私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

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リアン

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 フロリアン・フォン・オットー。これが俺の名前。リアンとは愛称で家族がそう呼んでいる。



「フロリアン様、お手紙が届いています」

 侍従が手紙を持ってきた。

 ここは王城の一室で俺の執務室と言ったところ。手紙は毎日届くが、わざわざ一通の手紙をトレーに載せて渡してくるなんて何かあるのか?

「誰からだ?」


 トレーに載せてある手紙を受け取る。蝋印を見ると我が国の貴族のものではない。送り主を見ると……


「隣国の……ロマーニ侯爵家か……」


 マリアベルの家からか……とうとう身元がバレたか……


「謁見の申し出もあるようです。使者が国に留まっているようですので、お返事を差し上げたらいかがですか?」

 カサカサと手紙を取り出した。ロマーニ侯爵のサインが書いてあるという事は直筆で間違いない。


 マリアベルを見送った後、家族と上手くやれているのか気になって調べさせたが、家族仲は良く幸せに暮らしていると報告があった。本当の家族と暮らすようになり本来の生活を取り戻したのだと、ホッとした。




 あの日たまたま、森に入ったところでマリアベルを見つけた。息も絶え絶えであと数時間遅れていたらおそらく命はなかっただろう。

 近くの村に連れて行ったが辺境の村には医師などはいない。薬草を貰い熱が引くのを待つとマリアベルは目覚めた。


『名前は言えるか?』

 と聞くと

『なまえ……』

『あぁ、名前くらいあるだろう?』

 考える素振りをするが頭を横に振るだけ。

『あたま、いたい……』


 川に流され体が冷え切っていた。どうやら上流から流れ着いた先でマリアベルを拾ったようだった。頭に大きなこぶが出来ていた事から頭を打って記憶が曖昧になっているのかもしれない。

 しばらくこの村に滞在させてもらう事ができた。まだ幼い子供をこの村に置いていくのもアレだよなぁ……貧しい村だし食い扶持のために売られたり……殺されたり……気が引ける。


 どうしたものか……。それにこの子は恐らく良いところの娘だと思う。身につけていたネックレスには名前が刻印されているし、高価なものだ。

 それでマリアベルという名前が判明したのだが、なぜ良いところの娘がこんな目に遭っているのか……俺と同じく命を狙われていたとか? そう考えると置いていく事は出来なかった。


『俺と一緒に来るか?』


 それは単なる気まぐれだった。一人の方が気楽だし一人の方が何かあった時にも対処しやすくなる。

 こくんと頷くマリアベルを馬に乗せて、村から離れた。ここは国境が近いから早く離れるべきだ。 


 それから奇妙な生活が始まった。子育てなんてした事がないから正直どうすれば良いのかわからない。

 まずは住むところを探すか……

 当ても無い旅になり、休憩がてら寄った村で治安のいい場所を聞き国境から離れる事になった。間者というわけでは無いが俺がこの国にいるという事を知られるわけにはいかない。かと言って何かあればすぐに国に帰れるようにもしたい。

 その時はマリアベルも連れて帰り生活をさせれば良いか……くらいに思っていた。


 着いたその村はのんびりとした山間で自給自足の生活、時に商人が寄りそこで物々交換をしたり品物を購入をすることが出来た。山へ行き狩りをして川へ行き魚を釣る。そして村で野菜と交換をするので、食べ物には困らなかった。


 朝起きて鍛錬をしているとマリアベルも興味ありげに見ていたので、木の枝を使って木刀を作り渡すと嬉しそうに木刀を振っていた。

『えい、えいっ!』

 小さな女の子が見よう見まねで木刀を振る姿を見ると微笑ましい気持ちになる。


 まずもって娯楽がないのだから仕方がない。定期的に俺の家から使者が来る事になっていてマリアベルとの生活を驚いていた。

 本を持ってきてもらうように頼んだりマリアベルの服を新調する時は使者に持ってきてもらう。

 この先のことを考えると、マリアベルには教育が必要であると思うのだが教師を雇うわけにもいかない。読み書きくらいなら教えられるし、まずは本を読み聞かせる事にした。マリアベルは吸収が早くあっという間に読み書きできるようになった。

 俺の国へ帰った時のことも考えて国の言語も教えた。まずは会話からそして本を読んで文字に慣れさせた。イラスト付きの本の方が理解しやすいよな。

 俺が留守にしている間は本を読んで大人しくしていたようで、いつの間にか自国語と俺の国の言語も理解できるようになっていた。

 共通語も話せた方が良いと思い本を渡す。貴族の子供は幼い頃から馴染みがある絵本だ。


 マリアベルは朝から晩まで暇さえあれば本を読み勉強していた。

 
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