10 / 81
ポニーがやってきた
しおりを挟む~ヴェルナー視点~
「まぁ、可愛いわ。ねぇあなたマリーに似合うわね」
今日も商人が来ていた。出来上がったワンピースをマリアベルに着せていた。
「ヴェルナーと揃いの服も作らせたの」
幼い子供に揃いの服を着せる事がある。ヴェルナーは十一歳マリアベルは八歳だから揃いの服を着るような年齢ではないが、幼い頃に揃いの衣装を着ることができなかった為ヴェルナーも悪い気はしない様で試着をしていた。揃いと言っても全てが同じわけではない。見れば兄妹と分かる感じだ。
「兄さまとお揃いだね」
「そうだね。今度この服を着て出掛けようか?」
「うん」
くるくると回って見せるマリアベルにみんなが癒されていた。
着せ替え人形のようにマリアベルの衣装が並べられていた。
マリアベルの母であるメアリーは、マリアベルが帰ってきてから元気を取り戻し、一緒に食事を取る様になった。不思議とマリアベルの食事マナーは悪くなく、食卓の椅子に座るとビシッと背筋を伸ばす。これも不思議な彼の影響なのかもしれない。
正直あまり驚かなくなってしまった。
「マリー、食事が済んだらパパからプレゼントがあるんだ。みんなで見に行こうか?」
「うん」
今ではこんなに元気なマリアベルだが『お母さんに会いたい』と毎日しくしく泣いて元気がなかった。
急に育てられていた人物から引き離されたのだから当然だろう。今までの生活とは全くと言って別物。それに急に家族ができたり、田舎から首都への生活。使用人が沢山いる大きな邸。慣れるわけもない。
僕たち家族とマリーとの気持ちの温度差は痛いほどに違う……
父が『彼はリアンさんと言って旅に出かけた様なんだ。でもいつもマリーを見守っていると言っていた。マリーの幸せを願ってくれていたよ。だからマリーもリアンさんの幸せを願ってあげて欲しい』と言って優しく抱き締めていた。
『リアンさん? お母さんの名前?』
『そうだよ。お母さんじゃなくて名前で呼んであげなきゃ』
『うん。また会える?』
『きっと会えるよ。その時にマリーが元気じゃなかったらリアンさんは悲しむだろうね』
『リアンさん悲しいの?』
『次にリアンさんに会うときはマリーに笑顔で再会して欲しいよ。そうじゃないと私もリアンさんに申し訳がたたないかな』
『リアンさん……』
こくんと頷くとマリアベルは父にしがみついて父の上着に涙のしみを作っていたが、父は優しくマリアベルの頭を撫でていた。さすが父だ。マリアベルが落ち着いた頃を見計らって、そのまま抱っこしたまま歩き出す父。
『父上、どこへ?』
僕の質問に父は答えた。
『マリーと散歩だよ。邪魔するなよ』と言った。どうやらその時に馬を見に行き、マリアベルの好みを聞いていたようだ。そして今日に至る。
******
「お馬さん?!」
白と茶色の毛並みの優しい目をしたポニーがそこにいた。
「あら? 届いたのね。マリーケガだけには気をつけてね。誰もいない時にポニーに乗ってはいけませんよ? 約束出来る?」
母も知っていたのか。
「わぁぁぁ……良いの? このお馬さんマリアの?」
目をキラキラさせてポニーに近寄ろうとするマリアベルを父がひょいと抱き上げてポニーの近くへと行った。
「このポニーの名前はリザと言うんだよ」
「リザ? 私の名前はマリアベル。よろしくね」
リザの頭を撫でていた。
「さっきママも言ったけどケガだけは気をつけて欲しい。マリーに何かあったら乗馬は禁止するからね?」
「うん」
マリアベルの頭を撫でる父を嬉しそうに母が見ていた。
「マリーは良い子だ。リザと仲良くなるためにリザの世話をマリーにも手伝って貰おうと思っている」
「うん! 仲良くする。お手伝いする」
ぱぁぁーっと笑顔になった。
「喜んでもらえたようでパパも嬉しいよ。初めはヴェルナーと一緒の時間に乗馬の練習をすると良い」
「兄さまと一緒?」
「そうだよ」
最近は学園入学の為の勉強に時間をかけていてマリーとの時間が少し減っていた。
「兄さまと一緒だ、マリーも兄さまのように勉強もする」
「マリーはお勉強がしたいの?」
母がマリアベルに聞く。
「うん。兄さまはお庭に行くとお花の名前をたくさん知っていたり質問をするとなんでも答えてくれるもん。おか、リアンさんもなんでも教えてくれたの」
……これは嬉しい。尊敬される兄ってかっこいいよな。それにしてもリアンさんか。一度会ってみたいと思った。
「もう少し落ち着いたらと思っていたけれど、マリーがお勉強をしたいと言うのならマリーにも先生を付けましょうね」
母が穏やかな顔をしている。
「マリー、嫌なことは嫌だとちゃんと教えてくれよ。やりたいことがあったらパパに相談して」
「あら? ママもいるから相談してね。娘の相談役は母親の役目ですものね」
どこからどう見ても仲良く幸せな家族にしか見えない。マリーは純粋でとても可愛い。だから心配だ。どろどろした貴族社会で順応できるのか……前の生活の方が幸せだったんじゃないか……そんなことは両親に言えない。心の中にしまっておく。
今日はリザとの対面だけで明日から練習だそうだ。
! そういえば乗馬服をたくさん購入していた。
『そんなにたくさんいらないでしょう? すぐに大きくなってサイズが合わなくなりますよ?』
と言っても父も母も聞く耳持たずだ。
『種類が豊富にあるんだもの。どれもこれも似合いそうで選べないわ! それに大きくなることは良いことだもの。それは喜びよ。ね! あなた!』
と母がいい
『マリーのための買い物だ。ヴェルナー、親孝行だと思って見守ってやってくれ』
これが親孝行になるのなら僕は黙って受け入れよう。確かに似合いそうだし数年間離れて暮らしていた分を少しでも埋めれるのならそれで良い。マリーが嫌がったら僕はマリーの味方になろう。
107
お気に入りに追加
4,284
あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる