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第19話
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目が覚めた時、一瞬どこかわからなくて、目をパチパチさせた。
「起きた?」
「え? あ? 嘘」
もしかして先輩の家で寝ちゃった?
慌てて窓の方を見るとまだ暗かった。あれ?
「頭とか痛くないか?」
「え?」
「間違えて日本酒飲むとか漫画みたいなことするなよ」
先輩は呆れたように言った。何があったのかちょっと考えて思い出した。
「えーと、水、じゃなかった?」
「俺が飲むために入れたんだけど、まさか間違えると思わなかったから、しかもそれでぶっ倒れるなんて」
「すみません」
「俺の忍耐力を試されてるのかと思ったよ」
「え?」
先輩は咳払いをした。
「いや。でも、終電なくなっちゃったけど、どうすんだ?」
「え、えーーっ!」
俺は思いっきり叫んでしまった。
「どうして起こして」
「あのな。ちょっと揺すったぐらいじゃ起きなかったし、それにせっかく寝てるんだから悪いと思って」
先輩に八つ当たりしちゃったけど、悪いのは俺の方だ。タクシーとか高いんだろうな。でも、自分のせいだから仕方ないか。
「タクシー代出そうか?」
「いえいえ、いいですって」
「言うと思ったけど、じゃあ半分」
「だからいいですって」
「俺が誘ったんだから」
俺が馬鹿みたいに間違えて酒飲んだだけなのに。そんなこんなでしばらく言い合いしていたら、突然先輩が言った。
「じゃあ泊まってく?」
俺は一瞬固まった。
「冗談だよ。そんな顔すんなよ」
そんな顔って? ただ驚いただけなのに。
先輩に傷ついたような顔をされると、どうしていいかわからない。
「別にいいですよ」
「へ?」
「姉貴が許すわけないけど」
「お姉さんか。それは難関だな」
原田先輩は何か考えて言った。
「お前が飲み会で酔っぱらって、仕方なく家に連れて来たことにするとか」
まさか本気で? 俺は返す言葉が見つからなくて、目だけ泳がせた。
先輩はまた咳払いを一つした。
「まあ、これ以上我慢できそうにないから、タクシーで帰れよ」
何を我慢するの?
「むらむらするってことですか?」
「はあ?」
「キスしただけじゃ飽き足らなくて、俺とそれ以上いかがわしいこと……」
その先は口にできなかった。
「当たり前だろ」
普通に肯定されてしまった。
「だいたいお前は元彼に迫られたりしなかったのか?」
思い出してそういえば、なんか色々あったような気がした。
「全部かわしてたので」
「キスは許したくせに」
「なっ。あれはただ……」
どうしても抵抗できなくて、キスを許してしまったけど、その後隙ができたところで元彼を突き飛ばして逃げたのだ。そしたら後日謝ってきた。仕方ないから許してあげようと思った矢先に女といるのを見たのだ。
「もう1回してもいい?」
「ちょっ、何言って」
「あいつとは1回だけ?」
先輩が俺のあごを掴んできたので、慌てて手で押し返した。
「痛っ」
「や、やめてください」
「もうマジ帰れよ」
先輩がいじけたように言った。だってこれ以上俺にどうしろっていうんだよ。だいたい先輩は元彼のこと根に持ちすぎ。
「元彼とは1回しかしてません」
「あいつと同じってのが気に入らない」
じゃあ2回したら気が済むの? いやいや。流されちゃ駄目だ。
俺は毅然として言った。
「タクシー代もったいないので歩いて帰ります」
「何馬鹿言ってんだ。ここから何キロあると思って」
「先輩に払ってもらうわけにはいかないので」
「そこまで俺に借り作りたくないのかよ」
借りとかそういうんじゃなくて。
「だって俺、答えられそうにないから」
「ここでそこまで落とすか」
先輩はガクッとしたようにうなだれた。
「お姉さんに迎えに来てもらおうかな」
「何で姉貴に?」
「2日で振られたら、さすがの俺でもしばらく立ち直れないわ」
へ? 先輩の言ってることがわからない。
「俺、振ったんですか?」
「は? お前、今答えられそうにないって言っただろ」
それってそういう意味じゃないんだけど。
「だから、その、先輩のしたいこと全て受け入れられるわけないじゃないですか」
「全てってたとえばキスとか?」
「時と場合とか、心の準備とか色々あるでしょ」
「心の準備があれば構わないって?」
「そうじゃなくて、だからその」
急に言われたって困る。それに、昨日は勝手にしたくせに。
「起きた?」
「え? あ? 嘘」
もしかして先輩の家で寝ちゃった?
