素直じゃなくてもいいですか?

宮部ネコ

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第13話

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 先輩はさっきまでのことがなかったみたいにいつも通り家まで送ってくれた。
「じゃあ。明日の片付けも迎えに行くから」
 明日は文化祭の片付けで、午前中で終わるみたい。その次の日は休み。
 俺は先輩が帰った後こっそりため息をついた。
 今日は色々あり過ぎて頭が混乱してた。
先輩は俺の女装が見たくてあんな格好させたんだろうか。ってことは、女の人の方が好き?
 って違うのか。相良先輩が好きだったんだから。だからって、振られて俺? やっぱりあり得ないよ。相良先輩と比べたらかわいくもないし、それに。
 自分の性格が悪いのも自覚してる。自分を好きだなんて人、どうしても信じられない。田所さんと同じだから?

 ごちゃごちゃと考えながらリビングでうろうろしていたら、
「瞬、何かあった?」
 姉貴に勘ぐられて、とっさに否定していた。
「べ、別に」
 姉貴はじとーっと俺を見てくる。
「怪しい」
 原田先輩の話をするわけにはいかない。仕方なく代わりに別の話をした。
「その、文化祭に元彼が」
「何、それめちゃくちゃ何かあったじゃない」
 確かにそうなんだけど、原田先輩のことが強烈過ぎて吹っ飛んでたのだ。
「大丈夫」
「瞬!」
「本当に大丈夫だから」
 姉貴は訝しげに見てくるので、言った。
「その、原田先輩が追い払ってくれたし」
「あら」
 さっきと打って変わって姉貴はニヤニヤし出した。
「ふーん。他には?」
「な、何もないよ」
 それだけは姉貴に言えない。
「本当に?」
「ないってば」
「わかった。わかった。ごめんね」
 と言って頭を撫でられる。
「瞬は心配なのよ」
 姉貴はため息をつきながら、すぐ無理するからとぶつぶつと口にする。
「何かあったら絶対に言うのよ。我慢しないで」
 よっぽど原田先輩のこと言ってしまおうかと思ったけど、やっぱりやめた。これは自分で考えなきゃいけないことだから。
「うん」

 自分の部屋でもう一度ため息をついた。
明日からどんな顔して会えばいいのか。
 そう思ってたのに、次の日自宅の最寄り駅で会った先輩はあまりに普通だった。

 普段通り、俺の体調を気にかけ、大学に行こうと促した。
 しばらくして電車に乗ったら、先輩はぼそっと言った。
「お前が何考えてるかわかる」
「え?」
「ま、いいけど」
 それ以上先輩は何も言わなかった。

 大学についたら、片付けの後どこか行かないかと誘われた。俺は答えに窮した。先輩は考えといてとだけ言って、どこかに行ってしまった。

 俺はサークルに所属してなかったから、片付けも何もないのだけど、一応テニスサークルのは付き合った。メイド服もう一度着る? と聞かれたのは断ったけど。原田先輩はお魚クラブと行ったり来たりしていた。

 そもそも先輩どこに行く気なのか? っていうかそれってデート……。
 考えるのが嫌になってやめた。

 テニスサークルの片付けが終わっても、原田先輩はいなくて、どうしようかと思った。お魚クラブにいるのだろうか。あんまり顔出したくないから、先帰っちゃおうかななんて思ったりして。

 仕方なくお魚クラブの部室近辺まで行く。
 みんな何かを運んだり忙しそうだ。部室の中に原田先輩の姿を見かけた。と同時に相良先輩の姿もあった。
 何話してるかまでは聞こえないけど、仲が良さそうだ。なんかちょっと嫌な感じ。

 俺はそれ以上見ていたくなくて、部室から離れた。そしたら途中で声をかけられた。
「あれ、結城君だよね?」
 誰かと思ったら、相良先輩と付き合ってる加持先輩だった。
「え、あ。はい」
「原田のテニスサークルに入ったんだっけ?」
「いえ、文化祭の手伝いをしただけで」
 運動は苦手だし、テニスなんかやったこともない。
「あ、そっか。もしかして女装」
 何でバレてる?
「何結城に絡んでるんですか?」
 原田先輩が来て何故か加持先輩を睨み出した。
「絡んでないよ。お前だって荘助と」
「絡んでません」
「ただ話してただけだろ。そもそも何その警戒。結城君に気でも」
 加持先輩が言い終わる前に原田先輩が口を挟んだ。
「うるさい」
「先輩にその態度」
 なんか俺の話をし出したので、いたたまれなくなった。
「あの、俺行きます」

 俺はそそくさと逃げ出した。こんなところで2人の言い合いに巻き込まれたくない。それに。
「ちょっと待て、結城」
 俺は原田先輩の制止を無視して行った。なんか色々と気に入らなくて、走って逃げてたら、原田先輩が追いかけてくる。
「待っててくれたのに、話しててごめん」
「追いかけて来ないでください」
 止まる気はなかったのに、腕を掴まれてしまった。
「放して」
「悪かったから、いいわけくらいさせろよ」
「いいわけ?」
 何をいいわけするのかと思った。
「なんつうかあいつら付き合い出してから、加持先輩によく絡まれるんだ」
 そんなこと俺の知った事じゃないし、別にどうでもいい。
「それは大変ですね」
「お前な。その態度」
「別に興味ありませんけど」
「じゃあ何でそんなに怒ってるんだよ」
「怒ってなんか」
「嘘だ。いらいらしてんだろ」
 いらいらしてるのは、ただ。
「俺に構わないで相良先輩と仲良くしてればいいんじゃないですか」
 俺が言ったら、先輩はきょとんとした顔をしていたので、俺はその隙に原田先輩の腕から抜け出して、校門まで向かった。
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