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第2章 手掛かりを追って
集会
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工業高校に初めて顔を出した時、都内私立トップ校の閉失から来たというだけで、注目を浴びてしまった。
どうしてわざわざトップの進学校から移ってきたのかと根掘り葉掘り聞かれたが、落ちこぼれだったからと適当に答えた。
閉失の下位クラスは殺伐としていてほとんど会話もなかったけど、それに比べると和気あいあいとしていた。ちょっと不良っぽいやばい奴らもいたけど、大半は俺と似たようなもので、気が合いそうだった。
結局半年以上藤越の消息はつかめず、それらしい情報を得たのは二年生になってからだった。
二年生になってしばらくすると、変な噂を聞いた。ナンバーズという怪しげなグループが巷を騒がしているらしい。
渋谷界隈を取り仕切っていて、やばいトラブルを解決してくれると言う話だったが、俺には関係ないと思っていた。
そのメンバーらしい奴らから藤越の名前を聞くまでは。
そいつらの会話に「透馬さん」という言葉を聞いたのだ。結構珍しい名前だし、そんな名前の奴はあいつ以外いないと思った。俺はつい驚いて声を上げた。
別のクラスの奴だったが、話をしていた途中で割りこむと、不信がられた。藤越と知り合いだということを話すと、次の集会に一緒に行こうと誘われた。藤越がグループのリーダーだというから更に驚きだった。
その日は渋谷駅すぐの公園で集会が開かれていた。最初はマックなどの店で集まっていたが、人数が増えたため仕方なくということのようだ。ただだべってるだけで、一瞬顔を見せたらすぐに去っていく奴もいた。何のために集まってるのか謎だ。主に藤越への報告のためらしいが、ただ単に食っちゃべりたいだけのように見える。
俺は終わるのを待って藤越を捕まえた。
「お前一体ここで何やってるんだよ」
「あれ、高橋いたの?」
全く気付かれていなかったようだ。俺はため息をついた。こんなとこまで探しにきたのに相変わらずやる気のない態度に呆れた。
「何って、なんとなく集まってるだけだけど。なんか噂が広まって勝手に人が増えたんだよね」
と呑気なことを言っている。
「どうしてボスなんだ?」と聞いてみると、「さあ。祭り上げられただけなんだけどね」と言ってウインクする。ちょっと気色悪い。
そこで、浅木梨津という奴を紹介された。藤越と一緒に住んでいるという。何で急にそうなるのか全く俺には理解できなかった。ぼたんさんのところを出て一年足らずで一人暮らしを始め、さらに一緒に住んでいる奴までいるとは、正直ついていけない。
しかも、
「梨津は小三の時会った幼なじみなんだよ。偶然再会したんだけど」
と説明されたので、もっと不可解だった。俺たちがいじめていた間に、いつの間に友達なんかできたのか全く知らない話で、正直そんな話聞きたくないと思った。
「そんなこと聞いてない」
と言うと、藤越は肩をすくめた。
「いつの間に一人暮らし始めたんだよ。いや、二人暮らしか?」
聞いてみると、今の仕事を始めて三か月ぐらいでという話だった。割がいいから家賃等も楽に払えるらしいが、藤越の割には仕事が続いていると思った。大将さんがころころ仕事を変えると言っていたのを覚えていたのだ。
俺が「良く続いてるな」と言うと、「新しい仕事先知ってたっけ?」と聞かれ、つい、「詳しくは知らないけど聞いた。ラブホだろ」と答えてしまった。
「誰に?」
そんなことまで聞かれるとは思わなかった。俺はとっさにごまかしきれない。
「教えない」
と言うと、藤越はちょっと考えて口にする。
「もしかしてぼたんさん?」
「店に訪ねただけで、たいしたことは聞いてねえよ」
何で俺はとっさに嘘がつけないんだと思った。
「別に気を遣うことないのに」
気を遣ったわけじゃない。ただ藤越が惚れていた女だから話題にしにくいだけだ。
「この後うちで集まるみたいだけど、高橋っちも来る?」
と誘われたが、そこで浅木という奴が「おい、透馬」と口を挟んだためにそんな気は全く失せた。
「遠慮しとく」
藤越の隣にいる男が気に入らなかった。透馬と気軽に呼べるのも気に入らない。一緒に暮らしてるのももっと気に入らないけど。
「高橋っちは今何やってんの?」
「ちはやめろ」
「じゃあ忠敏?」
「名前で呼ぶな」
藤越はわざとやってるんじゃないかと思う。
「学校行ってるんだよ」と適当に答える。
どうせ俺のことなんか興味ないくせにと思う。だから、それ以上何も言わなかった。藤越はまた来たらと言いながら他の奴に呼ばれてどこかへ行ってしまった。
俺はそのままその場を去った。一緒に集会に来ていた多村が「よくそんな口透馬さんに聞けるな」と言ったが、別に俺のボスでも何でもないし、ただあいつの様子が気になって見に来ただけだと思った。
二度と行く気なんかなかったけど、結局あいつの様子が気になって、何度か集会に足を運んだ。いつも多村についていくので自然と仲良くなった。だけど、あいつをボスと慕ったり、透馬さんと呼ぶのには慣れなかった。
