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久しぶりのマリアベル
しおりを挟む「撒いたか……」
ジェラールは校舎の影に隠れていた。平民の商家の娘であるエイミーに付き纏われている……ような気がする。貴族の子女からこのようにあからさまに付き纏われたことは無いから、ある意味新鮮……これはオブラートに包んだ表現。正直言って迷惑以外の何物でもない。
しかし私はこの国の王子でこの学園の生徒会の身で女性を邪険に出来ないのだ……
それに学園は平等である……が、一部特例はある。寄付金が多ければ少しは対応が違うのは仕方がない事だ。
例えば食堂。学園の食堂は無料……と言っても入学金を支払っている時点で払っているようなものだが、裕福な貴族たちは更に寄付金を出す。特待生は寮費、食費は基本無料で寄付金から捻出されている。寄付金をたくさん出した生徒の家は、食堂でもプレミア席を使える事ができる。私は王族で皆と同じものを食べていても特別室で食事をする事になる。それは毒の混入を防ぐためである。食事ミーティングをすることはあっても誰と食事をしたかなどは記載して厳重に保管される。
基本は側近のマルクと一緒にとる事が多い。婚約者が学園に居たら一緒にとる事になるのだろうが、私にはまだ居ない。
気になる子はいることはいる。マリアベル・ロマーニ侯爵令嬢。幼い頃に一度会った事がある。その後誘拐され見つかった時は心の底から安堵した。
それから偶然王宮で顔を合わせる事があった。可愛い子だと思った。三度目は母に紹介されお茶をした。
僕に興味がないようで庭を案内しても花をまじまじと見ていたっけ。侯爵に僕と仲良くなって来いとか言われなかった? と聞くといいえ。とそっけなく返された。
それから母の招待するお茶会に来ることはなかったし、他所の茶会に行っていると言う噂は聞かなかった。
侯爵が可愛さ故に家から出さないと言う噂が出たり、田舎で見つかったと言う話から礼儀作法がなっていないなどと言う噂もあったが、ピノ伯爵家の茶会でマリアベルを見た子息達からは侯爵家が可愛さ故に外に出さない。と言う噂の方が本当のようだった。
全く僕に興味がない……侯爵家もどこ吹く風と言った感じ。話をしたいとは思うのに中々上手くいかないものだ……僕はお茶会に出ればたくさんの令嬢に囲まれるほどの人気なんだけど……王子だし。
学園の入学式で挨拶をするに当たり壇上に立った。すぐにマリアベルを見つける事ができた。最後に見た時より更に可愛くなっていた……なんとか話をしたいと思うのだけど……
母は私の婚約者の選定に入ったようで、リストを見せられた。
「あれ? ロマーニ侯爵令嬢の名前がありませんよ?」
侯爵家の令嬢なんだから名前があってもおかしくないだろう? いや、年齢的にもあって然り! 高位貴族から選ばれるのは必須だ。
母も残念そうに説明をしてくれた。
「ロマーニ侯爵夫人に話をしたら遠慮されたもの。マリアベル嬢は誘拐された事によって心に傷があって内気だから王子妃は務まりませんですって」
「……そんな感じはしませんでしたけどね」
どちらかと言うと活発な感じだ。馬術・剣術を趣味としているのに?(調べさせた) 内気?
「ロマーニ侯爵家と縁があるのならそれに越したことはないのだけど、やはり誘拐事件のことを口に出して来られると、貴族院からも反対の声が上がるのよ」
誘拐されていた期間のことは謎が多いだけに、そこには触れてはいけない……
令嬢が四年もの間誰といたかも分からない状況で王族に嫁ぐのは難しい。傷アリと見做されてしまうのだそうだ。
せめて、どこの誰か身元がしっかりした人に保護されていたら違ったのかも……などと思わざる得ない。
しかしマリアベルの母親の実家はペルソナ公爵家。公爵家が一言進言してくれればなんとかなるんじゃないだろうか? ヨハンに聞いてみよう。
******
「やぁ、ヨハン!」
「ん? ジェラール殿下、おはようございます」
ヨハンとはクラスが違うが幼い頃から良く顔を合わせているので、幼馴染みたいなもの。
「いい天気だね」
「? そうですね」
何から伝えればいいのか……
「殿下ぁ~おはようございます。ヨハン様もおはようございまぁす」
……またこの娘か!
「「おはよう」」
ヨハンと声が重なった。ヨハンもこの娘が苦手なようだった。
「それでは殿下、私は先に、」
ヨハンが逃げようとしたが! っと行かせるかっ!
「ヨハン、私も一緒に行くよ。たまには良いよな?」
笑顔で有無を言わせない。
「エイミーさん失礼するね」
すぐにヨハンと歩き出した。もちろん早歩きで!
「……殿下良いのですか?」
「何が?」
「彼女を放っておいて」
「……察してくれよ。苦手なんだよ。迷惑している……」
「殿下と彼女が恋仲と聞きましたが、噂とは恐ろしいものですね」
そんなすぐに嘘だと分かるような噂をいちいち本気にしていられるか!!
「そうだな」
「殿下に婚約者がいないからそんな噂が立つのではないですか? 一定の女生徒と仲良くするのは良くないのではないですか?」
お! 良い話の流れになってきた。
「そうだな……誰か良い子いないか? ヨハンの知っている子なら間違いなさそうだな」
「……うーーん。そんな良い子がいたら私が婚約をしたいくらいですよ」
「ヨハンの周りの子でもいいぞ」
「私の? そんな子いませんよ?」
「親戚の子とか……ほら、公爵家の親戚なら間違いないな!」
「うちは残念ながら男系ですから……」
「おまえ、分かってて言ってるだろ!」
「マリーは可愛い妹ですからダメです。マリーには誰よりも幸せになってもらいたいので、そんじょそこらの男に渡したくありませんよ。無理です。他を当たってください」
ピシャリと言って、それ以上は何も言うなよ! と言う顔をされた! そんじょそこらの男ってなんだよ! 王子だぞ!
「因みに……私だけの意向ではなくペルソナ公爵家の意向です」
笑顔でそう答えて先に行ってしまったではないか!
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