私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

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ポニーがやってきた

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~ヴェルナー視点~


「まぁ、可愛いわ。ねぇあなたマリーに似合うわね」

 今日も商人が来ていた。出来上がったワンピースをマリアベルに着せていた。

「ヴェルナーと揃いの服も作らせたの」

 幼い子供に揃いの服を着せる事がある。ヴェルナーは十一歳マリアベルは八歳だから揃いの服を着るような年齢ではないが、幼い頃に揃いの衣装を着ることができなかった為ヴェルナーも悪い気はしない様で試着をしていた。揃いと言っても全てが同じわけではない。見れば兄妹と分かる感じだ。


「兄さまとお揃いだね」

「そうだね。今度この服を着て出掛けようか?」

「うん」

 くるくると回って見せるマリアベルにみんなが癒されていた。
 着せ替え人形のようにマリアベルの衣装が並べられていた。


 マリアベルの母であるメアリーは、マリアベルが帰ってきてから元気を取り戻し、一緒に食事を取る様になった。不思議とマリアベルの食事マナーは悪くなく、食卓の椅子に座るとビシッと背筋を伸ばす。これも不思議な彼の影響なのかもしれない。


 正直あまり驚かなくなってしまった。


「マリー、食事が済んだらパパからプレゼントがあるんだ。みんなで見に行こうか?」


「うん」


 今ではこんなに元気なマリアベルだが『お母さんに会いたい』と毎日しくしく泣いて元気がなかった。


 急に育てられていた人物から引き離されたのだから当然だろう。今までの生活とは全くと言って別物。それに急に家族ができたり、田舎から首都への生活。使用人が沢山いる大きな邸。慣れるわけもない。

 僕たち家族とマリーとの気持ちの温度差は痛いほどに違う……


 父が『彼はリアンさんと言って旅に出かけた様なんだ。でもいつもマリーを見守っていると言っていた。マリーの幸せを願ってくれていたよ。だからマリーもリアンさんの幸せを願ってあげて欲しい』と言って優しく抱き締めていた。

『リアンさん? お母さんの名前?』

『そうだよ。お母さんじゃなくて名前で呼んであげなきゃ』

『うん。また会える?』

『きっと会えるよ。その時にマリーが元気じゃなかったらリアンさんは悲しむだろうね』

『リアンさん悲しいの?』

『次にリアンさんに会うときはマリーに笑顔で再会して欲しいよ。そうじゃないと私もリアンさんに申し訳がたたないかな』

『リアンさん……』

 こくんと頷くとマリアベルは父にしがみついて父の上着に涙のしみを作っていたが、父は優しくマリアベルの頭を撫でていた。さすが父だ。マリアベルが落ち着いた頃を見計らって、そのまま抱っこしたまま歩き出す父。

『父上、どこへ?』

 僕の質問に父は答えた。

『マリーと散歩だよ。邪魔するなよ』と言った。どうやらその時に馬を見に行き、マリアベルの好みを聞いていたようだ。そして今日に至る。



******



「お馬さん?!」

 白と茶色の毛並みの優しい目をしたポニーがそこにいた。


「あら? 届いたのね。マリーケガだけには気をつけてね。誰もいない時にポニーに乗ってはいけませんよ? 約束出来る?」

 母も知っていたのか。

「わぁぁぁ……良いの? このお馬さんマリアの?」

 目をキラキラさせてポニーに近寄ろうとするマリアベルを父がひょいと抱き上げてポニーの近くへと行った。

「このポニーの名前はリザと言うんだよ」

「リザ? 私の名前はマリアベル。よろしくね」

 リザの頭を撫でていた。


「さっきママも言ったけどケガだけは気をつけて欲しい。マリーに何かあったら乗馬は禁止するからね?」

「うん」

 マリアベルの頭を撫でる父を嬉しそうに母が見ていた。

「マリーは良い子だ。リザと仲良くなるためにリザの世話をマリーにも手伝って貰おうと思っている」

「うん! 仲良くする。お手伝いする」

 ぱぁぁーっと笑顔になった。

「喜んでもらえたようでパパも嬉しいよ。初めはヴェルナーと一緒の時間に乗馬の練習をすると良い」

「兄さまと一緒?」

「そうだよ」

 最近は学園入学の為の勉強に時間をかけていてマリーとの時間が少し減っていた。

「兄さまと一緒だ、マリーも兄さまのように勉強もする」

「マリーはお勉強がしたいの?」

 母がマリアベルに聞く。


「うん。兄さまはお庭に行くとお花の名前をたくさん知っていたり質問をするとなんでも答えてくれるもん。おか、リアンさんもなんでも教えてくれたの」


 ……これは嬉しい。尊敬される兄ってかっこいいよな。それにしてもリアンさんか。一度会ってみたいと思った。


「もう少し落ち着いたらと思っていたけれど、マリーがお勉強をしたいと言うのならマリーにも先生を付けましょうね」

 母が穏やかな顔をしている。

「マリー、嫌なことは嫌だとちゃんと教えてくれよ。やりたいことがあったらパパに相談して」

「あら? ママもいるから相談してね。娘の相談役は母親の役目ですものね」


 どこからどう見ても仲良く幸せな家族にしか見えない。マリーは純粋でとても可愛い。だから心配だ。どろどろした貴族社会で順応できるのか……前の生活の方が幸せだったんじゃないか……そんなことは両親に言えない。心の中にしまっておく。


 今日はリザとの対面だけで明日から練習だそうだ。

 ! そういえば乗馬服をたくさん購入していた。


『そんなにたくさんいらないでしょう? すぐに大きくなってサイズが合わなくなりますよ?』

 と言っても父も母も聞く耳持たずだ。

『種類が豊富にあるんだもの。どれもこれも似合いそうで選べないわ! それに大きくなることは良いことだもの。それは喜びよ。ね! あなた!』

 と母がいい

『マリーのための買い物だ。ヴェルナー、親孝行だと思って見守ってやってくれ』


 これが親孝行になるのなら僕は黙って受け入れよう。確かに似合いそうだし数年間離れて暮らしていた分を少しでも埋めれるのならそれで良い。マリーが嫌がったら僕はマリーの味方になろう。

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