9 / 81
お母さんと呼ばれる男
しおりを挟む「トニー! 遅かったな。十分な謝礼を渡してくれたか?」
マリーの父であるロマーニ侯爵が言った。
「……それが受け取りを拒否されました。一緒に過ごした四年間は彼にとっても楽しい時間だったからと逆にお礼を言われてしまいました。当主がお会いしたいと言っていると言うことも伝えましたが、分不相応と言い断固として拒否されました」
トニーのことは信頼しているしトニーが言ったからにはそうなのだろうがせめて謝礼は受け取ってもらいたいところだ。
「どんな感じの男なんだ? そこまで言うと言うことは悪い人ではないのだろうが……」
謝礼を受け取らないと言うことは生活には困っていないと言うことだろうか。マリーの着ていた服、ぬいぐるみを見る限り酷い生活ではなかったようだ。
「年齢はまだ若く身長は180センチほど、ガタイの良いというか余計な贅肉はないと言った感じです。貴族の使いである私に、しっかりとした受け答えをしていましたし、ただの平民の男ではないと言った感じがしました」
「名前は?」
「リアンと名乗っていました」
「リアンか……それでトニーが遅くなった理由とは?」
話をしてくるだけならそんなに日数を要さないだろうし調査はお手のもの。そのおかげで王家からの評価も高いのだから。
「リアンという男について調べたのですが、何も分かりませんでした。家に入って話をしたのですが、家の中は余計なものが一切なくシンプルでした。しかし本は何冊もありました。本は高価ですし片田舎にあるような本ではありませんでしたし、着ている服はシンプルですが仕立ての服と言った印象でした」
「何が言いたい?」
片田舎、本、仕立ての服……謝礼を受け取らない姿勢。
「恐らく彼はこの国の者ではなく、他国から流れてきた人物であると思いました。彼がいうにはたまたま狩に入った森の中でマリアベルお嬢様を保護したと言っていました。幼子がぐったりと倒れているところを発見し、近くの村まで運び看病したようです。その時マリアベルお嬢様は頭を強く打ったようで、名前はおろか何も覚えていなかったという事です。貧しい村に置いていくと、マリアベルお嬢様が売られる可能性があった為、お嬢様を引き取り暮らしていたという事です。その村は国境に近かった事から、マリアベルお嬢様を連れて逃げた犯人は国境を越えようとしていた……そう思われます。越えられていてら発見することは難しかっだと思います」
「犯人はマリーといなかったのか?」
「リアンが言うには川の上流に血痕が残っていたと。犯人は別の何者かに襲われたのではないかとの事でした。川の流れは穏やかでしたが下流でマリアベルお嬢様が見つかったのです。恐らく犯人が逃すためにマリアベルお嬢様を川に……」
国境・森・川……これを聞くとマリーが生きていたことが奇跡である。と言わざるを得ない。
「リアンは恩人だ。彼に会いたい。こちらから出向くとするか!」
せめて親である私から礼を言わせてもらいたい。
「……それが」
「何か問題でも?」
「はい。この場に長く留まりすぎた言って、住んでいた家をでるといっていました」
「長く留まりすぎた? 何か問題でもあるのか?」
「答えてはもらえませんでした。マリアベルお嬢様が家族に捜索されていた。という事を聞いてリアンはとても喜んでいましたし、家族の元に帰るのが一番だと言っていました。その事を考えるとリアンはマリアベルお嬢様から手を引いた……と考えられます」
「リアンはどこへ行った?」
「部下をつけさせましてが、撒かれてしまいました。途中の村に馬を置いてあったようで、馬に乗ったまでは確認しています」
途中の村に馬を置いている? どう言うことだろう……どこへ行くつもりなのだろうか。
「そうか……ご苦労だった。マリーになんて話せば良いのか難しいな」
「……どちらへいくのか教えてください、マリアベルお嬢様が悲しみます。と伝えたところ『旅に出る。またどこかで会おう。いつでも見守っている』と伝えて欲しいと言っていました」
いつでもと言う言葉が引っかかるがそのように伝えよう。
「謎が多い男だな」
「はい、部下に言って家の周りを見張らせましたが家は完全に引き払ったようでリアンに家を貸していた男が掃除をしに来ました。元々荷物が少なかった様で身軽でした。残った家財は備え付けのものと食器、寝具類、マリアベルお嬢様の洋服が数枚ほどでした」
「国境に向かったのか?」
「いえ。南に向かったということまでは報告を受けています」
「なぜトニー直々尾行しなかった?」
「顔がバレています。私の部下は優秀ですから信用しています」
うちの暗部は優秀だ。間違いはない。
「トニーが信用していたのなら、分かった。また何か分かったら報告してくれ」
暗部でも優秀な部下を撒く様な男か……只者ではない。
107
お気に入りに追加
4,238
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!
らんか
恋愛
あれ?
何で私が悪役令嬢に転生してるの?
えっ!
しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!
国外追放かぁ。
娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。
そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。
愛し子って、私が!?
普通はヒロインの役目じゃないの!?

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる