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王宮へ行きます!
しおりを挟む「顔を上げてちょうだい」
「はい。王妃様」
来ちゃった! もう後戻りできない……そう思った。
「フレデリックが困らせているみたいね」
にこっと笑う王妃様……美しいわ。
「いえ、」
「返答に困るわよねぇ良いのよ。リリアン嬢、いえ昔のようにリリーちゃんって呼ばせて貰うわ。バカな息子の事は放っておいて王宮で少しお勉強して貰えるかしら? そしてあの子の少しでも……欠片でも良いところを見つけてあげてほしいの。人ってまずは悪いところが目についてしまうでしょう? そうしたら良いところを探そうとしないの。それに良いところって慣れてしまうとそれが普通になってしまうのよねぇ」
……なんか深い話になっている。
「スイーツに例えるとおいしいと思ったらまた買いに行くけれど、美味しくなかったらもう買いに行かないわよね。でも年月が経つうちに嗜好が変わって美味しくなかったものでも苦味が旨みに変わったりもするでしょう? それも成長だと思うのよ。それでね、少しだけチャンスをあげてほしいの。子がバカなら親もバカなのねぇ。リリーちゃんといる時のあの子は肩の力が抜けて良い顔をしているのよ」
王妃様に微笑まれてNOとは言えないけれど、意固地になっているところはある。
「……はい」
たしかに昔のことばかりで今の殿下を見ようとしていなかった。王妃様の言う通りね。少し素直に殿下のことも考えてみよう。
私も大人の仲間入りをしたのだから昔のことをネチネチと思っているのも良くないわね。
王妃様とお話をしていると、殿下が断りを得て部屋に入ってきた。
「リリ、良くきたね! それでなんの話をしていたの? 母上に虐められてない?」
そっとリリアンの隣の席に腰掛けた。
「失礼ね! リリーちゃんを虐めるわけないでしょう! 娘になるかもしれない子よ。それより執務はどうしたのですか? 残務を人に押し付けてないでしょうね!」
「今日の分は終わりました。なので皆を帰らせました! リリが来るのにのんびり執務をしていられませんよ! それに娘になるかもって! なってくれるんですよ。きっと……」
わぁ。相変わらず仲がいいみたいだ。王妃様も昔と変わらないわ。
池に落ちたり木の上から降りられなくなった時、色んな人にいっぱい怒られたけれど、王妃様は私を庇ってくれたもの。
『元気があって良いじゃないの。怪我はない?』と言い、泣いていたら頭を撫でてくださって、お菓子をご馳走してくれた。
池に落ちてフレデリック殿下は風邪をひいて寝込んだけれど、私はピンピンしていると『健康第一よねぇ』と言ってくれた。
そしてバラ園に連れて行ってもらって、フレデリック殿下へのお見舞いの花を選んだわねぇ……王妃様はこころ優しい方
「今日はリリーちゃんと顔合わせだけの予定ですから、後は好きになさい。リリーちゃんまた会いましょうね、公爵夫妻と話をしてあるから週末はお泊まりしても良いとの事よ。お部屋を用意しておくわね。もちろんフレデリックの住居とは別の部屋だから安心していいのよ」
お泊まりは決定事項……暗くなると馬車に乗って家に帰るのは正直言って怖いから、お泊まりの方が安心ではある。
「はい。お気遣いいただきありがとうございます」
「何で母上の住居にリリの部屋を……私のエリアにも部屋は余っているのに」
ぶつぶつと王妃様に文句をいうフレデリックだった。
「私の住居の方が何かと安全だもの。ねぇリリーちゃん」
「お気遣い……ありがとうございます」
******
「王宮内で案内してほしいところとか見たいところとか行きたいところとかある?」
王宮に来た事は幼い時も含めて何度もあるけれど、限られた場所にしか行った事はない。
「行きたいところは……分かりませんけど会いたい人はいます」
「え……誰? もしかして……キリアンとか言わないよね?」
ぴたっと殿下の動きが止まった。
