私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

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謝罪

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「ピノ伯爵のご子息でしたか……」

 あの時のお茶会ってそのあとどうなったんだっけ……確かピノ伯爵夫妻が謝りに来たとは聞いたけれども。

「はい。覚えていてくださったのですね」

 とても低姿勢であの時の横柄な態度が嘘のようだ。と思うと少し躊躇してしまう。

 っていうか名前を知らなかったし……。

「お久しぶりですね」

「ロマーニ侯爵令嬢、謝罪させて下さい。あの時は酷いことを言ってしまい申し訳ありませんでした」

 頭を下げてきた。謝罪……? もう終わった話だしパパに謝罪したのならそれでいいんじゃないの? パパは謝罪に来られてあとはピノ伯爵に任せたから、もう終わった話にしよう。と言ってそれ以降はピノ伯爵の話は聞かなくなった。

「もう済んだ事です……それに私はその後の事を知りませんが、父は怒ると怖いので……恐らくピノ伯爵家も何か辛い事があったのでしょう?」


「……私はあの時、母の言っていた事を鵜呑みにしてしまっていました。すでに自我は芽生えていたのに自分では考えずに母の言う事が正しいのだと思って生きていました……恥ずべき事です」

「それは仕方がないと思いますよ? 私も家族の言うことは間違いないと思ってしまいますし、誘拐されたのも事実ですし……死んだと思われていても不思議ではなかった状態だったようですし……たまたま良い人に保護されて出会えてラッキーでしたよ。感謝してもしきれませんもの」

 久しぶりにお母さんことリアンさんの事を話したような気がする。

「貴女は……強い人ですね」

「そうですか? 普通です。それよりどうなさったのですか? 顔つきも態度も変わられましたね……落ち着いたと言うか……」


「周りが見えるようになった……と言う感じです。あの時私の視野はとても狭くて家族や家の使用人だけでしたから……伯爵家は、あれ以来重大な局面に立たされていますが、それで良かったと私は思います」

 重大な局面に立たされたんだ……パパは一体何を……聞くのが怖いけれど、逃げてはダメよね……

「何があったのかお聞きしてもよろしいですか?」

「……はい。我が家は不正をしていました。領地では砂糖を作っています。その砂糖を王室に献上していました。献上すると言う事は王室に認められたと言うことになり一種のステータスとも言えます」

 王家御用達となると、他の貴族たちもこぞって買い上げるわよね。確かなブランドだものね。

「えぇ、王家御用達ともなるとそうですね」

「献上品は確かなものを……しかし量がそこまで用意できなくなった母は粗悪品を混ぜて販売していたようです……」

「え! それは王家に背く、」

「その通りです。あの時すでに侯爵様には目をつけられていたのです。侯爵様は貴女をお探しの際にいろんな情報を得ていると聞き及んでいました。我が家の愚かな行動で伯爵家は危機的状況に陥りましたが、ここで堪えられなければ伯爵家の地位なんてクズのようなものです。父は実直な人間ではありますが騙されやすいところもあります。まさか身内に騙されていたとは思わなかったらしく大変ショックを受けながらも、今まで以上に頑張っていますよ。その父の姿を見ていたら、私は自分自身が情けなくて……変わらなくてはと思いました」

 思ったより重い話だった! あの時は悪かった! じゃないのね。この人も反省して努力しているのだから、謝罪は受け入れよう。

「謝罪は受け入れます。伯爵様にもお伝えくださいませ。それと父が申し訳ない事を、」

「いえ! それは感謝しています。正す道ができたのですから。あと何年かかるか分かりませんが信頼を取り戻します。ロマーニ侯爵家が作り出した新しい品種に負けぬよううちも頑張ります!」


 うちに負けない品種とな? それは一体……邸に帰ってからパパに聞いてみよう。

 それにしてもこのピノ伯爵の子息ダニエルはとにかく変わったわね。夫人に似て勝気な顔つきのイケメンになった……そういえば夫人はあれ以来領地へこもりっぱなしだとか? 私。恨まれたりなんてしてない?

 ピノ伯爵子息の謝罪は受け入れたから、その後は解散となった。馬車に乗ろうとすると従者が扉を開けてくれた。これから遅くなる時は事前に言っておこう。



 邸に帰りパパがいるかと執事に聞くと

「執務室におられますよ。本日は入学祝いにご家族でお食事を楽しむと言っておられましたから、早々に帰って来られましたよ」

 と言われ、パパと話をしたいからと執事に事付けをして着替えてパパの執務室に行った。





 








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