信用していないのでは? それに貴方と踊りたいレディ達が沢山いるのではないですか?」
 
 むっ。いちいちカチンとくる。


「フロリアン様、一曲だけ踊って来てもよろしいですか? 余所見しないで待っていてくださいね」

「……分かった」

 軽く頬にキスを落としてくれた。みんなの前で! ラブラブだね。


 手を取られてダンスを踊った。なんでこのタイミングでスローな音楽になるのよ! ちょっと密着しないで……気持ち悪いよ! 愛想笑い出来てるかな。



「このまま貴女を攫って国へ行っても構いませんか?」

 苦笑いするしかない(……構います。攫われるのはもうゴメンです)


「一目惚れを信じますか?」

 なんとか苦笑い(……勝手な思いを押し付けるのはどうかと思います)


「まだ婚約段階なんですよね?」

(……もう婚約者です。国同士の架け橋的な存在です)


 苦笑いも出来なくなってきたーー!


「私の父は貴方の母上を未だに思っていますよ。姿絵を見せてもらったことがある。貴方にとても似ていますね」

「……殿下はわたくしではなく母の若い時の姿に惹かれているのですね」


 ちょっと急に抱きしめてこないで! 顔を近づけないで!

「マナー違反ですわね。ダンスを楽しめませんので」

 と言って身体を離そうとした。


「私に婚約者がいますが貴女が私と婚約者してくれるのなら婚約破棄をしても良いと思っています。側妃や愛妾にするつもりはありません。正妃として迎えたい」

 会ったばかりの見知らぬ女にこんな事を言うなんて、おかしいでしょう!

「謹んでお断り致します。わたくしはフロリアン様をお慕いしています」


 無理無理無理無理無理だから!


 あ、曲が終わる! ちょっと腰に手を回さないで! よろけた瞬間に足を踏んだ。顔を歪めた隙にダンス終了の一礼をしてリアンさんの元へ一人で向かう。

 パートナーの元へ戻してくれるのは礼儀だけどそんなの関係ないよね!


「リアン様!」


 フロアを出て約束通り庭園デートだ。

「あの男近寄りすぎだろ! 嫌なことされたか?」

「うん。気持ち悪かったよ……あの人ママの昔の姿に私を重ねているみたいだった」

「どう言う意味だ?」

 ダンスの間の話を説明した。



「なるほどな……この話は俺に任せておけ。親父と陛下と侯爵にも俺から伝えておく。ロマーニ夫人には言わない方が良いだろう」

 そうだよね。ママに言ったら絶対気にするよね。それに気持ち悪いもんね。


「うん。お願いします。きっと伯父さんも協力してくれると思うから何かあったら伯父さんにも言ってみて」


「西の大国の王子か……随分と身分の高い相手に気に入られるんだな、マリアは……」

 ボソッとリアンが言った。





「わぁー綺麗だね。ここだけ別世界みたいだよ」

 庭園に着くとライトアップがなんとも美しい。ロマンチック!


「そうだな。普段の庭園の様子とは違って見えてすごく綺麗だ」

 あれ? なんかリアンんさん元気がない。

「どうしたの? 声に元気がないよ」


「ん? マリアは気にしなくて良い。俺の問題だよ」

 そんなこと言われても気になるに決まっている。

「言ってくれなきゃ分かんないよ。せっかく綺麗な庭園を見ているのにリアンさんが元気ないとつまらないよ」


 リアンさんの手を引いてベンチに腰掛けた。

「リアンさん、私との結婚面倒になった?」

「は?」


「リアンさんが嫌だって言ってもマリア押しかけ女房になるから! リアンさんが、」

「待て。なぜそうなった? 俺は嫌だなんて言ってないし思ってもいないぞ。マリアは俺の隣に立てるように頑張ると言ってくれたが、それは俺の台詞だ。マリアは色んな男に狙われている。婚約期間中に取られないようにするにはどうすれば良いかと考えていただけだ」

「リアンさんのばか! 好きじゃない人にモテても気持ち悪いだけだよ! リアンさんにモテたいの」


「相変わらず熱烈だな……」

「マリアはね、リアンさんともっとキスしたいと思うし触れたいと思うし、結婚したくてしょうがないんだよ。軽蔑する?」


 もう押し掛けるつもり満々だから好きなことを言っちゃおう!

「するわけないだろう……バカなのはマリアの方だな。俺がどれだけ抑えているか知らないいんだな。その発言に後悔するなよ」

 ニヤリと笑い目が鋭く光った? 

 







 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

処理中です...