私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの

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え! 私が死んだと思われていたお嬢様?

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「おぉ……これは……お嬢様……いえ奥様にそっくりです」


 涙を浮かべながら私を見るおじさん。綺麗に整えられた服を着ていた。


「おじさんは誰?」


 初めて見る人……なんで私を見て懐かしそうな顔をしているの? お母さんはまだ帰ってきていないのに、知らない人と話したらダメなのに。


「小さなレディ、お名前を伺ってもよろしいですか?」


「わたしの名前はマリアベル……」


 私の名前はマリアベル。今お母さんと呼んでいる人とは血のつながりはない。私は小さい頃に死にそうになっていてお母さんに拾われた。


 その時の記憶はまるでない。どうして名前が分かるのか? それはお母さんに拾われた時にネックレスを付けていて名前が刻印されていた。


「失礼ですが貴女様がマリアベル様であると言う持ち物をお持ちですか?」


 おじさんの口調は優しくてすごく丁寧。信用して良いのかな? お母さんはまだ帰ってきてない。


「……これ」

 首に下げていたネックレスを見せた。


「マリアベル様にお間違いありません。マリアベル様は小さい頃に、誘拐に遭われました……犯人を捕まえるために私達はマリアベル様を探しました。誘拐犯のアジトを見つけようやくお助けができると思った時に、犯人の一人がマリアベル様を連れ去り、その後行方不明になり、長い間捜索しておりました。お迎えが遅くなり申し訳ございませんでした」


 おじさんと、その後ろにいた男の人たち全員が膝をついて頭を下げた。

「さぁマリアベル様、お家へ帰りましょう。みなさんがお待ちです」


 私はマリアベルだけど、おじさん達の言うマリアベルなの? だって何も知らない。


「お母さんがまだ帰ってきてないもの。勝手に行けない」

 首を振って行きたくないと言った。


「お母さんとは、どなたでしょうか?」


「お母さんはお母さん! 私と一緒に暮らしているの!」

 プクッと頬を膨らますマリアベル。


「左様でございましたか。それではその女性をお待ちすることにします」



 お母さん、早く帰ってきて……ぐすっ。知らないおじさん達と一緒にいる空間に慣れていなくて、緊張のあまりに涙が出てきた。


「ただいま~マリア良い子に、」


「お母さん!」


 お母さんの姿を見て走って抱きついた。お母さんはひょいと私を抱っこしてくれた。

「マリアを泣かせたのはあなた達なのか?」


 背の高いお母さんに睨まれておじさんは少し怯んだように見えた。


「失礼いたしました。マリアベル様がお母さんとおっしゃったので、勝手に女性を想像していました」


「マリアお母さんのこと女の人だなんて言ってないもん。ぐずっ」


(いや、普通は女性だと思うだろ。と誰かの声が聞こえてきそうだ)


「あぁ、泣かなくて良い。マリア一人でよく頑張ったな。お利口だ」


「うん」


 頭を撫でると嬉しそうに返事をするマリアベル。


「失礼……私どもはマリアベル様を迎えに来たものです。マリアベル様を今まで保護していただいたようで感謝します。私どもはずっとマリアベル様の行方を探しており、ようやく此処を探し出す事ができました。マリアベル様を本来のご家族の元へお返しいただきたく存じます」


 マリアベルが誘拐された事、家族が待っている事を告げた。



「そうか。やはりマリアは良いとこのお嬢様だったのか……こんな薄汚い田舎の家に住まわせてしまっていたとは申し訳ない事をした。マリア良かったな、おまえには家族がいるんだって」

 お母さんと呼ばれている男から離れようとしないマリアベル。


「マリアの家族はお母さんでしょう? お母さんにもお父さんにもお兄さんにもなってくれるって言ったもん」
 

「あぁ、言ったな。でも帰る家があるんだ。それに待っている家族がいる。本当のお母さんやお父さんが待っていてずっとマリアを探していたと言っているぞ」


「やだ! お母さんも一緒じゃないと行かないもん」
 
「弱ったな……」

 頭を掻きむしるお母さんと呼ばれる男。


「マリアベル様、一度ご両親に会ってみませんか? マリアベル様のご家族はマリアベル様がいなくなったあの日以来お帰りをずっとお待ちしているのです……どうかお願いいたします」


 おじさんが深く頭を下げ続けた。



「マリア行っておいで。自分の目で確かめてこい」

 まだお母さんと呼ばれる男から離れようとしないマリアベル。


「お母さんも一緒に来てくれる?」

 目に涙をいっぱいためながら、お母さんを見上げる。


「いや、遠慮しておく。お迎えの人がたくさんマリアの為にきてくれているだろう? それにほら、立派な馬車まで用意されているぞ」

 馬車が家の前に止まり、メイド服を着た女性が二人馬車から降り頭を下げた。


 お母さんは馬車の前まで抱っこして連れてきてくれて、女の人に挨拶をした。

「よろしくお願いします」

 お母さんが女の人に頭を下げる。


「畏まりました」


 女の人に手を引かれて馬車に乗せられそうになった。


「待って!」


 マリアベルは大きな声で女の人に向かって叫ぶ。



「マリア、どうした?」


 お母さんと呼ばれる男は馬車からぴょんと飛び降りるマリアベルを見て驚く。


「お母さんから貰ったクマさんのぬいぐるみ持って行くの。大事なぬいぐるみだから一緒に行く」

 走って家の中に入りクマのぬいぐるみを抱きしめて戻ってきた。


「お母さん……行ってきます、待っててね」

 マリアベルはクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きながら涙を流していた。


「……おう、じゃあなマリアベル」

 

 絶対に帰ってくるから……


 
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