私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

文字の大きさ
上 下
42 / 81

目覚め

しおりを挟む

 チュンチュンと鳥の囀りで朝を迎えた。こんなに穏やかに朝を迎えるのは久しぶりだった。疲れのせいか眠りが深かったのだろう。それに緊張もしていた。

 ロマーニ侯爵からマリアベルに会って欲しいと言われて断ることも出来たのだが、ちゃんと成長をして姿をこの目で確かめたかったと言うのもあった。

 あれから七年も経っていて家族と暮らすうちに俺のことなんて忘れているかもしれない。と思っていた。それならそれで良いとも思った。寂しくないといえば嘘になる。


 窓の外に目をやる。朝日と共に目覚めるのが好きだからカーテンは開けておいた。景色は朝起きてからの楽しみだと思っていた。

「起きるか……」

 流石に人の屋敷で剣を振る訳にはいかないよな。身体が鈍らなければ良いのだが……


 ベッドから下りようとした。その時

「リアンさん! おはよう」

 扉が急に開きドスっと体に衝撃が……

「お嬢様! いけませんよ! 勝手にお部屋に入るなんて」

 屋敷のメイドの声……俺の腰にはマリアベルが突撃してそのままベッドに倒された。

「お、おい! マリア離れろ」

「……ヤダ。リアンさんがちゃんといるって確かめなきゃ」

 ふわっとマリアベルから優しい匂いがした……って何を考えているんだか……


「約束しただろう、ちゃんといるぞ。確認したら離れてくれ。俺は寝起きなんだ」

 むすっとした顔を見せるマリアベル。貴族の令嬢は笑顔を貼り付けているもんだろう……俺は好きじゃないけど。

「むぅ。分かった……」

「おはよう、マリア……朝から元気だな……」

 ベッドであぐらをするような形で座り直した。マリアはメイドに怒られてベッドの際に立っている。

「お稽古しないの?」

 ……稽古? 俺はわからずにに返事をせずにマリアベルを見ていた。

「剣の稽古しないの? 毎日していたでしょう?」

 あぁ……覚えていたのか。

「流石に侯爵家でする訳には行かんだろう……」

 人の家で朝から迷惑だろ……


「? なんで? リアンさんと一緒にお稽古したくて呼びにきたんだよ! 行こっ!」

「……? 話が見えんのだが」

「着替えは?」

「するけど……っておい」

「手伝ってあげる!」

 シャツに手を出そうとするマリアベルはメイドに睨まれ「お嬢様! 良い加減になさいませ!」
 
 と怒られていた。怒られて当然だろ……うら若きレディが男のシャツを脱がせようとしているんだ!

 侯爵夫妻はどのように教育をしてきたんだ……自由すぎるだろ……



「……着替えるから待っていてくれ」

「えー。手伝って、」

「お嬢様!!」

「頼む。すぐに着替えるから待っていてくれ」


「……分かった。待ってる」

 よく考えるとマリアベルの服を着せてやったり一緒に住み始めた頃は風呂にも入れてやっていたが……俺もよく上半身は脱いでいたか……昔の話だ。


 ******

「待たせたか?」

 すぐに動きやすい格好になって扉を開けた。

「ううん。待ってない! 行こっ」

 俺の手を取り歩き出すマリアベル。昔と今は違う……手を繋いで歩くのはマズイだろ。

「手は繋がなくていい……」

「なんで?」

「マリアは成人したんだ。他人の俺と手を繋いではダメだろ? 俺は男なんだぞ……」

 マリアから見たらおっさんだけど……


「……マリアのこと嫌いなの? リアンさんの手は大きくて大好きなのに……」

 うっ……予感的中……その上目遣いはやめてくれ。涙もうるうると瞳に溜め込んでいる……

「マリアのこと迷惑なの?」


「好きにしろ……」

 って俺はバカだ……


「ありがとう。リアンさん」

 キュッと腰に抱きついてきた。俺は肩の力が抜けた……やはりマリアは人たらしだ。だからうっかり助けて一緒に暮らしていた。

 涙と笑顔で何とかしてしまう……末恐ろしい。

「分かったなら、そろそろ離れてくれ。朝の稽古だろ?」


 ん? そういえば一緒にって……言ったな。どう言う意味だ……?


 


 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

処理中です...