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第1章
第5話
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何やってんだ僕の馬鹿。っていうかのりが悪い。
何でいつも勝手に出てきて変なことするのか。かっちゃんに会わす顔がない。
っていうかキスしたんだよね?
穴があったら入りたいくらいだ。かっちゃんは大好きだ。だけど僕は、のりとは違う。ただかっちゃんが一緒に遊んでくれたのがうれしかっただけ。恋とかそんなんじゃない。絶対に。って何でそんなこと考えてるんだ。男同士なのに。
この学校の変な空気に当てられたのかもしれない。
頭を冷やそうと思って中庭に来た。
最初に校舎内の説明があったけど、ここに来たのは初めてだった。
校庭と中庭は自由に行き来できるけど、敷地外に出るのには許可がいる。土日には許可を取れば外出できるけど、まだ外出したことはなかった。
ここのところあいつのせいで踏んだり蹴ったりだ。僕を困らせたいのだろうか。こんなこと考えてたら、「お前がぐじぐじうじうじ情けないのが悪いんだよ」と言われてしまいそうだ。だって僕はただ平穏無事に日々を過ごしたかっただけなのに。そのためにこの高校にわざわざ編入してきたのに。
どこの学校に行っても同じだったんだろうか。あいつがいる限り。
いや、違う。僕は首を振った。僕がただ意気地がなくて、トラブル体質で、そして自信がないからだ。
もっとうまく立ち回ればかっちゃんにあんな思いさせなくて良かったのに。僕のせいであんな、いたたまれなくさせてしまった。かっちゃんは何も悪くないのに、僕のために頭を下げてくれた。
でも、かっちゃんの親はそうは思わなくて僕らからかっちゃんを遠ざけた。当たり前だ。こんな非常識なやつ、誰も側にいてほしくない。
だから僕は無意識にかっちゃんのことを頭から遠ざけていたんだ。忘れた振りをして。それにしびれを切らしてあいつが出てきたに違いない。
最初から、僕に勇気があれば、せめて大人を呼んできたりしていじめっ子たちを止めさせれば良かったのに。
しょぼくれながら寮に戻った。
同居人が戻ってた。僕はそいつが苦手だったのでつい顔をしかめた。
「あんた会長とできてんの?」
突然変なことを言われて僕は動揺を隠せなかった。
「え?」
「さっきキスしてたじゃん」
嘘。見られてたなんて気付かなかった。
「鏑木君じゃなくてあんたかよ。会長騙されてるんじゃないの」
騙されてるって何? 言ってることがよくわからない。そもそもかっちゃんと付き合ってなんかいない。
「かっちゃんはただの幼なじみ」
って言おうとしたら、頭の中に『俺のもん』という言葉が響いた。
そうじゃない。僕はそんな強気なこと言えない。かっちゃんが僕のことどう思ってるかわからないのに。
「あんなことして幼なじみ? あんたってなんか色々おかしいね」
僕は無視して、歯ブラシをし、布団に入った。色々あり過ぎて頭が混乱していて、眠るまで時間がかかった。明日こそは平穏無事な日が過ごせますようにと願いながら眠りについた。
しかし、どうも僕に平穏無事は訪れないらしい。
教室では清水君の『眼鏡取って』コールに聞こえないふりをするしかなかった。他の人には言わないようにと言ったら、一度眼鏡取ってくれたらいいよなんて言う。八方ふさがりだ。
こんな時のりだったら、うまく渡り合えるんだろうか。なんて考えてちゃ駄目だ。僕自身で解決しないと。またのりが勝手に出てきてしまう。
時々、のりがうらやましくなるときがある。後先えずに動けるなんてずるい。後で僕が後始末をするしかないのに。
本当に後始末をしているのはどっちなんだろう? 僕は急に不安になった。本当はあの時……。
「鐘木?」
「え? 何?」
「ごめん。脅すようなこと言って。誰にも言わないよ。でも、何か悩んでるようだったら言ってね」
清水君の声で我に返った。また変なこと考えそうになった。
「別に眼鏡外すくらいいいよ」
僕はその場で眼鏡を外した。
「鐘木?」
「ね。別に何も変わらないでしょ?」
のりに出てくんなと暗示をかけながら外したら、僕のままだった。
「うん。でもその方がいいんじゃない? かわいいよ」
かわいい?
「何も見えなくなっちゃうから、ごめんね」
僕はすぐに眼鏡をかけた。
「コンタクトにすればいいんじゃない? そしたら友達なんてすぐできるよ」
「目立ちたくないから、無理だよ」
コンタクトにしたことなんかないし、眼鏡をしてると落ち着くのだ。精神科の先生の暗示かもしれないけど。
「そう。もったいない」
清水君はそれ以上言わなかったけど、残念そうだった。
何でいつも勝手に出てきて変なことするのか。かっちゃんに会わす顔がない。
っていうかキスしたんだよね?
