16 / 81
困った事になりました。
しおりを挟む「そうだ! 今日は息子を紹介するわ」
パンっと王妃様が思い出したように手を叩いた。
『王妃様、来てすぐで申し訳ありませんが、わたくしも娘もまだ社交を始めたばかりで、緊張のあまり体調が……ご招待頂いて申し訳ございませんが本日は失礼させていただいてもよろしいでしょうか?』
『それはいけませんね。体を大事にしてちょうだい。また招待しても良い? 今度は個人的にお話しましょう。マリアベル嬢も一緒にね』
と言う話は社交辞令ではなかったみたいで、本当に王妃様の個人的なお茶会の誘いを受けた。
「息子さん?」
……息子さんって! 王子様だよね? 王妃様の子は王子様だもん。
ママが急にふらついた!
「マリー帰りましょう。お母様は気分が悪くなってきたかもしれません」
少しだけ抑えめの声で言うも王妃様は
「あ、来たわ! 紹介するわね、息子のジェラールよ。ジェラールこちらロマーニ侯爵夫人とマリアベル嬢よ」
王妃様は人の話を聞かないタイプなのかもしれない。
「まぁ……殿下ご機嫌よう」
ママが立ち上がりカーテシーをしたので私もそれに倣った。
「どうぞ、顔を上げてください」
ママが顔を上げたので私も顔を上げた。
「ジェラールは、今年で十一歳になったの。マリアベル嬢とは一つ違いね!」
「殿下はもう十一歳に……時の流れの速さを感じましたわ」
ほほほほほ……っと笑うママ。体調不良はどこへやら。ポツンとハテナを浮かべながら立っていると
「あら、マリアベル嬢ゴメンなさいね。おばさんたちの話なんて面白くないわよね? そうよねぇ。ジェラール、お庭を案内したら? 今はラベンダーが見頃よ」
え、えぇーー! 王子様となんて無理。何を話せば良いか分かんないし、兄様に男の子と仲良くしたらダメって言われたし……
「ロマーニ侯爵令嬢、ご案内しますよ。行きましょうか」
ママの顔を見ると笑っているけれど、嫌そうな顔をしていた……と思う。目が笑ってないって感じ。
「マリー、殿下もお忙しいのだから無理を言ってはいけませんよ。すぐに戻っていらっしゃいね」
圧が……強め?
「はい。マ、おかあさま」
パパとママはパパ・ママと呼んでほしいみたいだけど、社交が始まったら外ではおとうさま・おかあさまって呼ばなくてはならない。外で間違えて呼んじゃうと困るから邸内でおとうさまって呼んだら、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。甘えてほしいんだって。ママにおかあさまって呼んだら笑顔ではあったけれど返事が返ってこなかった。
きっと外でも言っちゃうよ。ママって! 兄様は好きにさせてやりなよ……って言ってた。兄様は父上とか母上とか呼んでいるのにって言うと、息子だから! ってママもパパも言った。よくわかんない。
「王宮へは初めて来たの?」
王子様に言われた。気を遣って話しかけてくれているのかな?
「先日王妃様にお茶会の招待を受けましたので二回目です。あ、でも小さい頃にも来たことがあるようですが記憶にはありません」
覚えてませんって言うよりも記憶にない、って言った方がなんとなく良さそう……
「僕と会ったのは初めて?」
変な質問をしてくるなと思いつつも答えるマリアベル。
「はい。初めてお目にかかります」
「……そう? だっけ」
妙な間が気になったけど?
「はい。初めてです」
キッパリと答えるマリアベル。
「……ここだよ」
なぜだかがっかりした様子のジェラールを余所にラベンダーの香りを嗅ぐマリアベル。
「わぁ! 凄い! それに良い香り」
「このラベンダーでポプリを作ったり、バスソルトを作ったりするんだ。安眠効果が得られるんだよ」
「そうなんですねぇ。わかる気がします」
とても癒される香りだ。
「乾燥させたラベンダーをクッキーに入れたりもするんだよ」
「へぇ。食べられるんですねぇ」
ラベンダーをマジマジと観察するように見る。食べる? どの部分だろう……
「君は本当に僕に興味がないんだね……」
「はい、そうで……あ!」
っと言ってしまって振り向くと笑顔の王子様がいた。
「あの……お花に夢中になっていて」
興味がないなんて普通に言っちゃった。王子様に対して不敬に当たるのかな。当たるよね……どうしよう。
「普通、令嬢は王子と二人になると自分をアピールしてくるものなんだけどね」
そう言う物なの?? アピール? 何を? どうしよう頭の中がハテナでいっぱいだ。
「君は普段何をしている時が楽しい?」
「乗馬をしている時が楽しいです」
「乗馬をするの?」
「はい」
「へぇ。僕も乗馬を趣味としているんだよ」
「そうなんですねぇ」
王子様は絵本の王子様のように白馬にでも乗るんだろうか? でも王子様じゃなくても兄さまも白馬だった!
「そう言う時は、まぁ! 私たちは気が合いますね。今度是非一緒に遠乗りにでも……とか言うんだよ」
「そうなんですね。知りませんでした……」
パパや兄様に遠乗りへ行きたいと言うと、ダメ! って答えが返ってきた。危ないからまだダメなんだそう。もし行く時は護衛や厩務員を連れて十人以上の大所帯になりそうだもの。気軽に遠乗りなんてできない!
「侯爵に王子と縁を繋いでこいとか言われなかったの?」
「? 言われませんでした」
キョトンとした顔をして首を傾げるマリアベル。
何が言いたいんだろうか? この王子様は……寧ろ王宮に行くって行ったらパパも兄さまも良い顔をしていなかった。
「私そろそろ戻りますね! おかあさまに王子……じゃない殿下はお忙しいからと言われていたので失礼しますね!」
「え!」
逃げるが勝ち! あの王子様……なんなの? 変な人?
「おかあさま、お待たせしました」
「あら? 早かったのね。もういいの?」
「はい。十分堪能しましたよ」
「そう? それでは帰りましょうか? 王妃様、本日はお招きいただきありがとうございました。娘ともども感謝しております」
笑顔のママ。体調不良はどこへ……?
「相変わらずマイペースね……社交を再会したばかりだから許してあげるわ。気をつけてお帰りなさいね。マリアベル嬢、良かったらまた遊びにいらっしゃいね」
そんなこんなで王宮でのお茶会は終了。
疲れた……
もういいや。
69
お気に入りに追加
4,257
あなたにおすすめの小説

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

男爵令嬢の私の証言で公爵令嬢は全てを失うことになりました。嫌がらせなんてしなければ良かったのに。
田太 優
恋愛
公爵令嬢から嫌がらせのターゲットにされた私。
ただ耐えるだけの日々は、王子から秘密の依頼を受けたことで終わりを迎えた。
私に求められたのは公爵令嬢の嫌がらせを証言すること。
王子から公爵令嬢に告げる婚約破棄に協力することになったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる