上 下
74 / 74

私はだれ?

しおりを挟む

「お兄様……」
「うん。言いにくいのなら僕から質問してもいい?」
「うん」

「エマはどうして庶民の生活を知っている? エマは貴族の娘だよ。僕も全て知っているわけではないけれど庶民の生活と僕たちの生活はまったくの別物だし、エマは庶民の生活をおくったことないよね?」
「うん」

「エマは頭を打って意識が戻ったときから……様子が変わったよね?」
「……お兄様、気がついていたの?」

「そりゃ……少し変わったところで大事な家族であることに変わりない」
「お兄様、私この家の子じゃないの。騙していてごめんなさい」

 お兄様はショックを受けていた。そりゃそうよね。妹と思っていた子に他人だって言われたんだもの。

「なぜそんな悲しいことを言うんだい。理由を聞いてもいい?」

「私は、頭を打ってから前世の記憶が蘇ってきたの。でもこの体のエマの記憶も残っていて、だからエマのふりをして騙していたの。だから私はこの家の子じゃない」

 お兄様はなにかを考えているようで無言だった。

「お兄様、ごめんなさい、もうお兄様って呼べませんから、モンフォール子息、」
「やめろ! いい加減にしないと怒るぞ。エマはエマだ! 僕の妹でエマ・モンフォールだ。おまえの父親も母親もお前が心配だから怒っているんだ! エマがうちの子じゃない? おまえが一人で言っているだけだろうが! 悲劇のヒロイン気取りなら迷惑だからやめろ!」

「でも、」

「確かに変わったところはある。でもな、僕に甘えてくるところは昔から変わらない。エマはおとなしい子だった。今はこんな騒動を起こすほどお転婆だけど、それでいいじゃないか。今のエマがあるから学園で問題が起きても戦えたんだろ。それなら僕は感謝しかない」

「でも、」
「……頭を打って意識をなくしてその間に別の誰かがエマに入ってきたのならエマはどこに行ったんだ? 考えたくないけど……死んだのか?」

 それを考えたこともある。でも怖くて怖くて……

「ごめんなさい、わかりません」
エマは頭を打ってからはじめて僕にあったとき、お兄様と呼んだし父上や母上の顔も知っていた。エマの記憶がしっかりある。もしかして死んでしまったのは、エマの体に入ってきたのは前世? のエマなんじゃないか?」

 多分そうだと思う。マンガを読んでワインを飲んで何かのきっかけで死んだんだと思う。名前も一緒だし。

「……そうかもしれません」

「エマ、前世の名前は?」
「……エマ。同じ名前です。スペルは違います」

私の名前は漢字表記だったけどこの世界に漢字はない。だからスペルで間違いないと思う。

「何かの本で読んだことがある。神話的な話だと思っていたけれど、魂が同調とか入れ替わったとか……僕は入れ替わったと思いたいな。入れ替わったならエマは別の世界で生きていることになるからね」

 そっか。入れ替わった可能性があるのか。それならエマはきっと驚いているだろうな。この世界は漫画の中でニホン人が書いた物語だから街中は清潔で下水道もきちんとしているから違和感なく生活できるけれど、あっちの世界はエマからしたら驚きの連続だろうな。私がこの世界で家族に支えられているみたいにエマもあっちの世界で楽しく生活していればいいな。

「複雑な心境ですよね」

「そうでもない。エマはエマだし。それに頭を打つ前のエマは僕と当たり前に手を繋いでなんてくれなかった。学園だって別々に行っていた可能性もある。父上も母上もうちの皆だって何か異変は感じていると思うけれど今のエマが好きなんだ。複雑なのはエマに元気がないこと、よそよそしいところだね。僕はもっとエマのことを知りたいと思った。元いた世界はどんな世界だったかとか、こっちの世界との違いとか……あっちの世界でエマが楽しく生活できていればいいなとか、そんな感じだね」

「……またお兄様と呼んでもいいのですか」
「当たり前だろ。エマはバカだな。おいで」

 そっと立ち上がりお兄様の隣に座ったらぎゅっと抱きしめられた。

「今まで異変に気付きながら黙っていてごめん
。辛かったな、これからは僕もエマの秘密を知っている一人だ。変わらず愛しているよ」

「お兄様……私も大好きです」

わぁぁん。と声をあげて泣いた。そしてお兄様が婚約するって聞いて寂しかったのだと打ち明けたら、さらに抱きしめられた。

「エマが妹じゃなかったらお嫁さんにしたかったけどね。残念ながら血のつながった兄妹だからね。本当に残念だけどエルマンに任せることにしたんだ……エルマンの執着は凄まじいんだ。エマのことを気持ちが悪いくらいに好きなんだよ? エマが逃げたとしても絶対に捕まっちゃうから、平民になる必要はない。父上も今頃言い過ぎたと後悔しているだろうね。明日一緒に謝ろうな」
「はい」

「エマはいい子だね。次はそこにいる顔面蒼白にしているエルマンと話だな。エマに捨てられそうになって廃人化している」

そうだった……エルマンのことすっかり忘れていた。いつもなら口出ししてくるのに。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

こういうの「ざまぁ」って言うんですよね? ~婚約破棄されたら美人になりました~

茅野ガク
恋愛
家のために宝石商の息子と婚約をした伯爵令嬢シスカ。彼女は婚約者の長年の暴言で自分に自信が持てなくなっていた。 更には婚約者の裏切りにより、大勢の前で婚約破棄を告げられてしまう。 シスカが屈辱に耐えていると、宮廷医師ウィルドがその場からシスカを救ってくれた。 初対面のはずの彼はシスカにある提案をして―― 人に素顔を見せることが怖くなっていたシスカが、ウィルドと共に自信と笑顔を取り戻していくお話です。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。驚くべき姿で。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 ※世界観は非常×2にゆるいです。   文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

処理中です...