慌てて窓の方を見るとまだ暗かった。あれ?
「頭とか痛くないか?」
「え?」
「間違えて日本酒飲むとか漫画みたいなことするなよ」
先輩は呆れたように言った。何があったのかちょっと考えて思い出した。
「えーと、水、じゃなかった?」
「俺が飲むために入れたんだけど、まさか間違えると思わなかったから、しかもそれでぶっ倒れるなんて」
「すみません」
「俺の忍耐力を試されてるのかと思ったよ」
「え?」
先輩は咳払いをした。
「いや。でも、終電なくなっちゃったけど、どうすんだ?」
「え、えーーっ!」
俺は思いっきり叫んでしまった。
「どうして起こして」
「あのな。ちょっと揺すったぐらいじゃ起きなかったし、それにせっかく寝てるんだから悪いと思って」
先輩に八つ当たりしちゃったけど、悪いのは俺の方だ。タクシーとか高いんだろうな。でも、自分のせいだから仕方ないか。
「タクシー代出そうか?」
「いえいえ、いいですって」
「言うと思ったけど、じゃあ半分」
「だからいいですって」
「俺が誘ったんだから」
俺が馬鹿みたいに間違えて酒飲んだだけなのに。そんなこんなでしばらく言い合いしていたら、突然先輩が言った。
「じゃあ泊まってく?」
俺は一瞬固まった。
「冗談だよ。そんな顔すんなよ」
そんな顔って? ただ驚いただけなのに。
先輩に傷ついたような顔をされると、どうしていいかわからない。
「別にいいですよ」
「へ?」
「姉貴が許すわけないけど」
「お姉さんか。それは難関だな」
原田先輩は何か考えて言った。
「お前が飲み会で酔っぱらって、仕方なく家に連れて来たことにするとか」
まさか本気で? 俺は返す言葉が見つからなくて、目だけ泳がせた。
先輩はまた咳払いを一つした。
「まあ、これ以上我慢できそうにないから、タクシーで帰れよ」
何を我慢するの?
「むらむらするってことですか?」
「はあ?」
「キスしただけじゃ飽き足らなくて、俺とそれ以上いかがわしいこと……」
その先は口にできなかった。
「当たり前だろ」
普通に肯定されてしまった。
「だいたいお前は元彼に迫られたりしなかったのか?」
思い出してそういえば、なんか色々あったような気がした。
「全部かわしてたので」
「キスは許したくせに」
「なっ。あれはただ……」
どうしても抵抗できなくて、キスを許してしまったけど、その後隙ができたところで元彼を突き飛ばして逃げたのだ。そしたら後日謝ってきた。仕方ないから許してあげようと思った矢先に女といるのを見たのだ。
「もう1回してもいい?」
「ちょっ、何言って」
「あいつとは1回だけ?」
先輩が俺のあごを掴んできたので、慌てて手で押し返した。
「痛っ」
「や、やめてください」
「もうマジ帰れよ」
先輩がいじけたように言った。だってこれ以上俺にどうしろっていうんだよ。だいたい先輩は元彼のこと根に持ちすぎ。
「元彼とは1回しかしてません」
「あいつと同じってのが気に入らない」
じゃあ2回したら気が済むの? いやいや。流されちゃ駄目だ。
俺は毅然として言った。
「タクシー代もったいないので歩いて帰ります」
「何馬鹿言ってんだ。ここから何キロあると思って」
「先輩に払ってもらうわけにはいかないので」
「そこまで俺に借り作りたくないのかよ」
借りとかそういうんじゃなくて。
「だって俺、答えられそうにないから」
「ここでそこまで落とすか」
先輩はガクッとしたようにうなだれた。
「お姉さんに迎えに来てもらおうかな」
「何で姉貴に?」
「2日で振られたら、さすがの俺でもしばらく立ち直れないわ」
へ? 先輩の言ってることがわからない。
「俺、振ったんですか?」
「は? お前、今答えられそうにないって言っただろ」
それってそういう意味じゃないんだけど。
「だから、その、先輩のしたいこと全て受け入れられるわけないじゃないですか」
「全てってたとえばキスとか?」
「時と場合とか、心の準備とか色々あるでしょ」
「心の準備があれば構わないって?」
「そうじゃなくて、だからその」
急に言われたって困る。それに、昨日は勝手にしたくせに。
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