私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

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団長

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「団長ー! おはよー!」

 練習場にリアンと手を繋いでマリアベルがやってきた。見た事のない身長の高い男と大事なお嬢様マリアベルを見てギョッとするロマーニ家の騎士団長。

「お、おはようございます……お嬢様、その方は一体?」

 驚きを隠せずに少し吃ってしまう騎士団長だった。

「えへ。マリアの大好きで大事な人だよ!」


 マリアベルはデビュタントを迎えて世間的には大人の仲間入りをした。大好きで大事な人と紹介されて団長は大きな勘違いをした。

「……お嬢様ももうそのような年齢になられたのですね」


「おい、マリア。団長さんは何か勘違いしているようだ、お前は言い方が誤解されやすいんだな……」

 首を傾げるマリアベル。

「なんで? 間違ってないもん。マリアはリアンさんのことずっと大好きで大事だもん。団長、今日はリアンさんも一緒にお稽古したいの。良い?」


 団長は感慨深い様子でマリアベルを見ていた。あの小さかったお嬢様にも大事な人ができたんだと。自分の娘を見るように接してきた大事なマリアベルだったので、嬉しいような寂しいような気持ちで一杯だった。それに剣を嗜む人だと言うことは喜ばしきこと。



「勿論です! お嬢様の大事な方ならば私にとっても大事な方ですからね。さ、どうぞどうぞ!」

 団長は練習場に案内し好きな木刀を選んでください! と木刀が並んでいる場所へリアンを案内する。

「朝っぱらから申し訳ない。私はフロリアン・フォン・オットーと申します」

 リアンは団長に頭を下げた。

「申し遅れました。私はロマーニ公爵家の騎士団長ジルベルト・ベインと申します」

 握手をする二人。



「リアンさんマリアの素振り見て!」

 ヒュンヒュンと風を切る素振りの音。軽く木刀を振っているようで力強い。変に力が入っていないようで素晴らしい……

「ほぉ。これは……」

「お嬢様はセンスがありますよね! 教えてくれていた方がいるようでその方の教え方が良かったのでしょう。八歳の時点でとてもお上手でした」

 そうか。俺の振り方に似ているのか?


「リアンさんもどうぞ!」

 ふぅ。と一息ついてマリアベルが笑顔で言った。

「そうだな。やるか」

 と言ってリアンは木刀を力強く振る。それをにこにことしながらマリアベルはずっと見ていた。しばらくしてマリアベルと団長の視線を感じて声を掛けるリアン。

「なにか?」

 団長に声を掛けると

「オットー殿、どうかうちの若いものを鍛えてやってくれませんか?」

 と頼み込む団長。

「いえ、俺なんかよりも、」

「いいえ。貴方様にお願いしたいのです。少しだけで構いません。軟弱なあいつらを叩きのめしてやってください!」

 頼まれて断れなくなるリアン。体を動かす良い機会だと思い承諾した。

 団長が呼んできた若い団員は三人。……チャラチャラしていると言うか何というか。

「ロマーニ侯爵家の騎士団は人気があるんですよ。特に女性に……すると人気職だからと貴族の次男、三男が騎士団に入ってくるのですが、今年の三人は特にチャラチャラとしていて……それに恐れ多くもお嬢様にも恋慕している者もいて、けしからん奴らなんです」

「……失礼ですがコネかなんかで団員に?」

 騎士団は確かに人気職業だよな。市民からも人気があるし頼りになる存在……

「入った時は三人ともあぁ言った感じてはなかったんですが、人気を目の当たりにしたんでしょう。腕っ節は悪くはないんですよ」

「そういうことなら喜んでお相手します。木刀を落とした方が負け。と言う事でよろしいですか?」
 
 ニヤリと笑うリアン。

「外部の方に負けたとなると、あいつらの今後のやる気に繋がるでしょう」

 負けて悔しい。と思わないと強くはなれない。

「「「よろしくお願いします」」」

 三人の若い団員が礼をしてきた。

「この方はお嬢様の大事な人だ」

 ……誤解だって! その言い方は誤解を招く。


 木刀を持ち一人ずつ相手にすることにした。弱いわけではないが、まだ場数を踏んでいないんだろう。剣筋が分かりやすい。あっという間に木刀を地面に落とす。三人ともリアンの腕には敵わず……


「参りました」

 と言った。


「きゃぁぁっ! リアンさんかっこいい」

 リアンの近くにより汗を拭こうとするマリアベル。

「自分でするからタオルをくれ」

 リアンは手を出しタオルを渡すように言った。

「マリアが拭いてあげたいのに! あ。そうだ。お水持ってくるね!」

 パタパタと走り水を持ってくるマリアベル。甲斐甲斐しくリアンの世話をしようとするマリアベルの姿を見て団長は温かい目で見守る。

「お前たちもまだまだだだと言うことがわかっただろう? この機にまじめに訓練をするように。モテたいのなら強くないとダメだ。守りたい人がいると言うことは人を強くさせるんだ……」

「「「……はい」」」

 返事をし三人は他の団員の元へと合流したようだ。
 


「悔しいよな……知らない相手に負けるのって」
「お嬢様の婚約者かな……歳が離れているようだけど」
「見てみろよ……お嬢様のあの幸せそうな顔……」


 リアンのお陰で訓練に精を出すようになった三人だった。





 
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