穴があったら入りたいくらいだ。かっちゃんは大好きだ。だけど僕は、のりとは違う。ただかっちゃんが一緒に遊んでくれたのがうれしかっただけ。恋とかそんなんじゃない。絶対に。って何でそんなこと考えてるんだ。男同士なのに。
この学校の変な空気に当てられたのかもしれない。
頭を冷やそうと思って中庭に来た。
最初に校舎内の説明があったけど、ここに来たのは初めてだった。
校庭と中庭は自由に行き来できるけど、敷地外に出るのには許可がいる。土日には許可を取れば外出できるけど、まだ外出したことはなかった。
ここのところあいつのせいで踏んだり蹴ったりだ。僕を困らせたいのだろうか。こんなこと考えてたら、「お前がぐじぐじうじうじ情けないのが悪いんだよ」と言われてしまいそうだ。だって僕はただ平穏無事に日々を過ごしたかっただけなのに。そのためにこの高校にわざわざ編入してきたのに。
どこの学校に行っても同じだったんだろうか。あいつがいる限り。
いや、違う。僕は首を振った。僕がただ意気地がなくて、トラブル体質で、そして自信がないからだ。
もっとうまく立ち回ればかっちゃんにあんな思いさせなくて良かったのに。僕のせいであんな、いたたまれなくさせてしまった。かっちゃんは何も悪くないのに、僕のために頭を下げてくれた。
でも、かっちゃんの親はそうは思わなくて僕らからかっちゃんを遠ざけた。当たり前だ。こんな非常識なやつ、誰も側にいてほしくない。
だから僕は無意識にかっちゃんのことを頭から遠ざけていたんだ。忘れた振りをして。それにしびれを切らしてあいつが出てきたに違いない。
最初から、僕に勇気があれば、せめて大人を呼んできたりしていじめっ子たちを止めさせれば良かったのに。
しょぼくれながら寮に戻った。
同居人が戻ってた。僕はそいつが苦手だったのでつい顔をしかめた。
「あんた会長とできてんの?」
突然変なことを言われて僕は動揺を隠せなかった。
「え?」
「さっきキスしてたじゃん」
嘘。見られてたなんて気付かなかった。
「鏑木君じゃなくてあんたかよ。会長騙されてるんじゃないの」
騙されてるって何? 言ってることがよくわからない。そもそもかっちゃんと付き合ってなんかいない。
「かっちゃんはただの幼なじみ」
って言おうとしたら、頭の中に『俺のもん』という言葉が響いた。
そうじゃない。僕はそんな強気なこと言えない。かっちゃんが僕のことどう思ってるかわからないのに。
「あんなことして幼なじみ? あんたってなんか色々おかしいね」
僕は無視して、歯ブラシをし、布団に入った。色々あり過ぎて頭が混乱していて、眠るまで時間がかかった。明日こそは平穏無事な日が過ごせますようにと願いながら眠りについた。
しかし、どうも僕に平穏無事は訪れないらしい。
教室では清水君の『眼鏡取って』コールに聞こえないふりをするしかなかった。他の人には言わないようにと言ったら、一度眼鏡取ってくれたらいいよなんて言う。八方ふさがりだ。
こんな時のりだったら、うまく渡り合えるんだろうか。なんて考えてちゃ駄目だ。僕自身で解決しないと。またのりが勝手に出てきてしまう。
時々、のりがうらやましくなるときがある。後先えずに動けるなんてずるい。後で僕が後始末をするしかないのに。
本当に後始末をしているのはどっちなんだろう? 僕は急に不安になった。本当はあの時……。
「鐘木?」
「え? 何?」
「ごめん。脅すようなこと言って。誰にも言わないよ。でも、何か悩んでるようだったら言ってね」
清水君の声で我に返った。また変なこと考えそうになった。
「別に眼鏡外すくらいいいよ」
僕はその場で眼鏡を外した。
「鐘木?」
「ね。別に何も変わらないでしょ?」
のりに出てくんなと暗示をかけながら外したら、僕のままだった。
「うん。でもその方がいいんじゃない? かわいいよ」
かわいい?
「何も見えなくなっちゃうから、ごめんね」
僕はすぐに眼鏡をかけた。
「コンタクトにすればいいんじゃない? そしたら友達なんてすぐできるよ」
「目立ちたくないから、無理だよ」
コンタクトにしたことなんかないし、眼鏡をしてると落ち着くのだ。精神科の先生の暗示かもしれないけど。
「そう。もったいない」
清水君はそれ以上言わなかったけど、残念そうだった。
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