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リアン2
しおりを挟む一緒に暮らし始めた時は四歳だったマリアベルはすくすくと成長した。
毎日訓練と言っては俺と木刀を振る。娯楽がないから遊びの代わりに振らせていたのだが、木刀を振り風を切る音が変わってきた。
……もし襲われそうになっても、構え方で相手が怯むかも知れない。そう思わせるくらいに様になっていた。
平民の生活と言うものがよくわからないが、俺の知っている事はマリアベルに教える事にした。
マリアベルは俺のことをお兄ちゃんと呼んでいたのだが、寝言でママやパパと言っていた。元々家族がいただろうに何も覚えていないらしく、どこに住んでいたかも全くわからないようだ。
自身の名前すら覚えていないのだからしょうがないよなぁ……手がかりはこのマリアベルが付けていたネックレスのみ。パッと見ただけでも高価であることが分かる。マリアベルは裕福な家庭の子だったのだろうが……
マリアベルは愛らしい顔立ちでこの子との生活は悪くない。荒んでいた心や疲れていた気持ちが和らぐようだ。
このまま一緒に生活をしていて、万が一この子の家族が判明した時に手放す事が出来るのだろうか?
……孵ったばかりの雛を育てている親鳥のような気持ちなのだろうか?
マリアベルの寝顔を見ながらそんなことを思っていた。朝起きるとマリアベルは目が腫れていた。
「どうした? 悲しい夢でも見たか?」
そう聞くと、きょとんとした顔でマリベルが言った。
「顔は分かんないけど、男の人と女の人? の夢を見た。男の子もいた」
潜在意識の中で家族を思ったんだろうか?
「マリアのお兄ちゃんはお兄ちゃんだけだよね? 変なの……」
「……本当の家族の元に帰れたらいいな」
いつものようにマリアベルの頭を撫でてやったのだが胸が痛むような気がした。
「うーーん。そしたらお兄ちゃん一人になっちゃうよ?」
一人か……国に家族はいるんだよ。生きて帰ることが出来ればだけど……国を離れてから賊にバレていないようで出会すこともない。
「あ! そっか! お兄ちゃんがお母さんとお父さんとお兄ちゃんになってくれれば良いんだ」
お母さんって……それは無理だろ。性別が違う。閃いたような顔をするな。
「……お母さんって」
「だってお兄ちゃんの作るご飯は美味しいもん。お家のことをするのはお母さんの仕事でしょ? お父さんは外で働いて、お兄ちゃんは家のことを手伝って遊んでくれるんでしょ? だからお兄ちゃんはマリアにとって全部なの」
「そりゃ違わねぇか……よし、マリアのお母さんにもなってやるか」
子供って面白いことを言う。発想が自由というか……なんて言うか……考えつかないようなことを思いつく。
「お母さんになったからにはちゃんとマリアの事躾けなきゃいけねぇな。お父さんになったからにはマリアの事守ってやらなきゃいけねぇし、お兄ちゃんだから遊んでやらないとな」
「うんっ!」
マリアベルは嬉しそうに笑った。その年はマリアを拾った日にお祝いをする事にした。本当の誕生日も年齢も分からないが祝ってやりたいと思った。俺のところへ来る使者にマリアベルの服を数着頼み、プレゼントの菓子とぬいぐるみを持ってくるように頼んだ。
すると頼んだ数日後に服を何着かとぬいぐるみを数個持ってきた。
「物を増やしたくないからそんなには要らないぞ?」
服もこんなに要らないだろう……平民なんだからシンプルなものが良い。その方が動きやすいし、何かあった時に連れ出しやすい。ヒラヒラしたものを着せてやりたいし、似合うだろうが実用的ではない。
「フロリアン様がお選びください。お嬢様にお似合いのものを」
ニヤリと笑う使者……これは確実に面白がっているだろう!
「……このワンピースとブーツだな。足が大きくなったようで靴が小さくなったようだ。それとこのクマのぬいぐるみにする」
面白いものでも見るように使者は笑っている。
「なんだよ!」
俺がクマのぬいぐるみを抱く姿がおかしいのか!
「いえ。フロリアン様がまさか幼子と生活をするとは夢にも思っておりませんでしたので……もし今の揉め事が終わりましたらお嬢様も連れて国へ戻られますか?」
今さら一人にするわけには行かないだろ。
「そのつもりだ」
「畏まりました。そのように閣下へ伝えておきます」
マリアベルの誕生日をささやかにお祝いしてぬいぐるみをプレゼントしたら、マリアベルの白い顔がぱぁぁーっとバラ色に染まり目を大きく開いた。瞳が溢れるような大きさだった。
「いいの! こんなに可愛いクマさんを貰って」
ぎゅうぅっとクマのぬいぐるみを抱きしめるマリアベル。生き物だったら窒息してるな。
「あぁ、勿論。マリアベルに買ったんだ。いつもお利口にしているご褒美だよ」
「わぁ! ありがとうお母さん!」
お母さんと来たか……
「おぅ、気に入ったみたいだな?」
「うん! ずっと大事にするね」
そんなぬいぐるみくらい国へ帰ればいつでもプレゼントしてやれるのにな……早く解決しろよ。と思いながらもこの生活を気に入っていた。
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