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第4章 藤越の妹「愛良ちゃん」
見本になること
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藤越が先に帰った後、同居人のゆっきーが何か話しているのが聞こえた。
「透馬さんに言ったら一生言う気はないって。本当にそれでいいのかな?」
「そんなん言ったって怒られるだろ」
周りだって気付いているのだから、やっぱりあいつは自覚したに違いないと思った。
俺はなんやかんや言っている奴らの間に割り込んだ。
「あいつがそう決めたならいちいち周りがとやかく言うことじゃないだろ」
「高橋さんはそう思うんですか?」
ゆっきーが挑戦的に聞いてくる。知るかと思った。
「お前にあいつの何がわかるんだよ」
「じゃあ高橋さんはわかるんですか?」
「そっとしとけばいいんだよ」
俺は自分であいつを変えようなんて思ったことはなかった。誰の説得だって聞く気はないだろう。あいつの考えている通り、あいつの思うままに生きればいいじゃないかと思う。
「心配じゃないんですか?」
「心配?」
確かに心配はしてた。でも、だからって俺ができることなんて何もない。ただ見守るぐらいしかできない。
じゃあ俺はあの時、浅木が死んだ時何で会いに行った? 結局自分だってあいつをほっとけないじゃないか。違う。こいつらとは違う。俺はあくまでも藤越が自分の意志で立ち直るのを見たいだけだ。
「あいつが兄妹でいることを選んだんだろ。周りが決めることじゃない」
「高橋さんもですか?」
「は?」
「そうやってずっと黙ってる気ですか?」
何でゆっきーがそんなこと言い出すのかと思った。一体どこからばれたのか。
「まさか中島?」
「中島さんがどうかしたんですか?」
「いや」
さすがに違うと思ってほっとする。あいつは口が軽そうだからつい疑ってしまった。
「何でお前が知ってるんだよ」
「そんなの見てればわかります」
やっぱり誰にもわかるほど態度に出ていたのかと思って青くなる。そしたら、それを察したようにゆっきーが言う。
「いえ、俺がそういうのわかるだけなんで」
一生の不覚だと思った。中島だって気付いたのだから、他の奴にも気付かれているかもしれない。だいたい藤越本人だって、だいぶ前から気付いていたんじゃないのか。そう思うとやってられない気持ちになった。
「お前には関係ない」
「でも」
「言ったからって何も変わらないだろ」
俺がずっと思っていたことだった。そもそもあいつは愛良ちゃんが好きなのだ。
「そんなことないですよ」
ゆっきーとか他の奴に余計なこと言われたくない。放っておいてほしい。俺がどんな決断を下そうと俺の勝手だ。
「ほっとけって言ってんだ」
「透馬さんが心配だって、見ているだけなんですね」
捨て台詞のようなことを言って、ゆっきーは俺の前から去る。一体何なんだ。何でそんなことまで言われなきゃいけない。俺が今までどんな気持ちであいつを見ていて、側にいたと思ってるんだ。ゆっきーなんかに言われたくない。
家に帰ってもずっと考えていた。愛良ちゃんへの気持ちを抱えたまま一緒に住み続ける藤越のことを。本当にこのままで大丈夫なんだろうか。でもだからって俺に何ができる?
藤越が愛良ちゃんに好きと言ったら、また二人は付き合いだすかもしれない。でも、そしたら家族はめちゃくちゃになってしまう。せっかく時間をかけて戻った家族がばらばらに。そう考えて気付いた。だからもしかして藤越は、愛良ちゃんは、お互いの気持ちを諦めたのかと。兄妹でいれば、少なくとも家族のままでいられる。
だけど、もし愛良ちゃんに恋人ができたら? あいつはどうするんだろう。そのことを想像すると、嫌な予感がしてならなかった。ぼたんさんの時も、腹いせに俺を殴ったりしていたのだ。その相手がまだ俺で良かったけど、もし愛良ちゃんの恋人に直接暴行を加えたら? 警察沙汰だけでは済まない。愛良ちゃんは悲しむだろう。二人の関係は修復できなくなるのではないか。そんなこと今から想像しても仕方ないけれど、そう思わずにはいられなかった。
どちらに転んでも二人に未来はない。それだけはどうしても避けなきゃならない。俺は一体何をすれば? 悩んでも思いつかなかった。
その時、一つの考えが浮かんだ。でも、それはもろ刃の剣だった。本当に意味があることなのかわからない。でも、今の俺にはそれしかできることがない。
ゆっきーが俺に黙っているつもりなのかと言った。その逆のことをしようと。
俺が言ったところで何か変わるわけじゃない。ただ、藤越が愛良ちゃんを想う横で、俺のような馬鹿みたいに想い続けている奴がいると思ってくれればいい。俺は何も見返りを求めないから、藤越も同じように愛良ちゃんを想い続けることができるだろうと。
