侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの

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ジャド伯爵令嬢

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「なぜこのようなことが起きたかを説明をしてほしい」

 王宮の一室に入れられ、お兄様にそう問われた。飾り気のない部屋で扉を開けると衛兵が立っている。ここから逃げることはできない部屋だった。


「……わざとではありませんでした」

「わざと突き落としたのなら立派な犯罪だ。殿下の婚約者候補への殺害未遂だ。しかも相手は侯爵家だ……甘いと思われようが、おまえがそんなことをする人間であるとは兄として到底思えない」

 お兄様は私のことを過信しすぎわ。


「……サレット侯爵令嬢の意識はまだ回復しないのでしょうか」


 カタカタと身体が震える。池に沈んでいく令嬢の姿……怖かった。驚いて声を出すこともできずに、その場に蹲った。


「まだ眠っていると聞いている……しばらくはこの部屋で生活をしてもらうことになる。今頃は父上に連絡が行っているだろう。頭を冷やしておくんだ、いいね?」

「……はい」


 私はこの先どうなるのだろうか? 殿下の想い人を偶然とは言え池に沈めてしまった。


 その後殿下が池に飛び込みことなきを得たが、未だ意識の回復はないとの事。


 そして助けた殿下の身に何かあれば、ジャド伯爵家の存続の危機……相手は王家と侯爵家……


 なんていう事をしてしまったのだろうか。




 身の丈に合わない人たちを知ってしまった。

 王宮の豪華で優雅な生活を知ってしまった。

 憧れの公子様と会話をしてしまった。

 サレット侯爵令嬢に嫉妬してしまった。

 美しく可憐で高貴な方。殿下とも公子様とも釣り合いの取れる家柄。


 同じく婚約者候補のアデル子爵令嬢もミロー伯爵令嬢も、サレット侯爵令嬢を慕っているようだった。

 優しくて大らかで面倒見のいい方だと二人は言った。

 少しばかり勉強ができるだけでいい気になっていた私とは大違いだった。

 そんな魅力的なサレット侯爵令嬢に公子様が惹かれるのは仕方がない。少しでも私を見てくれたら……なんて大層な事を考えてしまった。

 公爵家の当主は現陛下の実弟。うちとは釣り合わない事は分かっているのに……

 



 うちは伯爵家と言っても影の薄い家。国の西側に領地を持ち、これと言った特産物もなく贅沢もせず過ごしてきた。決して家にお金がないわけではないけれど、贅沢は禁物。
 質素で倹約家……まともにドレスも買ってもらえない。そんな家。


 殿下にお会いするというのに、姉のドレスを借りて着ていく。
 姉は外に働きに出ていて家にいた時よりも輝いた顔をしている。

 やり甲斐があるのだそう。羨ましいと思った。常に上位にいないと奨学金が出ない私とは違う。姉は自由だから。



******



「サレット侯爵令嬢が目覚めたようだ」

 お兄様が報告をしに来てくれた。


 王宮の一室に入れられて数日経った。この言葉を聞くまで生きた心地はしなかった。

 サレット侯爵令嬢が目覚めてから数日経っていたようだ。その間は反省の日々……

「良かった、よかっ……」

 気がつくと涙が溢れていた。一介の伯爵令嬢が国の中心部の侯爵令嬢になんていうことをしてしまったのだろう……。

 家族にも迷惑をかけてしまった。罪人として行きて行くか良くて修道院へ行くことになるだろう。


 それから取り調べのような事が行われた。


「私が侯爵令嬢を突き落としました。そのことに変わりはありません」

 私はそう言い続けた。



 お父様も領地から駆けつけてくれたようで、私の顔を見てお父様は言った。

「今まで苦労をかけた。あとは私に任せておけ」

 それだけ告げると部屋から出て行ってしまった。



******


「この度は娘が大変失礼致しました。侯爵家の令嬢に手を上げるなど……」


 西の領地を持つジャド伯爵家当主が我が家に詫びに来た。応接室に案内するや否や膝を床につき詫び始めたのだ。


「……ジャド伯爵、頭を上げてください」


 父であるサレット侯爵がソファを進めた。ドケチで有名で王都嫌いと言うジャド伯爵だがこの一大事に馬車を飛ばしやってきたようで、衣服は乱れていた。


「殿下の婚約者候補になど、我が家では身に余る事でした。娘には苦労もさせましたが普通の幸せを掴んで欲しいと思っておりましたが私がバカでした、子供たちの教育費までケチり幸せになってほしいなど……」

