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間話ピノ伯爵夫人 2

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「あなた……あの子は悪くないの。悪いのは全部私です……」

 私が夫にそういうと、夫は床に膝をつき侯爵に頭を垂れた。

「ロマーニ侯爵! この度は申し訳ありませんでした! 妻には今後社交を一切させません! 並びに息子には再教育をさせ二度とこのようなことのないように私が責任を持ちます」



 ……社交を一切禁止……


 ……貴族の妻が社交を禁止するという事は、妻の立場がないと烙印を押されたようなもの……情報交換の場を断たれてしまう……娘もこれからお茶会を通じて社交する立場になると言うのに……それでは困る。


「娘が……あなたは娘が可愛くないとおっしゃるの……」

 侯爵の前でつい口にした。愚かだった。

「可愛いに決まっているだろうが……だからあの子の邪魔をするなと言っている……おまえはあの子が私の子ではないと周りに言われて大人しく笑っていられるのか? 死んでしまえば良かった、売られれば良かったなどと言われてその家のものを信用できるか? わしにはそんな事は出来ん」

「あの子はあなたの子でっ……」

 ……ハッとした。冗談でもこんな事を……チラッと侯爵を見ると冷めた目で……虫ケラでも見るような目でこちらを見ていた。

「マリアベルが私の子ではないとか言ったのはそちらの方であろう? それに娘に向かって殺されただの売られただの言ったらしいではないか? おまえの娘も同じ目に遭ってみるか?」


「お、お許しください」

 夫が深く床に頭をつけた。可愛い娘がそんな目に遭うだなんて……想像しただけで

 膝から力が、抜けた……なんて事を

「申し訳ありませんでした……」

 夫と共に床に頭をつけて謝罪する形になった。自然に体が動いた……

 侯爵がパチンっと指を鳴らすと、どこからともなく男がやってきた。

「マリアベルに何があったか聞いても口にしないものだから我が家の影に聞いた。その時のマリアベルの対応は悪くなかったようだ。それにラング伯爵家の兄弟もその場にいたようだし、全て事実だ」

「は、はい。申し訳ございません」


 うちはこれからどうなるのだろうか……

 伯爵家として築いてきた信用は……

 華やかな社交界での信頼は……

 子供たちの将来は……




「それだけではないだろう? まだ隠している事が夫人にはありそうだ。当主として失格と言わざるを得ないが、うちの娘が直接関わった今回は寛大な処置をしてやろう。伯爵の人柄は悪くないと思っている。邸に帰り内情を調べる事を勧める」




 それから間もなく我が家の王室からの信頼は落ちた。と同時に私は領地で療養という名の監禁生活となった。

 夫や子供たちと会うことはままならず、私の周りの使用人たちも総入れ替えとなり、生活がガラリと変わった。

 領地での作物の取引が前年度に比べて減り税収も減った。今回の事は社交界に知れ渡り取引が減ったのだ……信用が無くなったのだ。

 それでは領地経営も成り立たずに安く買い上げられ今期は赤字へと転落……夫は実直な性格で領民にも慕われている。領民との話し合いで税率を数年間限定で上げることになった。立ち行かなくなるとお互いに困るから……

 結果私が夫や子供、伯爵家全体の足を引っ張ることになるとは……

 社交界の華と言われたあの女が憎かった……

 侯爵様と結婚したあの女が憎かった……

 令嬢が誘拐されて、気落ちしても痩せてもたまに見るあの女は美しく気高く……昔からあの女はいつも中心だった。あの女はそれを望んでいなかったようだが周りが放っておかないのだ。

 息子と娘がいて伯爵夫人として貴族達と交流を深め我が家のお茶会は人気があった。あの女はお茶会を開けるような精神状態ではない。

 あの女に勝ったと思った。

 幸せなんて勝ち負けではないのに。それぞれの幸せがあるのに……虚しい人生だ。


 華やかな場所から離れてようやくわかるなんて。



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