「何でここでキリアン様のお名前が出るんですか? ジャド嬢に会わせてください! 王宮内にいますよね?」
すでにマデリーンからジャド嬢は王宮内にいる。と聞いていた。大きな問題(噂)にならないようにお父様や殿下がそれを抑えていると言うことも。
私がジャド嬢のことを聞いても知りたいことは調査中と言い教えてくれない。けれど私はジャド嬢と会って話をしたいと思った。
ジャド嬢に対して怒りの感情はないけれど
聞く権利はあってもいいと思う。
兄様やお父様にこんな事は頼めない。絶対にダメだと言われるから。それなら殿下に頼むのが良いと思う。
「……会ってどうする? リリに怪我させた令嬢だ。もう聞き取りはすんでいるし近いうちにここから出す予定でいる。リリにこれ以上危害を加えられたら、流石に許す事は出来ない」
声のトーンが落ちた。
「もし危害を加えられても、私が面会したいと申し出たのですから責任は私にあります。お願いします」
深々と頭を下げるリリアン。
「……私も同席して良いだろうか?」
「女同士で話をしたいのです」
「……危険だ」
「なぜそう思われるのですか? あの時は私がジャド嬢を怒らせたからあのような事が起きたのです。私の侍女を側で控えさせますわ。どうか機会を与えて下さい」
もう一度深々と頭を下げてお願いした。
「……許可はできな、」
「……やっぱり殿下は私の事を嫌いだから、信用してくださらないのですね」
ウルウルと瞳を涙で滲ませフレデリックの目を見るが、リリアンから目線を逸らし明後日の方向を見始めた。
「信用していないとか、そんなんじゃなくて、ただリリが心配なんだ。また何かあったらどうする? そんな事になったら流石に伯爵家は存続の危機だから、」
「彼女は頭の良い方ですもの。そんな愚かな事はしませんわ。こんな問題すら解決出来ないのなら殿下の隣に立つ資格もありません。私は家を出て修道女に、」
「……分かった! そのかわり侍女は近くに待機、会うのは30分以内。それを超えると扉の外に待機している衛兵が中に入る事になる。そしてリリが危害を受けることがあれば……分かるね?」
ジロリとリリアンを睨むフレデリック。
「ありがとう存じます。それで結構です」
リリアンは今回のジャド嬢のこともあり、かなり反省したようでマデリーンに相談していた。
兄様に相談してもきっと良い顔をしないと思う。心配をかけてしまった分これ以上我儘を言えないもの。それにもし了承しても二人きりにはさせてもらえないわ。
親友であるマデリーンなら迷惑をかける事になるが相談をしても話を聞いてくれそうだと思った。
マデリーンは婚約者を連れて来た。リリアンは変なところで頑固になるところがあるので、マデリーンだけでは素直に聞き入れない可能性があると思い第三者で信用のできる婚約者を連れてきた。
今までの経緯をマデリーンの婚約者に話すと、フレデリック殿下との事は子供の喧嘩だね。と言われ笑われた。
それにショックを受けたリリアン。憧れのデビューも終え大人の女性になろうというのに、心の成長はストップしていたから。
フレデリック殿下は苦手だけれど、命の恩人であるし、自分に好意を持ってくれているという事をようやく受け入れた。
そしてマデリーンと婚約者と話をしているうちに、少し抜けているリリアンでも思うところがあり、ジャド嬢に真意を聞きたいと思った。
マデリーンが最終的には殿下には泣き落としよ! とアドバイスをくれた。この作戦はうまく行ったようだ。
泣き顔作戦と名付けられた。
そしてマデリーンに協力してもらうことになり、またまた悪役令嬢大作戦を実行することになる。しかし今まで通りの悪役令嬢ではいけない! とマデリーンに演技指導をしてもらうことになる。その様子を見てマデリーンの婚約者は笑いを堪えるのに必死だった。
本人達? は真剣そのものだから……
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