私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

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困った事になりました。

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「そうだ! 今日は息子を紹介するわ」

 パンっと王妃様が思い出したように手を叩いた。



『王妃様、来てすぐで申し訳ありませんが、わたくしも娘もまだ社交を始めたばかりで、緊張のあまり体調が……ご招待頂いて申し訳ございませんが本日は失礼させていただいてもよろしいでしょうか?』

『それはいけませんね。体を大事にしてちょうだい。また招待しても良い? 今度は個人的にお話しましょう。マリアベル嬢も一緒にね』

と言う話は社交辞令ではなかったみたいで、本当に王妃様の個人的なお茶会の誘いを受けた。


「息子さん?」

 ……息子さんって! 王子様だよね? 王妃様の子は王子様だもん。

 ママが急にふらついた!

「マリー帰りましょう。お母様は気分が悪くなってきたかもしれません」

 少しだけ抑えめの声で言うも王妃様は

「あ、来たわ! 紹介するわね、息子のジェラールよ。ジェラールこちらロマーニ侯爵夫人とマリアベル嬢よ」

 王妃様は人の話を聞かないタイプなのかもしれない。

「まぁ……殿下ご機嫌よう」

 ママが立ち上がりカーテシーをしたので私もそれに倣った。

「どうぞ、顔を上げてください」

 ママが顔を上げたので私も顔を上げた。

「ジェラールは、今年で十一歳になったの。マリアベル嬢とは一つ違いね!」

「殿下はもう十一歳に……時の流れの速さを感じましたわ」

 ほほほほほ……っと笑うママ。体調不良はどこへやら。ポツンとハテナを浮かべながら立っていると


「あら、マリアベル嬢ゴメンなさいね。おばさんたちの話なんて面白くないわよね? そうよねぇ。ジェラール、お庭を案内したら? 今はラベンダーが見頃よ」

 え、えぇーー! 王子様となんて無理。何を話せば良いか分かんないし、兄様に男の子と仲良くしたらダメって言われたし……

「ロマーニ侯爵令嬢、ご案内しますよ。行きましょうか」

 ママの顔を見ると笑っているけれど、嫌そうな顔をしていた……と思う。目が笑ってないって感じ。

「マリー、殿下もお忙しいのだから無理を言ってはいけませんよ。すぐに戻っていらっしゃいね」

 圧が……強め?

「はい。マ、おかあさま」


 パパとママはパパ・ママと呼んでほしいみたいだけど、社交が始まったら外ではおとうさま・おかあさまって呼ばなくてはならない。外で間違えて呼んじゃうと困るから邸内でおとうさまって呼んだら、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。甘えてほしいんだって。ママにおかあさまって呼んだら笑顔ではあったけれど返事が返ってこなかった。

 きっと外でも言っちゃうよ。ママって! 兄様は好きにさせてやりなよ……って言ってた。兄様は父上とか母上とか呼んでいるのにって言うと、息子だから! ってママもパパも言った。よくわかんない。



「王宮へは初めて来たの?」

 王子様に言われた。気を遣って話しかけてくれているのかな?


「先日王妃様にお茶会の招待を受けましたので二回目です。あ、でも小さい頃にも来たことがあるようですが記憶にはありません」

 覚えてませんって言うよりも記憶にない、って言った方がなんとなく良さそう……

「僕と会ったのは初めて?」

 変な質問をしてくるなと思いつつも答えるマリアベル。

「はい。初めてお目にかかります」


「……そう? だっけ」

 妙な間が気になったけど?


「はい。初めてです」

 キッパリと答えるマリアベル。

「……ここだよ」

 なぜだかがっかりした様子のジェラールを余所にラベンダーの香りを嗅ぐマリアベル。

「わぁ! 凄い! それに良い香り」

 

「このラベンダーでポプリを作ったり、バスソルトを作ったりするんだ。安眠効果が得られるんだよ」

「そうなんですねぇ。わかる気がします」

 とても癒される香りだ。

「乾燥させたラベンダーをクッキーに入れたりもするんだよ」

「へぇ。食べられるんですねぇ」

 ラベンダーをマジマジと観察するように見る。食べる? どの部分だろう……



「君は本当に僕に興味がないんだね……」

「はい、そうで……あ!」

 っと言ってしまって振り向くと笑顔の王子様がいた。


「あの……お花に夢中になっていて」

 興味がないなんて普通に言っちゃった。王子様に対して不敬に当たるのかな。当たるよね……どうしよう。


「普通、令嬢は王子と二人になると自分をアピールしてくるものなんだけどね」

 そう言う物なの?? アピール? 何を? どうしよう頭の中がハテナでいっぱいだ。





「君は普段何をしている時が楽しい?」

「乗馬をしている時が楽しいです」

「乗馬をするの?」

「はい」

「へぇ。僕も乗馬を趣味としているんだよ」

「そうなんですねぇ」

 王子様は絵本の王子様のように白馬にでも乗るんだろうか? でも王子様じゃなくても兄さまも白馬だった!


「そう言う時は、まぁ! 私たちは気が合いますね。今度是非一緒に遠乗りにでも……とか言うんだよ」

「そうなんですね。知りませんでした……」

 パパや兄様に遠乗りへ行きたいと言うと、ダメ! って答えが返ってきた。危ないからまだダメなんだそう。もし行く時は護衛や厩務員を連れて十人以上の大所帯になりそうだもの。気軽に遠乗りなんてできない!


「侯爵に王子と縁を繋いでこいとか言われなかったの?」

「? 言われませんでした」

 キョトンとした顔をして首を傾げるマリアベル。

 何が言いたいんだろうか? この王子様は……寧ろ王宮に行くって行ったらパパも兄さまも良い顔をしていなかった。


「私そろそろ戻りますね! おかあさまに王子……じゃない殿下はお忙しいからと言われていたので失礼しますね!」

「え!」



 逃げるが勝ち! あの王子様……なんなの? 変な人? 


「おかあさま、お待たせしました」

「あら? 早かったのね。もういいの?」

「はい。十分堪能しましたよ」

「そう? それでは帰りましょうか? 王妃様、本日はお招きいただきありがとうございました。娘ともども感謝しております」

 笑顔のママ。体調不良はどこへ……?

「相変わらずマイペースね……社交を再会したばかりだから許してあげるわ。気をつけてお帰りなさいね。マリアベル嬢、良かったらまた遊びにいらっしゃいね」



 そんなこんなで王宮でのお茶会は終了。

 
 疲れた……


 もういいや。

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