見本になろうと思ったのだ。それ以外ないはずだった。きっと。
「透馬さんに言ったら一生言う気はないって。本当にそれでいいのかな?」
「そんなん言ったって怒られるだろ」
周りだって気付いているのだから、やっぱりあいつは自覚したに違いないと思った。
俺はなんやかんや言っている奴らの間に割り込んだ。
「あいつがそう決めたならいちいち周りがとやかく言うことじゃないだろ」
「高橋さんはそう思うんですか?」
ゆっきーが挑戦的に聞いてくる。知るかと思った。
「お前にあいつの何がわかるんだよ」
「じゃあ高橋さんはわかるんですか?」
「そっとしとけばいいんだよ」
俺は自分であいつを変えようなんて思ったことはなかった。誰の説得だって聞く気はないだろう。あいつの考えている通り、あいつの思うままに生きればいいじゃないかと思う。
「心配じゃないんですか?」
「心配?」
確かに心配はしてた。でも、だからって俺ができることなんて何もない。ただ見守るぐらいしかできない。
じゃあ俺はあの時、浅木が死んだ時何で会いに行った? 結局自分だってあいつをほっとけないじゃないか。違う。こいつらとは違う。俺はあくまでも藤越が自分の意志で立ち直るのを見たいだけだ。
「あいつが兄妹でいることを選んだんだろ。周りが決めることじゃない」
「高橋さんもですか?」
「は?」
「そうやってずっと黙ってる気ですか?」
何でゆっきーがそんなこと言い出すのかと思った。一体どこからばれたのか。
「まさか中島?」
「中島さんがどうかしたんですか?」
「いや」
さすがに違うと思ってほっとする。あいつは口が軽そうだからつい疑ってしまった。
「何でお前が知ってるんだよ」
「そんなの見てればわかります」
やっぱり誰にもわかるほど態度に出ていたのかと思って青くなる。そしたら、それを察したようにゆっきーが言う。
「いえ、俺がそういうのわかるだけなんで」
一生の不覚だと思った。中島だって気付いたのだから、他の奴にも気付かれているかもしれない。だいたい藤越本人だって、だいぶ前から気付いていたんじゃないのか。そう思うとやってられない気持ちになった。
「お前には関係ない」
「でも」
「言ったからって何も変わらないだろ」
俺がずっと思っていたことだった。そもそもあいつは愛良ちゃんが好きなのだ。
「そんなことないですよ」
ゆっきーとか他の奴に余計なこと言われたくない。放っておいてほしい。俺がどんな決断を下そうと俺の勝手だ。
「ほっとけって言ってんだ」
「透馬さんが心配だって、見ているだけなんですね」
捨て台詞のようなことを言って、ゆっきーは俺の前から去る。一体何なんだ。何でそんなことまで言われなきゃいけない。俺が今までどんな気持ちであいつを見ていて、側にいたと思ってるんだ。ゆっきーなんかに言われたくない。
家に帰ってもずっと考えていた。愛良ちゃんへの気持ちを抱えたまま一緒に住み続ける藤越のことを。本当にこのままで大丈夫なんだろうか。でもだからって俺に何ができる?
藤越が愛良ちゃんに好きと言ったら、また二人は付き合いだすかもしれない。でも、そしたら家族はめちゃくちゃになってしまう。せっかく時間をかけて戻った家族がばらばらに。そう考えて気付いた。だからもしかして藤越は、愛良ちゃんは、お互いの気持ちを諦めたのかと。兄妹でいれば、少なくとも家族のままでいられる。
だけど、もし愛良ちゃんに恋人ができたら? あいつはどうするんだろう。そのことを想像すると、嫌な予感がしてならなかった。ぼたんさんの時も、腹いせに俺を殴ったりしていたのだ。その相手がまだ俺で良かったけど、もし愛良ちゃんの恋人に直接暴行を加えたら? 警察沙汰だけでは済まない。愛良ちゃんは悲しむだろう。二人の関係は修復できなくなるのではないか。そんなこと今から想像しても仕方ないけれど、そう思わずにはいられなかった。
どちらに転んでも二人に未来はない。それだけはどうしても避けなきゃならない。俺は一体何をすれば? 悩んでも思いつかなかった。
その時、一つの考えが浮かんだ。でも、それはもろ刃の剣だった。本当に意味があることなのかわからない。でも、今の俺にはそれしかできることがない。
ゆっきーが俺に黙っているつもりなのかと言った。その逆のことをしようと。
俺が言ったところで何か変わるわけじゃない。ただ、藤越が愛良ちゃんを想う横で、俺のような馬鹿みたいに想い続けている奴がいると思ってくれればいい。俺は何も見返りを求めないから、藤越も同じように愛良ちゃんを想い続けることができるだろうと。
見本になろうと思ったのだ。それ以外ないはずだった。きっと。
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