11 / 58
第1章 再会と言う名の奇跡
帰宅
しおりを挟む
始発で俺は実家に帰ることにしたが、ついでに今日は仕事が休みだという藤越を一緒に連れて行った。その方が母ちゃんと大喧嘩にならなくて済む気がしたから。
「ただいま」
と言って家に入ったら、とても早い時間なのに母ちゃんは起きていた。親父が会社に出ていった後だったからかもしれない。
「なんだい忠敏、今までどこをほっつき歩いてたんだい」
と言われてついカッとなって、「どこだって関係ねえだろ」という言い方をしてしまう。
何故か母ちゃんの前だと喧嘩ごしになる自分がいる。
「関係ないことないだろ。人様に迷惑かけて一体何やってるんだか。宮田君から連絡があったよ。全く」
母ちゃんの嫌味な言い方が悪いのだと思う。それに宮田の奴余計なことしてくれてと思った。
「こんにちは。お邪魔します」
藤越がそう言って母ちゃんの表情が変わった。
「あら、どちらさん? 嫌だ。恥ずかしい所見られたじゃない」
俺はそんな母ちゃんを無視して言った。
「中学の時の同級生だよ」
「はじめまして。藤越透馬です」
藤越は意外に礼儀はしっかりしていた。
「あらあら。どこの不良かと思ったけど、礼儀正しいいい子じゃない」
母ちゃんはこういうことを正直に言いすぎるから嫌だ。不良と言ったのは藤越の髪が金髪だからだろうけど。
「あの、お節介かと思ったんですが、せっかく久しぶりに帰ったんだから、まずは抱きしめてあげたらどうですか?」
と藤越が言い出したので、俺は慌てた。
「余計なこと言うなよ」
「あらあら。あんたの友達にしてはいい子だね。忠敏おかえり」
本気でやろうとするので、俺は「やめろよ。気色悪い」と言って逃げた。
「この子はいつもこうだよ。小学校の時おもらしして帰ってきた時も」
「母ちゃん!」
古い話を持ち出してマジでやめてほしい。
「照れてるだけですよ」
藤越がまた余計なことを言うので俺は言った。
「部屋行くからな。入ってくんなよ」
俺は母ちゃんに背を向けて駆け上がった。
部屋に入ったら藤越が言う。
「いいお母さんじゃん」
俺は藤越の言うことが理解不能だった。どうしてあの姿を見てそう思えるのかわからない。
「お前どういう基準で物見てるんだよ」と言ったら、「側にいてくれるだけいいじゃん」と言うので、俺は言葉に詰まった。
藤越の家は共働きのようだった。
「いたらいたでうざいんだけどな」
俺はそう言って、でも藤越が何も言わないので、つい余計なことを聞いてしまう。
「それで家出たのか?」
「まあ当たらずも遠からずかな」
藤越にしては珍しく歯切れが悪い。そのまま淡々と話し出す。
「妹がいるんだけどさ。十歳下の」
「ああ。俺もいる。もっと上の兄貴が」
と余計な茶々を入れてしまって少し後悔した。兄貴は十二歳上だった。しかしこの話には全く関係がない。既に結婚して家を出て行っている。
また藤越は淡々と言った。
「その妹にお兄ちゃん嫌いって言われた。お父さんは最初から女の子が欲しかったみたいだし、俺にはあんまり関心がなかった。母親も妹が生まれてから妹にかかり切りになったし、うちは妹中心で回ってた。その妹に嫌いって言われたら、この家にもう居場所はないなって思って。安直かもしれないけど」
俺は何も言えなかった。
藤越は家に泊まるのを遠慮していたが、母ちゃんが「いいよいいよ」と言うので苦笑しながら家に泊まっていった。
夜になったら親父が帰ってきて一波乱あった。
藤越が親父にも礼儀正しく挨拶すると、俺の家出の話になる。親父は捜索願いを出そうと思ったようだが、母ちゃんが「一週間もしたら値を上げて帰ってくるよ」と言ったから見送ったとか。
母ちゃんに俺の根性なしのところが見透かされているのは気にくわないが、その通りになってしまった。
「母ちゃんに見破られているようじゃまだまだだな」
親父が余計な口を利くので、「うるさい」とあしらう。
「あんたがそういうこと言うから、忠敏が図に乗るんだよ」
「別に図に乗ってないだろ」
「男は一度ぐらい家出するもんだ。なあ」
何故か藤越にまで話を振ってくる親父がうっとうしい。「親父!」と俺は牽制する。二人には言ってないけど、藤越は実際に家出しているのだから、その話はまずいと思う。
「一度は家出するかどうかはわかりませんが、家庭環境に寄るんじゃないですか」
藤越はまじめに返すし、俺は一人でドギマギしてしまった。
後で部屋で謝ると、藤越は特に気にしていない風だった。
「それより何で父ちゃんじゃなくて親父なの?」
「え? なんとなく」
母ちゃんという呼び方は親父の言い方が移っただけなのだが、母ちゃんは親父のことを「あんた」しか言わないし、父ちゃんなんて言葉は出てこなかっただけだ。
藤越は「高橋っちの家族いいよね」としきりに言う。俺にとっては当たり前で、時にうっとうしいと思うのに、藤越には当たり前じゃないからか。
結局俺には藤越の気持ちを推し量ることなんてできなかった。
「ただいま」
と言って家に入ったら、とても早い時間なのに母ちゃんは起きていた。親父が会社に出ていった後だったからかもしれない。
「なんだい忠敏、今までどこをほっつき歩いてたんだい」
と言われてついカッとなって、「どこだって関係ねえだろ」という言い方をしてしまう。
何故か母ちゃんの前だと喧嘩ごしになる自分がいる。
「関係ないことないだろ。人様に迷惑かけて一体何やってるんだか。宮田君から連絡があったよ。全く」
母ちゃんの嫌味な言い方が悪いのだと思う。それに宮田の奴余計なことしてくれてと思った。
「こんにちは。お邪魔します」
藤越がそう言って母ちゃんの表情が変わった。
「あら、どちらさん? 嫌だ。恥ずかしい所見られたじゃない」
俺はそんな母ちゃんを無視して言った。
「中学の時の同級生だよ」
「はじめまして。藤越透馬です」
藤越は意外に礼儀はしっかりしていた。
「あらあら。どこの不良かと思ったけど、礼儀正しいいい子じゃない」
母ちゃんはこういうことを正直に言いすぎるから嫌だ。不良と言ったのは藤越の髪が金髪だからだろうけど。
「あの、お節介かと思ったんですが、せっかく久しぶりに帰ったんだから、まずは抱きしめてあげたらどうですか?」
と藤越が言い出したので、俺は慌てた。
「余計なこと言うなよ」
「あらあら。あんたの友達にしてはいい子だね。忠敏おかえり」
本気でやろうとするので、俺は「やめろよ。気色悪い」と言って逃げた。
「この子はいつもこうだよ。小学校の時おもらしして帰ってきた時も」
「母ちゃん!」
古い話を持ち出してマジでやめてほしい。
「照れてるだけですよ」
藤越がまた余計なことを言うので俺は言った。
「部屋行くからな。入ってくんなよ」
俺は母ちゃんに背を向けて駆け上がった。
部屋に入ったら藤越が言う。
「いいお母さんじゃん」
俺は藤越の言うことが理解不能だった。どうしてあの姿を見てそう思えるのかわからない。
「お前どういう基準で物見てるんだよ」と言ったら、「側にいてくれるだけいいじゃん」と言うので、俺は言葉に詰まった。
藤越の家は共働きのようだった。
「いたらいたでうざいんだけどな」
俺はそう言って、でも藤越が何も言わないので、つい余計なことを聞いてしまう。
「それで家出たのか?」
「まあ当たらずも遠からずかな」
藤越にしては珍しく歯切れが悪い。そのまま淡々と話し出す。
「妹がいるんだけどさ。十歳下の」
「ああ。俺もいる。もっと上の兄貴が」
と余計な茶々を入れてしまって少し後悔した。兄貴は十二歳上だった。しかしこの話には全く関係がない。既に結婚して家を出て行っている。
また藤越は淡々と言った。
「その妹にお兄ちゃん嫌いって言われた。お父さんは最初から女の子が欲しかったみたいだし、俺にはあんまり関心がなかった。母親も妹が生まれてから妹にかかり切りになったし、うちは妹中心で回ってた。その妹に嫌いって言われたら、この家にもう居場所はないなって思って。安直かもしれないけど」
俺は何も言えなかった。
藤越は家に泊まるのを遠慮していたが、母ちゃんが「いいよいいよ」と言うので苦笑しながら家に泊まっていった。
夜になったら親父が帰ってきて一波乱あった。
藤越が親父にも礼儀正しく挨拶すると、俺の家出の話になる。親父は捜索願いを出そうと思ったようだが、母ちゃんが「一週間もしたら値を上げて帰ってくるよ」と言ったから見送ったとか。
母ちゃんに俺の根性なしのところが見透かされているのは気にくわないが、その通りになってしまった。
「母ちゃんに見破られているようじゃまだまだだな」
親父が余計な口を利くので、「うるさい」とあしらう。
「あんたがそういうこと言うから、忠敏が図に乗るんだよ」
「別に図に乗ってないだろ」
「男は一度ぐらい家出するもんだ。なあ」
何故か藤越にまで話を振ってくる親父がうっとうしい。「親父!」と俺は牽制する。二人には言ってないけど、藤越は実際に家出しているのだから、その話はまずいと思う。
「一度は家出するかどうかはわかりませんが、家庭環境に寄るんじゃないですか」
藤越はまじめに返すし、俺は一人でドギマギしてしまった。
後で部屋で謝ると、藤越は特に気にしていない風だった。
「それより何で父ちゃんじゃなくて親父なの?」
「え? なんとなく」
母ちゃんという呼び方は親父の言い方が移っただけなのだが、母ちゃんは親父のことを「あんた」しか言わないし、父ちゃんなんて言葉は出てこなかっただけだ。
藤越は「高橋っちの家族いいよね」としきりに言う。俺にとっては当たり前で、時にうっとうしいと思うのに、藤越には当たり前じゃないからか。
結局俺には藤越の気持ちを推し量ることなんてできなかった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

【番外編更新】小石の恋
キザキ ケイ
BL
やや無口で平凡な男子高校生の律紀は、ひょんなことから学校一の有名人、天道 至先輩と知り合う。
助けてもらったお礼を言って、それで終わりのはずだったのに。
なぜか先輩は律紀にしつこく絡んできて、連れ回されて、平凡な日常がどんどん侵食されていく。
果たして律紀は逃げ切ることができるのか。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる