侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの

文字の大きさ
上 下
56 / 65

学園にて、招かざる珍客

しおりを挟む

 学園に通うようになって数ヶ月が経った。

 今日は王妃様とお茶会があり、マデリーンも招待されていて一緒に帰る時のことだった。


「数人の令嬢が一気に謹慎処分って何かあったのかしら?」

 先日の王宮での悪口が色んな人の耳に届いたようだ。


「マデリーンに言ってなかったんだけど……実は王宮でね、品位に欠ける言動があったからそれぞれの家の人の耳に届いたみたい。王宮は色んなところに人の目があるから、気をつけないといけないわよね」


 にこりと笑うリリアン。

 侯爵家と王家を侮辱するように笑っていたのを周りが聞いていた。

 その時の事が噂になり今回の謹慎処分となった。と聞いた。


 令嬢たちの親は侯爵家うちに謝罪に来たらしいが父や兄は知らぬ存ぜぬの一点張り。追い返したのだそう。

 だって私はお父様にもお兄様にも報告していませんもの。

 噂が先走りしたのね! 

 それでも噂が事実ならば……どうするのかな? と兄様は笑って言ったのだそう。


 私も令嬢達の家の人にお会いしていないから、こうする他なかったのでしょう。

 文句があるのなら彼女達は私に直接言ってくれれば良かったのに。そうしたらここまで大袈裟には……うん。なっていたわね。


「口は災いの元って事ね」


「時と場所を選ばないと。殿下やお兄様、キリアン様を悪く言われたくないわ。私も強くならなきゃ」


「貴族社会で女性が生き抜いていくには大事よね」 


 社交界では如実にヒエラルキーが存在する。学園では生徒として許されても、社交界では許されないし更に家自体の評判にも関わる事になる。


「交友関係を広めるために学園に通っているのだもの。貴族社会は繋がりがものを言うと幼い頃から習ってきているでしょうに」

 貴族の子供達は幼い頃から厳しく教育されているはず。幼い子供ならまだしも、社交界に出ると大人扱いなのに。幼稚な事を王宮でしたのだから当然ね。


「あら、頼もしいわね」


「リックと婚約すると言うことはそういうことなのよ。言動を一から見直しをしているの。反省の毎日なの」


「殿下は喜んでいるでしょうね。リリーがこんなに成長して……」

 なんだろう。親戚のおばさまが、大きくなったわねぇ。という目で見てくる時のような顔つきだわ!


「最近リックが優しいの……それに自分から攻撃? を仕掛けない限りは正当防衛になるし、少しは反撃をしないと王宮のような場所では生きていけないもの。強かさが重要なんですって」

「成長しましたのね、リリー……驚いたわ」

 マデリーンったらまた! その目つき……

「王妃様が苦労されたようでお話を聞いて私も励まされたの」


 そんなことを言いながら、校舎からちょうど出ようとした時だった。







「ちょっと!」

 ばーーん! と仁王立ちで現れた派手な女性。クラウディア王女……だった。


 名目上、大恋愛の上結婚したとか? 言われている。今では元王女様ね。


「何か言ったらどうなの!」


 この王女様は気品も何もあったものではないわね……それに少し前よりも美貌に翳りが?


「お久しぶりでございます。クラウディア王女様」

 淑女の礼をすると、はぁっ? っと明らかに機嫌が悪くなった。


ですって! 貴女のせいで私はこんな目に遭っているのに!」


 憎たらしいものを見る目つきだわ。

「まぁ! どのような目に遭っておられますの? 勉強不足で存じ上げませんでした……恥ずかしい限りですわ」


「ふん! 王宮から追い出されて、好きでもない男と結婚させられて、地位もなくなり貧乏暮らしよっ」

 他に生徒がたくさんいるのに恥ずかしくないのかしら? 私は恥ずかしい。


「まぁ。苦労なさっていますのね……」

 口に手を当ててしおらしく答えた。それを見て激昂する元王女。

「フレデリック様を返してちょうだい! 私が嫁ぐ予定だったのよ! この泥棒猫!」

 元王女が掴みかかろうとしたところ、漸く学園の警備が走ってきた。

 警備が私とマデリーンの前に立った。


「少しお話をさせてください。周りの生徒をこちらに近づけないでくださると助かります」


 聞かれたくない話もあるだろう。でもこれでこの元王女と会うのはおそらく最後になるから話だけでもしておきたい。少し恨みもある。

王女様、ここは人が多いので少し場所を変えますわよ。みんなの迷惑ですもの」

 “貴女の存在が”  

 ボソッと聞こえないように言ったら、マデリーンは驚きながらも笑っていた。


 人払いをしたところで王女はギャンギャンとまた騒ぎ立てる。正直言って品位のかけらもない。優雅さ優美さどれも王族としてふさわしくない。

 初めて王女様としてお会いした時は、美しい人だと思ったのに。


「言いたい事はそれだけですか?」

「はぁっ?! 生意気な! 貴女のようなお子様にフレデリック様は渡せないわ!」



「貴女の許可はいりませんもの。それよりもどうやってこの学園に来たのですか?」


「どうやってって、それは……」

 言い淀む元王女。きっと正規のルートではないのね。前回も入国許可なしだったと聞いたもの。

「密入国。という事ですか? わざわざ罪をおかしてまで、わたくしに文句を言いにご足労様です」

 リリアンは頭を下げた。

「なによ! 生意気ね」


「わたくしも貴女様に言いたいことがございましたからちょうどいい機会でしたわ」


「なによっ!」

 目を釣り上げる元王女。鬼気迫る顔付きだけれど、まったくもって響かないわ。

「殿下との結婚式が決まった事を報告致しますわ」


「その前にぶち壊してやるわよ! またあの男を使うわ!」


 あの男……私を人形と言ったマテス伯爵。想像するとゾクっとしたけれど


「元王女様はご存じないようですけれど、あの方はアザリア王国へ足を踏み入れる事は出来ません。そして貴女もです。言っている意味がわかりますか?」


「貴女が……入国を制限していたの! どんな権限があって、」

 私にそんな権限があるわけないのに……考えて行動をしない方らしいわ。


「貴女の罪はあの男の罪になるのです。それは貴女の父であるシバ王国の国王が決めた事でしたわね」

「それが何? この国で起きた事は国に戻るとチャラ、貴族ですものっ!」

 この人、すこし頭が残念な方のようね……


「密入国の罪は重いですわよ。それに貴女方はわたくしに接触してはいけない。と決まっていますでしょう?」


 前回の事件以来、私と接触してはいけない。と書面に書かれていた。それを破ったのだ。だから私は強気に出られた。


「聞いていましたか? こちらの方は密入国で、国との約束を破ってしまわれました」

 警備に目を向けると返事が返ってきた。

「「「はっ!」」」


 学園の警備が、王宮に連絡をしたようで、すぐに元王女は捕まり牢に入れられた。

 国へ強制的に返されるけれどその先は……シバ国王に委ねることになった。














 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

もしも生まれ変わるなら……〜今度こそは幸せな一生を〜

こひな
恋愛
生まれ変われたら…転生できたら…。 なんて思ったりもしていました…あの頃は。 まさかこんな人生終盤で前世を思い出すなんて!

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵
恋愛
 ざまぁも有ります。  クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。  理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。  詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。  二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。

処理中です...