別に俺にとってはボスでも慕う相手でもない。友達ですらないのかもしれないけど、よくわからない。あいつへの気持ちに名前をつけるのをずっと避けていた。考えたくなかった。ただあいつが元気ならそれでいいと思った。
どうしてわざわざトップの進学校から移ってきたのかと根掘り葉掘り聞かれたが、落ちこぼれだったからと適当に答えた。
閉失の下位クラスは殺伐としていてほとんど会話もなかったけど、それに比べると和気あいあいとしていた。ちょっと不良っぽいやばい奴らもいたけど、大半は俺と似たようなもので、気が合いそうだった。
結局半年以上藤越の消息はつかめず、それらしい情報を得たのは二年生になってからだった。
二年生になってしばらくすると、変な噂を聞いた。ナンバーズという怪しげなグループが巷を騒がしているらしい。
渋谷界隈を取り仕切っていて、やばいトラブルを解決してくれると言う話だったが、俺には関係ないと思っていた。
そのメンバーらしい奴らから藤越の名前を聞くまでは。
そいつらの会話に「透馬さん」という言葉を聞いたのだ。結構珍しい名前だし、そんな名前の奴はあいつ以外いないと思った。俺はつい驚いて声を上げた。
別のクラスの奴だったが、話をしていた途中で割りこむと、不信がられた。藤越と知り合いだということを話すと、次の集会に一緒に行こうと誘われた。藤越がグループのリーダーだというから更に驚きだった。
その日は渋谷駅すぐの公園で集会が開かれていた。最初はマックなどの店で集まっていたが、人数が増えたため仕方なくということのようだ。ただだべってるだけで、一瞬顔を見せたらすぐに去っていく奴もいた。何のために集まってるのか謎だ。主に藤越への報告のためらしいが、ただ単に食っちゃべりたいだけのように見える。
俺は終わるのを待って藤越を捕まえた。
「お前一体ここで何やってるんだよ」
「あれ、高橋いたの?」
全く気付かれていなかったようだ。俺はため息をついた。こんなとこまで探しにきたのに相変わらずやる気のない態度に呆れた。
「何って、なんとなく集まってるだけだけど。なんか噂が広まって勝手に人が増えたんだよね」
と呑気なことを言っている。
「どうしてボスなんだ?」と聞いてみると、「さあ。祭り上げられただけなんだけどね」と言ってウインクする。ちょっと気色悪い。
そこで、浅木梨津という奴を紹介された。藤越と一緒に住んでいるという。何で急にそうなるのか全く俺には理解できなかった。ぼたんさんのところを出て一年足らずで一人暮らしを始め、さらに一緒に住んでいる奴までいるとは、正直ついていけない。
しかも、
「梨津は小三の時会った幼なじみなんだよ。偶然再会したんだけど」
と説明されたので、もっと不可解だった。俺たちがいじめていた間に、いつの間に友達なんかできたのか全く知らない話で、正直そんな話聞きたくないと思った。
「そんなこと聞いてない」
と言うと、藤越は肩をすくめた。
「いつの間に一人暮らし始めたんだよ。いや、二人暮らしか?」
聞いてみると、今の仕事を始めて三か月ぐらいでという話だった。割がいいから家賃等も楽に払えるらしいが、藤越の割には仕事が続いていると思った。大将さんがころころ仕事を変えると言っていたのを覚えていたのだ。
俺が「良く続いてるな」と言うと、「新しい仕事先知ってたっけ?」と聞かれ、つい、「詳しくは知らないけど聞いた。ラブホだろ」と答えてしまった。
「誰に?」
そんなことまで聞かれるとは思わなかった。俺はとっさにごまかしきれない。
「教えない」
と言うと、藤越はちょっと考えて口にする。
「もしかしてぼたんさん?」
「店に訪ねただけで、たいしたことは聞いてねえよ」
何で俺はとっさに嘘がつけないんだと思った。
「別に気を遣うことないのに」
気を遣ったわけじゃない。ただ藤越が惚れていた女だから話題にしにくいだけだ。
「この後うちで集まるみたいだけど、高橋っちも来る?」
と誘われたが、そこで浅木という奴が「おい、透馬」と口を挟んだためにそんな気は全く失せた。
「遠慮しとく」
藤越の隣にいる男が気に入らなかった。透馬と気軽に呼べるのも気に入らない。一緒に暮らしてるのももっと気に入らないけど。
「高橋っちは今何やってんの?」
「ちはやめろ」
「じゃあ忠敏?」
「名前で呼ぶな」
藤越はわざとやってるんじゃないかと思う。
「学校行ってるんだよ」と適当に答える。
どうせ俺のことなんか興味ないくせにと思う。だから、それ以上何も言わなかった。藤越はまた来たらと言いながら他の奴に呼ばれてどこかへ行ってしまった。
俺はそのままその場を去った。一緒に集会に来ていた多村が「よくそんな口透馬さんに聞けるな」と言ったが、別に俺のボスでも何でもないし、ただあいつの様子が気になって見に来ただけだと思った。
二度と行く気なんかなかったけど、結局あいつの様子が気になって、何度か集会に足を運んだ。いつも多村についていくので自然と仲良くなった。だけど、あいつをボスと慕ったり、透馬さんと呼ぶのには慣れなかった。
別に俺にとってはボスでも慕う相手でもない。友達ですらないのかもしれないけど、よくわからない。あいつへの気持ちに名前をつけるのをずっと避けていた。考えたくなかった。ただあいつが元気ならそれでいいと思った。
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