俺の愛しい人

宮部ネコ

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プロローグ

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 中学校の入学式。一目ぼれだった。
 式典でちょうど2つ隣の席にいたあいつ、吾妻晃誠あづまこうせいに。
 きりっと前を向いた端正な横顔に目を奪われた。
 凛々しい眉も、長いまつげも、二重で少し垂れ目な瞳も、西洋人みたいな高い鼻も、色素が薄い唇も、その全てが尊く、なまめかしく映った。

 私立の中高一貫の男子校。ただ自分の学力でちょうどいい学校を選んだだけで、出会いを期待して男子校に入ったわけでは決してないけど、まさかの一目ぼれだ。
 でも、残念ながら同じクラスにはなれず、晃誠と関わることはずっとできなかった。
 だから、学校内ですれ違うだけでつい見とれてじっと見てしまう日々が続いた。男子校でゲイだなんてバレたらまずいのはわかっていても、そんな自分を止められなかった。

 ある時階段を駆け下りる晃誠をじっと見ていたら、同じクラスの三島みしまが来て慌てて目をそらした。
「あいつ吾妻だろ?」
 返事をしようか迷っていたら三島は続けて言う。
「運動神経いいくせに、あいつ部活入ってないらしいよ」
 三島が言うには、晃誠は俺と同じ帰宅部らしい。やる気がない俺と違って、活発そうに見えたから意外だった。
「え、何で?」
「さあ」

 その疑問が解けたのは秋の音楽祭だった。合唱の伴奏をする晃誠を見ていたら想像以上にかっこよくて、一瞬自分の出番も忘れたほどだった。
 入学式のときの光景が再び去来する。鍵盤に向かう端正な横顔に見とれながらふと、俺と同じように思った男子はどれくらいいるのだろうかと気になった。男子校なのに、いつか横からかっさらわれるのではないかと気が気でなかった。

 俺はどんどん晃誠に惹かれていった。自分では人懐っこい方だと思っていたのに、彼を見ると下手に意識してしまい、話しかけることすらできなかった。
 結局中学3年間特に接点もないまま高校まで上がった。
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