43 / 81
団長
しおりを挟む「団長ー! おはよー!」
練習場にリアンと手を繋いでマリアベルがやってきた。見た事のない身長の高い男と大事なお嬢様を見てギョッとするロマーニ家の騎士団長。
「お、おはようございます……お嬢様、その方は一体?」
驚きを隠せずに少し吃ってしまう騎士団長だった。
「えへ。マリアの大好きで大事な人だよ!」
マリアベルはデビュタントを迎えて世間的には大人の仲間入りをした。大好きで大事な人と紹介されて団長は大きな勘違いをした。
「……お嬢様ももうそのような年齢になられたのですね」
「おい、マリア。団長さんは何か勘違いしているようだ、お前は言い方が誤解されやすいんだな……」
首を傾げるマリアベル。
「なんで? 間違ってないもん。マリアはリアンさんのことずっと大好きで大事だもん。団長、今日はリアンさんも一緒にお稽古したいの。良い?」
団長は感慨深い様子でマリアベルを見ていた。あの小さかったお嬢様にも大事な人ができたんだと。自分の娘を見るように接してきた大事なマリアベルだったので、嬉しいような寂しいような気持ちで一杯だった。それに剣を嗜む人だと言うことは喜ばしきこと。
「勿論です! お嬢様の大事な方ならば私にとっても大事な方ですからね。さ、どうぞどうぞ!」
団長は練習場に案内し好きな木刀を選んでください! と木刀が並んでいる場所へリアンを案内する。
「朝っぱらから申し訳ない。私はフロリアン・フォン・オットーと申します」
リアンは団長に頭を下げた。
「申し遅れました。私はロマーニ公爵家の騎士団長ジルベルト・ベインと申します」
握手をする二人。
「リアンさんマリアの素振り見て!」
ヒュンヒュンと風を切る素振りの音。軽く木刀を振っているようで力強い。変に力が入っていないようで素晴らしい……
「ほぉ。これは……」
「お嬢様はセンスがありますよね! 教えてくれていた方がいるようでその方の教え方が良かったのでしょう。八歳の時点でとてもお上手でした」
そうか。俺の振り方に似ているのか?
「リアンさんもどうぞ!」
ふぅ。と一息ついてマリアベルが笑顔で言った。
「そうだな。やるか」
と言ってリアンは木刀を力強く振る。それをにこにことしながらマリアベルはずっと見ていた。しばらくしてマリアベルと団長の視線を感じて声を掛けるリアン。
「なにか?」
団長に声を掛けると
「オットー殿、どうかうちの若いものを鍛えてやってくれませんか?」
と頼み込む団長。
「いえ、俺なんかよりも、」
「いいえ。貴方様にお願いしたいのです。少しだけで構いません。軟弱なあいつらを叩きのめしてやってください!」
頼まれて断れなくなるリアン。体を動かす良い機会だと思い承諾した。
団長が呼んできた若い団員は三人。……チャラチャラしていると言うか何というか。
「ロマーニ侯爵家の騎士団は人気があるんですよ。特に女性に……すると人気職だからと貴族の次男、三男が騎士団に入ってくるのですが、今年の三人は特にチャラチャラとしていて……それに恐れ多くもお嬢様にも恋慕している者もいて、けしからん奴らなんです」
「……失礼ですがコネかなんかで団員に?」
騎士団は確かに人気職業だよな。市民からも人気があるし頼りになる存在……
「入った時は三人ともあぁ言った感じてはなかったんですが、人気を目の当たりにしたんでしょう。腕っ節は悪くはないんですよ」
「そういうことなら喜んでお相手します。木刀を落とした方が負け。と言う事でよろしいですか?」
ニヤリと笑うリアン。
「外部の方に負けたとなると、あいつらの今後のやる気に繋がるでしょう」
負けて悔しい。と思わないと強くはなれない。
「「「よろしくお願いします」」」
三人の若い団員が礼をしてきた。
「この方はお嬢様の大事な人だ」
……誤解だって! その言い方は誤解を招く。
木刀を持ち一人ずつ相手にすることにした。弱いわけではないが、まだ場数を踏んでいないんだろう。剣筋が分かりやすい。あっという間に木刀を地面に落とす。三人ともリアンの腕には敵わず……
「参りました」
と言った。
「きゃぁぁっ! リアンさんかっこいい」
リアンの近くにより汗を拭こうとするマリアベル。
「自分でするからタオルをくれ」
リアンは手を出しタオルを渡すように言った。
「マリアが拭いてあげたいのに! あ。そうだ。お水持ってくるね!」
パタパタと走り水を持ってくるマリアベル。甲斐甲斐しくリアンの世話をしようとするマリアベルの姿を見て団長は温かい目で見守る。
「お前たちもまだまだだだと言うことがわかっただろう? この機にまじめに訓練をするように。モテたいのなら強くないとダメだ。守りたい人がいると言うことは人を強くさせるんだ……」
「「「……はい」」」
返事をし三人は他の団員の元へと合流したようだ。
「悔しいよな……知らない相手に負けるのって」
「お嬢様の婚約者かな……歳が離れているようだけど」
「見てみろよ……お嬢様のあの幸せそうな顔……」
リアンのお陰で訓練に精を出すようになった三人だった。
108
お気に入りに追加
4,231
あなたにおすすめの小説
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね
ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる