俺の人生を捧ぐ人

宮部ネコ

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第13章 最後の再会

最後の再会(2)

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 仕方がないので俺は話を続ける。
「関本さんとかお前知ってた?」
「うん。最初にやったんでしょ」
「そんな話したっけ?」
「関本さんとは聞いてない。ただ気付いただけ。小学校の時、俺の机にあった落書き消してたでしょ?」
 関本さんがそんなことしてたっけと思った。
「それ俺だろ」
「うん。それをわざわざ関本さんが言いに来たの。だから忠敏に気があるのかなって」
 そんなこと俺ですら気付かなかったのに、透馬の勘はやはり鋭い。
「なんていうか自分の鈍さが露わになるな」
「忠敏が鈍いのは前からじゃん。他にもいっぱいいたと思うよ。モテてたでしょ?」
「そうかな」
 全くそんな気はしなかった。モテてた覚えもない。 
「まあ別に直接言ってこない奴のことなんかどうでもいいよ」
「だからお前は直接言うことにこだわる?」
「人に気付いてもらおうなんて怠慢でしょ。俺はすぐ気付くけど、気付かない振りをする」
 そういう所はいつも厳しい。確かに一理はあるのだ。結局告白しないで済ませようというのが甘いのかもしれない。俺にとっては耳が痛い話だが。
「ぼたんさんに言ってなかった? 一生言わないって」
 どこからそんな情報を。ってぼたんさん本人しかいないか。
「どうして言う気になったの?」
 前に話したような気がしたのだけど、透馬は自分から言った。
「俺が愛良が好きだって気付いたから言ったんじゃないの?」
 俺は肯く。
「ぼたんさんから聞いた時、俺は自分も愛良に対してそう思ってたから、だから愛良に言う気になったの」
「は?」
「忠敏が恋のキューピッドだったんだよ」
 そんなことは知らない。愛良ちゃんと透馬を結びつけたのが俺だなんて。
「でもね、鹿児島に迎えに行った時、俺は忠敏の気持ちに蓋をした。ただ純粋に側にいてほしいとだけ伝えた。せっかく愛良を自分のもとに取り戻したのにこれ以上何を望むのかと自分でも思った。多分その時はもう手遅れだった」
「何言ってるかわからねえよ」
「俺が最初に忠敏に好きって言ったの本当だったってことだよ」
 またわけわからんことを言い出す。今更ほじくり返してめんどくさい。
「別に今一緒にいるならいいじゃないかそんなこと」
「良くないんだよ」
 俺にとってはどうでもいいことなのに。
「じゃあ、いつ俺の記憶が戻ったって気付いたの?」
 その答えは簡単だ。
「お前の受け答えが自然過ぎて。でも、多分俺がキスした時」
「わかってるじゃん」
「やっぱりわざとだったのか」
 すごい記憶力を持っている透馬が忘れるということが信じられなかったのだが、やっとわかった。
「わざとっていうか、忘れるってことを体験してみたかった」
 透馬は俺がキスをするというパスワードを記憶にかけていたらしい。そんなことが可能なのかは、何の能力もない俺にはわからない。
「何でわざわざ」
 俺なんだと口にする前に透馬は答える。
「一番大切な記憶だから」
 そう言われると何も言えなくなる。
「遅いんだよ。すぐ俺の前からいなくなろうとするし、なかなか戻ってこないし」
「そんなの仕方ないだろ」
 本当に忘れてると思ったんだから。
「まあ、俺の魔が差したのが悪いんだけど」
「魔が差した?」
「そう。本当は手に触れるだけで戻ろうと思ったんだよね。でも、魔が差してキスにした」
「おい。もし俺がしなかったらどうするんだ」
「うん。だから魔が差したって言ってるじゃん」
 透馬はばつが悪そうな顔をする。
「でも、同時に解放してあげようと思ったんだよ」
「解放?」
「俺から」
 そういうことを言うなと思った。
「無理だってわかってんだろ」
「忠敏は馬鹿だね」
 そういう言い方はやめてほしい。
「本当に馬鹿だね」
 もう一度言う。俺はそのまま透馬を抱きしめた。やっとここに戻ってきた。俺のもとに。もうどこにも行かせないと思った。
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