私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

文字の大きさ
上 下
26 / 81

謝罪

しおりを挟む

「ピノ伯爵のご子息でしたか……」

 あの時のお茶会ってそのあとどうなったんだっけ……確かピノ伯爵夫妻が謝りに来たとは聞いたけれども。

「はい。覚えていてくださったのですね」

 とても低姿勢であの時の横柄な態度が嘘のようだ。と思うと少し躊躇してしまう。

 っていうか名前を知らなかったし……。

「お久しぶりですね」

「ロマーニ侯爵令嬢、謝罪させて下さい。あの時は酷いことを言ってしまい申し訳ありませんでした」

 頭を下げてきた。謝罪……? もう終わった話だしパパに謝罪したのならそれでいいんじゃないの? パパは謝罪に来られてあとはピノ伯爵に任せたから、もう終わった話にしよう。と言ってそれ以降はピノ伯爵の話は聞かなくなった。

「もう済んだ事です……それに私はその後の事を知りませんが、父は怒ると怖いので……恐らくピノ伯爵家も何か辛い事があったのでしょう?」


「……私はあの時、母の言っていた事を鵜呑みにしてしまっていました。すでに自我は芽生えていたのに自分では考えずに母の言う事が正しいのだと思って生きていました……恥ずべき事です」

「それは仕方がないと思いますよ? 私も家族の言うことは間違いないと思ってしまいますし、誘拐されたのも事実ですし……死んだと思われていても不思議ではなかった状態だったようですし……たまたま良い人に保護されて出会えてラッキーでしたよ。感謝してもしきれませんもの」

 久しぶりにお母さんことリアンさんの事を話したような気がする。

「貴女は……強い人ですね」

「そうですか? 普通です。それよりどうなさったのですか? 顔つきも態度も変わられましたね……落ち着いたと言うか……」


「周りが見えるようになった……と言う感じです。あの時私の視野はとても狭くて家族や家の使用人だけでしたから……伯爵家は、あれ以来重大な局面に立たされていますが、それで良かったと私は思います」

 重大な局面に立たされたんだ……パパは一体何を……聞くのが怖いけれど、逃げてはダメよね……

「何があったのかお聞きしてもよろしいですか?」

「……はい。我が家は不正をしていました。領地では砂糖を作っています。その砂糖を王室に献上していました。献上すると言う事は王室に認められたと言うことになり一種のステータスとも言えます」

 王家御用達となると、他の貴族たちもこぞって買い上げるわよね。確かなブランドだものね。

「えぇ、王家御用達ともなるとそうですね」

「献上品は確かなものを……しかし量がそこまで用意できなくなった母は粗悪品を混ぜて販売していたようです……」

「え! それは王家に背く、」

「その通りです。あの時すでに侯爵様には目をつけられていたのです。侯爵様は貴女をお探しの際にいろんな情報を得ていると聞き及んでいました。我が家の愚かな行動で伯爵家は危機的状況に陥りましたが、ここで堪えられなければ伯爵家の地位なんてクズのようなものです。父は実直な人間ではありますが騙されやすいところもあります。まさか身内に騙されていたとは思わなかったらしく大変ショックを受けながらも、今まで以上に頑張っていますよ。その父の姿を見ていたら、私は自分自身が情けなくて……変わらなくてはと思いました」

 思ったより重い話だった! あの時は悪かった! じゃないのね。この人も反省して努力しているのだから、謝罪は受け入れよう。

「謝罪は受け入れます。伯爵様にもお伝えくださいませ。それと父が申し訳ない事を、」

「いえ! それは感謝しています。正す道ができたのですから。あと何年かかるか分かりませんが信頼を取り戻します。ロマーニ侯爵家が作り出した新しい品種に負けぬよううちも頑張ります!」


 うちに負けない品種とな? それは一体……邸に帰ってからパパに聞いてみよう。

 それにしてもこのピノ伯爵の子息ダニエルはとにかく変わったわね。夫人に似て勝気な顔つきのイケメンになった……そういえば夫人はあれ以来領地へこもりっぱなしだとか? 私。恨まれたりなんてしてない?

 ピノ伯爵子息の謝罪は受け入れたから、その後は解散となった。馬車に乗ろうとすると従者が扉を開けてくれた。これから遅くなる時は事前に言っておこう。



 邸に帰りパパがいるかと執事に聞くと

「執務室におられますよ。本日は入学祝いにご家族でお食事を楽しむと言っておられましたから、早々に帰って来られましたよ」

 と言われ、パパと話をしたいからと執事に事付けをして着替えてパパの執務室に行った。





 








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...