 伯爵は子供たちの教育に後悔をしているようだった。

「子供を持つ親としては深刻な問題です。特に貴族の子女ともなると幼い頃から教育を受けさせるのが一般的です。それをしていないも関わらず成績が優秀である事は、令嬢の努力の賜物だと思いますし、それは素直に凄いと思います。しかし、親が出来る全てのことを子供にしてやりたいと言うのもの親心です。勝手に子供を産んでおいて教育を放棄していたと言うのも事実でありますね?」


「……無駄な金は使いたくない、そう思ってしまいました」


「うちの娘は親の心子知らずと言うか……少々変わったところはありますが、可愛い娘です。何かの拍子にこう言った事が起きたと言う事はなんとなく理解しています。そして恐らく娘がここにいたらジャド嬢を庇うと思う。最近バカ娘には頭を悩ませていますが、憎いわけではない。心配なだけなんですよ。伯爵は領地から離れて生活をする子供さん達に対してどう言う気持ちでいるのか?」


「成績優秀な子供たちを持ち誇りに思っています。特待生で学園に入ることが出来たのは子供たちの努力です。私は何もしていない……愛情がないわけではありません」


 すぐさま王都に駆けつけてくるあたり嘘ではないのだろうと思う。


「人の家庭に口を出すつもりはないのだが、伯爵はそれでいいのか? 周りを不幸にさせてはいないだろうか?」


「……私は金の使い方を知りません。そうやって生きて来てしまいましたから……大人しく過ごしていれば誰にも迷惑をかけない……領民が飢えずに生活できればそれでいいと、私は間違っていました……侯爵閣下のような方には分からないと思います」


「貴族とは金を使って経済を回すのだと、私は父に教わってきた。自分達だけが裕福になるのではなく、うちに仕えてくれている使用人、それに領民は皆家族のようなものだ。自分達も領民も幸せに平和に過ごせる事ができて、ようやく心に余裕が出来る。ここにいる息子にもそうなってほしいと思っている。そして領主とはそう言うものだと今でも思っている。伯爵よ。ケチは悪いことではない。私も無駄な事は嫌いだ」


「私が間違っていたと、痛感しております」


「今ならまだ間に合う。伯爵のできる限りのことをして、子供たちに手を差し伸べてやれ。ここに来たと言うことはすべき事を分かっているのだろう」


「私が不甲斐ないばかりに娘どころか息子にも迷惑をかけてしまいました。娘のした事は親の責任……息子に爵位を譲り隠居します。王家から罰が下るのであれば、それを受けたいと思っております。金の問題ではないとは思いますが、これは令嬢に謝罪の気持ちを込めて用意致しました。お納めください」


 慰謝料と言って出してきた金額はケチ伯爵と言われるのには相応しくない金額だった。


「金はいらん! こんな金があるのならもっと子供たちに使ってやればよかったものを!」


 父が怒りの声を上げた。


「いえ。お納めください。今、ここで、娘のために使う金です。此度のことは私の娘が申し訳ございませんでした」


 顔付きが変わったように見えた。父にもそれが伝わったようで、受け取る事にしたようだ。金はいらん。と言った父だが受け取らないと伯爵の気がすまないと思ったのだろう。


 ……が、ケチケチして貯めた金だと思うと快く? 受け取る事を躊躇ってしまう。



 父はどうあれ、私は決して許すことはしない! お前の娘のせいで可愛い妹の唇を殿下に奪われてしまったんだから!!


 可哀想にリリーは殿下に嫁入りするしかなくなった……第一王子であるフレデリック殿下はもうすぐ王太子に任命される。

 リリーが王妃になってしまったら、気軽に会えなくなるし家にも中々帰ってくる事が出来なくなる……それならキリアン殿の方がまだ良かった……







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