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波乱の入学式

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 今日は待ちに待った入学式! 友達が出来るといいな。お兄様と馬車に乗り学園での話を聞いた。お兄様は友人も多いみたいだけど、あまり友人の話をしてくださらないのよね。

「さぁついたよ」

 馬車を降りようとすると手が差し伸べられた。サムエルかと思って手を借りようとすると……

「おはよう、エマ嬢。学園を案内するよ」

 なんで、エルマンがここに? フリーズしているとお兄様が先に降りてくれた。そしてお兄様がエルマンの手を借りて馬車を降りた。

「出迎えをしてくれてありがとう。エルマン殿」

 エルマンは不服そうにお兄様と睨めっとしていた。その合間を縫って馬車を降りようとしたら段差で足がもつれた。 

「きゃぁっ、」
「エマ嬢っ、」
「エマ!」

 近くにいたサムエルに抱き止められたからことなきを得た。危なかった……

「お嬢、気をつけて」」
「君、私の婚約者に気軽に触れないでくれ」
「婚約者ではないですよ。うちはお断りをしましたからね?」

 にこりとお兄様が微笑む。

「また新たに釣書を送っておいた」
「あぁ、あの分厚い書類は釣書でしたか?」
「エマ嬢に私のことを知ってもらうための資料だ」

 ばちばちと火花が飛び交う2人。どうやって止めるの、これ? 

「お嬢、そろそろ会場に行ったらどうだ? 初日から遅刻はまずいだろ」

「うん。そうだね。いってくるね」
「いってらっしゃいませ、お嬢様」

 サムエルが頭を下げて対外的に挨拶をしたのがいつもと違って面白くてつい笑ってしまった。


 そしてその日から何が悪かったのか、おひとり様決定になってしまった。どこへ行ってもひそひそと噂をされる。原因はエルマンとフェルマンだと思う。2人とも婚約者はいない人気の子息だった。2人は今まで一緒に行動をしていた。それなのに私という異分子のせいで2人の関係が良くないのだとか。

 フェルマンに軟派な男は嫌いだと告げたら、フェルマンは令嬢達にそっけなくなり今までのような気さくさが抜けた。まるで今までは無理をしていたと言わんばかりに挨拶程度での付き合いになったみたい。

 エルマンは私の教室に来ることもあった。そして婚約者なんだから当然だと言った。大勢の前で拒否するのを躊躇われたのだけど通りかかったフェルマンが、エルマンに
「まだ申し込み段階だろ。エマ嬢が困っている」と私を庇ったことにより2人は別行動することになった。

 令嬢達を敵に回してしまった私は基本1人で行動することになる。

 移動教室の為廊下を歩いていると前にいた令嬢達の1人がハンカチを落とした。

「あ、ハンカチ落としましたよ」
「あら、ありがとう、って最悪! モンフォール嬢だわ」

 拾ったハンカチを親指と人差し指で持つ令嬢。まるで汚いものにでも触れたみたいだった。

「やだぁ。淫乱菌がうつっちゃうわ」
「早く焼却処分した方がよろしいわね」
「はぁっ。モンフォール嬢のお兄様も可哀想よね。淫乱な妹がいるからって婚約の話が立ち消えているんですって」

 なんと! お兄様に迷惑をかけていた。それは申し訳ないことをした。流石に悲しくなってきて顔を背けると、どんっと背中を押されてそのまま廊下に倒れてしまった。

「あら、いらしたの? 全く気が付かなかったわ」

 2年生の令嬢だった。確かこの人エルマンとお見合いをしてフェルマンにちょっかいをかけられてその気になり尻軽と言われていた令嬢だ。傲慢である事はマンガで読んで知っていたけれど、こうあからさまに嫌がらせを受けると悲しいものね。

 ざわざわと周りがうるさくなってきた。みんな廊下に倒れ込んでいる私をみて笑っている。当然だと言わんばかりに。でも泣いたら余計惨めになる。なんでこんなことになったのか……。

「早く立ち上がりなさいな! みっともない。私が嫌がらせをしているように見えるじゃないの」
「見えるじゃなくてそうだろう? うちの妹が何をしたと言うのだい?」

 お兄様!

「エマ、大丈夫か?」

 お兄様が立ち上がらせてくれた。

「ココン伯爵令嬢、うちの妹が何か?」
「キリアン様、違うのですわ。少しぶつかってしまって妹君が大袈裟に転んでしまったのですわ。お分かりいただけますよね? キリアン様はお優しいですもの」

 お兄様は優しいと言われてピクッと頬が動いて笑顔をみせる。

「そうですか。それはうちの妹が失礼しました。しかしこの学園は廊下で倒れている令嬢を取り囲んで団体で笑うという習慣があるのですね。知りませんでした」

「それも誤解ですわ!」

 みて見ぬふりをしていた令嬢達や、笑っていた令嬢達は目を逸らした。

「うちの妹を淫乱呼ばわりしていると報告を受けています。ありもしない噂を誰が言っているかも調べがついています」

 さっき淫乱菌と言って笑っていた令嬢達の顔が青くなっていた。

「エマ、どうして嫌がらせを受けている事を僕に伝えなかったんだ? 僕は頼りにならないのか?」

 ううん。と首を振る。

「エマは悪いことをしていないのだから堂々としていいし、文句の一つや返してやればいいんだ。誰のせいでこんな目に遭っているのかと、あの2人に言ってもいい。分かったかい?」

 はい。と返事をして騒ぎが大きくなる前に移動教室へと向かった。

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