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第9話

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 原田先輩への礼をかねて、頼みたいことを聞きに、テニスサークルの方に顔を出すことになった。一体何をやらされるんだろうと思った。

 何故か女子にじろじろと見られ、落ち着かなかった。
 俺女子苦手なんだけど。
「というわけで、これ着てくれる?」
「へ?」
「というわけなんだ。結城、よろしく頼むよ」
「は?」
 原田先輩にも言われて何が何だかわからないうちに、サークルの奥の部屋に連れて行かれた。
 さっきもちらっと見えたけど、渡されたのはメイド服だった。
「うちのサークル、毎年文化祭で女装、男装カフェやってるの」
「男子はこの衣装ね」
 ちょっ、ちょっと待って。頭がついていけない。
「去年の素材も良かったけど、今年の素材もいいわ」
「去年?」
 俺はつい聞き返してしまった。
「相良荘助君って子」
 まさか相良先輩? これ着たのか。確かに似合いそう。
「俺、こんなの似合わな」
「大丈夫。結城君も十分きれいよ」
 いや、そんなことあるわけないし。

「先に言ったら断られるかと思って、ごめん。黙って連れて来て悪かった」
 そんな風に原田先輩に言われた。結局、そう言われちゃうと断れない。

 ついでに学食も奢る何て言われたけど、さすがに遠慮した。
 俺がメイド服なんてこんなの似合うはずないのに。そう思いながらも、断れず、学祭の日は段々近付いて来たのだった。
 送り迎えは懇願してやめてもらったけど、原田先輩は相変わらず俺に構ってくる。塩対応にも関わらず全く気にしないので、段々どうでも良くなってきていた。

 俺の出番は2日目だったので、文化祭1日目は適当にふらふらしていた。一応喫茶店の準備は手伝ったけど、本番が始まったら一気に暇になった。
 知ってる人はみんな忙しそうで、サークル入ってない俺は手持ち無沙汰だ。めんどくさくなって、途中で帰ったら、後で先輩から苦情を言われた。空き時間に一緒に回ろうと思ったとか言うけど、二人きりで歩いてたらあらぬ誤解を招くと思った。残ってなくてよかった。

 そして、2日目当日。俺は自分を押し殺し、「お帰りなさいませ。ご主人様」を繰り返した。
 周りから棒読みだって批判されても気にしない。
 途中で年上らしき女の人に「写真撮ってもいいですか?」なんて聞かれた。
「え、ちょっと待っ……」
「実はあなたのお姉さん、伶香に頼まれちゃって」
 あ、姉貴? 俺、内緒にしてたのにどっからバレた?
「きれいよ。似合ってる」
 なんて言われてもうれしくない。
 こんな格好してる写真を姉貴に見られんのかと思ってため息をついた。

 休憩中に
「姉貴どっから嗅ぎつけたんだろ」
 とぼそっと呟くと、
「ああ。お姉さんそういえば、用事があって来られないって嘆いてたな」
 と原田先輩が口を挟んだ。
「ま、まさか先輩が」
「ごめん。言っちゃまずかった?」
「そもそもどこで姉貴の連絡先」
「この前警察行ったとき、結城に何かあったらって連絡先押し付けられたけど」
 俺の知らないところで勝手に。姉貴も、原田先輩も。
「そういうのやめてくださいよ」
「ごめん。悪かったよ」
 素直に謝られるとこれ以上何も言えない。絶対家に帰ったら姉貴にからかわれる。俺はぐったりとしながら接客を続けた。
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