俺の人生を捧ぐ人

宮部ネコ

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第2章 手掛かりを追って

唯一の手掛かり

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 藤越が帰った後、俺はしばらく実家で今後のことを考えた。藤越の話を聞いて、自分があまりにも浅はかな理由で家出したことが恥ずかしくなった。
 藤越が「高橋っちの家族いいよね」といった理由も、自分の家庭があまりにも恵まれているということも。
 家を出るほどの覚悟とは一体なんなのか。
 俺は藤越とは違う。一人で生きてく覚悟なんてできない。せいぜい実家にいながら技能を身につけて就職できるようにするぐらいだ。
 だから、資格を取って働くために、夏休み明けの9月から工業高校に通うことにした。
 母ちゃんには、「一体どういう風の吹き回しだい」と言われたが、
「母ちゃんだって老い先長くないでしょ」と返す。

 俺には勉強は向いてないとわかったし、俺にできることはさっさと働いて母ちゃんを楽させることぐらいしかない。でも、なんの技能もない中卒のガキを雇ってくれるとこなんてない。だから工業高校を選んだ。
 渋谷の学校に決めたのは、あいつがどうしているのか気になったから。藤越は携帯も持ってなかったし、今どこにいるのかも知らない。
 入学手続き等で渋谷を訪れた際もどこかで会えるのを期待したが、偶然も二度は起こらなかった。

 だから工業高校に入って一週間経った時、唯一の手掛かりであるあいつが働いているだろうオカマバーに行ってみた。店の場所はこの前会った時本人に聞いていたから。
 だが、あいつはもういなかった。
「透馬ちゃん? 先月やめちゃったわよ」
 店のママさんらしき人が答えた。藤越の呼び方や以前見た印象からこの人がぼたんさんだろう。俺よりでかくてがたいがいいし、女性には見えづらいが、話してみてなるほどと思う。穏やかで包容力がある。藤越が惚れたのも無理はないと思う。

 唯一の手掛かりが絶たれたことに落胆した俺は、仕方なくぼたんさんに心当たりを聞く。
「あの、今どこに住んでるかとかご存知ないですか?」
「家出てからはよく知らないのよね。仕事先ならわかるけど」
 あいつの働いているラブホの位置を説明してくれたが、俺は渋谷の地理にはうとく、よくわからなかった。しかしまた変なとこで働いてるなと思った。まああいつならどこでもやっていけそうだけど。
 仕事の後で良かったら案内してくれると言うが、明け方近くまでかかるらしいしさすがにそんなに待ってられない。明日も学校があるので、俺は断った。
 店を去る前にぼたんさんに変なことを聞かれた。
「ところで、愛良ちゃんという名前に心当たりない?」
 聞いたことがない名前だった。藤越がこの店で働いていた時に源氏名に使っていたらしい。「透馬ちゃんの想い人かと思ったんだけど」とぼたんさんは言うが、俺はあいつのことを何も知らないことに気付く。その名前は後で嫌というほど知ることになるけれど。

 俺は何の手がかりも得ることなくその店を後にした。
 もしかしたらあいつに連れていかれた寿司屋に行けば何かわかったのかもしれない。ただ、大将さんには嫌われてしまったし、あいつにばったり出くわしそうで嫌だった。探しているのに会いたくないという自分の矛盾に気付いていなかった。
 結局藤越がどうしているのかはわからなかった。
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