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マリアベルのパパ
しおりを挟む「パパ良い?」
コンコンコンとノックすると
「入りなさい」
と声がかかった。入室するとすぐに立ち上がってこちらに向かってきた。
「入学式はどうだった? マリーももう学園に入学する年になったんだなぁ……パパは嬉しいよ」
そう言ってぎゅうぎゅうと長いハグをされた……
「苦しいよ、パパ……」
「ごめんごめん。あまりに感激してしまってつい……マリーから話があるなんて珍しいね、どうかしたかい? 何かママに内緒で欲しいものでも出来た? なんでも買ってあげるからその時は言いなさい」
いつもは食堂で顔を合わせるからその時に家族全員で話をする。ママとは一緒に出かけたりもするけどパパの執務室に自ら来る事はあまりないもんね……仕事の邪魔をしちゃいけないと思って。
立ち話もなんだからとソファに移動して話をすることになってお茶とお菓子を出された。
入学式でヨハン兄さんとアレックスと会ったという話から始まって、殿下が挨拶をして~と今日の入学式の様子を話ししていたら、パパはうんうんと頷いてくれた。そして帰りにあったことを話しした。
「あのね、ピノ伯爵子息の事なんだけど……」
ピクリとお茶を飲んでいるパパの眉が動いた。
「子息がどうした?」
柔らかな表情を見せるパパだけど何か隠している事がありそう。
「同じ学年で少し話をしたいと言われて放課後に謝罪されたの」
「ふーーん、それで?」
「謝罪を受け入れたの」
チラッとパパを見る。
「マリーが謝罪を受けとったのならそれで良いんじゃないかい? 何か問題でもあった?」
まだしらばっくれるようだ。
「砂糖の原料になる作物の新種って何? うちに負けないようにって言ってたよ」
「あぁ、その事か……マリーの授業を教えてくれている先生がいるだろう?」
この流れはマナーの先生ではないよね?
「モリス先生?」
「そう、モリス君だけど、学者になりたいって言ってただろう?」
「うん。植物学者になりたいって言って……」
え、えぇ! そう言う事?! 驚いた顔でパパは私が気づいたって分かったみたい。
「そう言う事。モリス君が研究をして寒暖差に強い作物ができたって事さ。うちの領地で実験したら成功して学会に発表する事も決まったよ。もちろん我が領土発展の手伝いをしてくれているから、モリス君にはラボを作ってプレゼントする予定なんだが、マリーが卒業するまではこの邸に居てくれるみたいだよ。モリス君の研究は面白くてヴェルナーも一緒に実験していたんだよ」
知らなかった! たしかに領地にしばらく行くと言って邸にいない事はあった。宿題はちゃんと出して行ったしサボれなかったけど……
「そうなんだ! 教えてくれても良かったのに……」
「ごめん。ごめん。内密にしていたから言えなかったんだ。それにモリス君は自分からマリーに言うと思っていたんだよ。彼はすごい学者になると思う」
学会発表レベルの新種なんだ! すごーい。それにラボ? 先生喜んだだろうなぁ……
「私の家庭教師の時間なんて先生の時間が勿体ないね……」
研究に没頭したいよね? だって学会で認められたら引くて数多でそれどころじゃないよね。
「いや、授業は息抜きにもなるみたいだしマリーがいたから自分はこの邸に呼ばれたと言っていたから、勉強は今まで通りだよ。ラボの建設にも時間はかかるしせっかく作るのだから良いものを作ってあげたい」
私の為に時間を割くのは勿体無いと思う気持ちはあるけれど、先生の授業は面白いからそう言って貰えると嬉しい。
「うん。良かった……」
「それと……ピノ伯爵家の事だが不正をしていたのは事実だ。当主もなんとか頑張っているからあと数年我慢して努力すれば元に戻ると思う。当主は実直な人間で領民にも信頼されていたようで領民と話し合って三年間税率を上げることになったらしい。元々税が安い領地だったから領民も渋々だけど納得したらしい。三年でどう変われるかと言うところだな。当主は今まで以上に頑張っている、ピンチをチャンスに変える事ができれば更に発展すると思う。暴言を吐いた事は許せないし不正はダメだ。しかし更生する気持ちはありそうだからそれくらいにしておいた」
パパなりの優しさ? なのかな……
「そうなんだ。兄様も言ってくれれば良かったのに」
「研究は極秘に行われていたから仕方がないんだ。マリーを信用していないとかじゃなく、マリーがこの事を知っていて、研究内容を教えろ! とこの事を知った悪い人に脅されたり連れて行かれたりしたらパパはどうにかなってしまいそうだ……」
どうにか……って死人が出るよね? あ、あはははっ……そ、そうしたらパパは罪人に!? 知らない方が身の為だ! 血が流れるのを見たくない!
「そ、そっか! でもちゃんと答えてくれてありがとう。パパ大好き!」
媚を売っておこう! 笑いながらどうにかなるなんて恐ろしい事この上ない! 大事にされていると言う事は十分伝わったもの。パパの近く寄ってギュッと抱きついた。
「パパもマリーのことを愛しているよ」
いつもの顔に戻った! よかった!
「ママから話があると思うけれど、マリーのデビュタントの用意をしなくてはいけないね。入学の次はデビュタントか……早いものだなぁ。変な男に目をつけられなきゃ良いのだが……マリーは可愛いからパパは心配だよ」
パパは心配性で困る時もあるけれど、優しい家族に恵まれていると思った。
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