54 / 58
第13章 最後の再会
最後の再会(2)
しおりを挟む
仕方がないので俺は話を続ける。
「関本さんとかお前知ってた?」
「うん。最初にやったんでしょ」
「そんな話したっけ?」
「関本さんとは聞いてない。ただ気付いただけ。小学校の時、俺の机にあった落書き消してたでしょ?」
関本さんがそんなことしてたっけと思った。
「それ俺だろ」
「うん。それをわざわざ関本さんが言いに来たの。だから忠敏に気があるのかなって」
そんなこと俺ですら気付かなかったのに、透馬の勘はやはり鋭い。
「なんていうか自分の鈍さが露わになるな」
「忠敏が鈍いのは前からじゃん。他にもいっぱいいたと思うよ。モテてたでしょ?」
「そうかな」
全くそんな気はしなかった。モテてた覚えもない。
「まあ別に直接言ってこない奴のことなんかどうでもいいよ」
「だからお前は直接言うことにこだわる?」
「人に気付いてもらおうなんて怠慢でしょ。俺はすぐ気付くけど、気付かない振りをする」
そういう所はいつも厳しい。確かに一理はあるのだ。結局告白しないで済ませようというのが甘いのかもしれない。俺にとっては耳が痛い話だが。
「ぼたんさんに言ってなかった? 一生言わないって」
どこからそんな情報を。ってぼたんさん本人しかいないか。
「どうして言う気になったの?」
前に話したような気がしたのだけど、透馬は自分から言った。
「俺が愛良が好きだって気付いたから言ったんじゃないの?」
俺は肯く。
「ぼたんさんから聞いた時、俺は自分も愛良に対してそう思ってたから、だから愛良に言う気になったの」
「は?」
「忠敏が恋のキューピッドだったんだよ」
そんなことは知らない。愛良ちゃんと透馬を結びつけたのが俺だなんて。
「でもね、鹿児島に迎えに行った時、俺は忠敏の気持ちに蓋をした。ただ純粋に側にいてほしいとだけ伝えた。せっかく愛良を自分のもとに取り戻したのにこれ以上何を望むのかと自分でも思った。多分その時はもう手遅れだった」
「何言ってるかわからねえよ」
「俺が最初に忠敏に好きって言ったの本当だったってことだよ」
またわけわからんことを言い出す。今更ほじくり返してめんどくさい。
「別に今一緒にいるならいいじゃないかそんなこと」
「良くないんだよ」
俺にとってはどうでもいいことなのに。
「じゃあ、いつ俺の記憶が戻ったって気付いたの?」
その答えは簡単だ。
「お前の受け答えが自然過ぎて。でも、多分俺がキスした時」
「わかってるじゃん」
「やっぱりわざとだったのか」
すごい記憶力を持っている透馬が忘れるということが信じられなかったのだが、やっとわかった。
「わざとっていうか、忘れるってことを体験してみたかった」
透馬は俺がキスをするというパスワードを記憶にかけていたらしい。そんなことが可能なのかは、何の能力もない俺にはわからない。
「何でわざわざ」
俺なんだと口にする前に透馬は答える。
「一番大切な記憶だから」
そう言われると何も言えなくなる。
「遅いんだよ。すぐ俺の前からいなくなろうとするし、なかなか戻ってこないし」
「そんなの仕方ないだろ」
本当に忘れてると思ったんだから。
「まあ、俺の魔が差したのが悪いんだけど」
「魔が差した?」
「そう。本当は手に触れるだけで戻ろうと思ったんだよね。でも、魔が差してキスにした」
「おい。もし俺がしなかったらどうするんだ」
「うん。だから魔が差したって言ってるじゃん」
透馬はばつが悪そうな顔をする。
「でも、同時に解放してあげようと思ったんだよ」
「解放?」
「俺から」
そういうことを言うなと思った。
「無理だってわかってんだろ」
「忠敏は馬鹿だね」
そういう言い方はやめてほしい。
「本当に馬鹿だね」
もう一度言う。俺はそのまま透馬を抱きしめた。やっとここに戻ってきた。俺のもとに。もうどこにも行かせないと思った。
「関本さんとかお前知ってた?」
「うん。最初にやったんでしょ」
「そんな話したっけ?」
「関本さんとは聞いてない。ただ気付いただけ。小学校の時、俺の机にあった落書き消してたでしょ?」
関本さんがそんなことしてたっけと思った。
「それ俺だろ」
「うん。それをわざわざ関本さんが言いに来たの。だから忠敏に気があるのかなって」
そんなこと俺ですら気付かなかったのに、透馬の勘はやはり鋭い。
「なんていうか自分の鈍さが露わになるな」
「忠敏が鈍いのは前からじゃん。他にもいっぱいいたと思うよ。モテてたでしょ?」
「そうかな」
全くそんな気はしなかった。モテてた覚えもない。
「まあ別に直接言ってこない奴のことなんかどうでもいいよ」
「だからお前は直接言うことにこだわる?」
「人に気付いてもらおうなんて怠慢でしょ。俺はすぐ気付くけど、気付かない振りをする」
そういう所はいつも厳しい。確かに一理はあるのだ。結局告白しないで済ませようというのが甘いのかもしれない。俺にとっては耳が痛い話だが。
「ぼたんさんに言ってなかった? 一生言わないって」
どこからそんな情報を。ってぼたんさん本人しかいないか。
「どうして言う気になったの?」
前に話したような気がしたのだけど、透馬は自分から言った。
「俺が愛良が好きだって気付いたから言ったんじゃないの?」
俺は肯く。
「ぼたんさんから聞いた時、俺は自分も愛良に対してそう思ってたから、だから愛良に言う気になったの」
「は?」
「忠敏が恋のキューピッドだったんだよ」
そんなことは知らない。愛良ちゃんと透馬を結びつけたのが俺だなんて。
「でもね、鹿児島に迎えに行った時、俺は忠敏の気持ちに蓋をした。ただ純粋に側にいてほしいとだけ伝えた。せっかく愛良を自分のもとに取り戻したのにこれ以上何を望むのかと自分でも思った。多分その時はもう手遅れだった」
「何言ってるかわからねえよ」
「俺が最初に忠敏に好きって言ったの本当だったってことだよ」
またわけわからんことを言い出す。今更ほじくり返してめんどくさい。
「別に今一緒にいるならいいじゃないかそんなこと」
「良くないんだよ」
俺にとってはどうでもいいことなのに。
「じゃあ、いつ俺の記憶が戻ったって気付いたの?」
その答えは簡単だ。
「お前の受け答えが自然過ぎて。でも、多分俺がキスした時」
「わかってるじゃん」
「やっぱりわざとだったのか」
すごい記憶力を持っている透馬が忘れるということが信じられなかったのだが、やっとわかった。
「わざとっていうか、忘れるってことを体験してみたかった」
透馬は俺がキスをするというパスワードを記憶にかけていたらしい。そんなことが可能なのかは、何の能力もない俺にはわからない。
「何でわざわざ」
俺なんだと口にする前に透馬は答える。
「一番大切な記憶だから」
そう言われると何も言えなくなる。
「遅いんだよ。すぐ俺の前からいなくなろうとするし、なかなか戻ってこないし」
「そんなの仕方ないだろ」
本当に忘れてると思ったんだから。
「まあ、俺の魔が差したのが悪いんだけど」
「魔が差した?」
「そう。本当は手に触れるだけで戻ろうと思ったんだよね。でも、魔が差してキスにした」
「おい。もし俺がしなかったらどうするんだ」
「うん。だから魔が差したって言ってるじゃん」
透馬はばつが悪そうな顔をする。
「でも、同時に解放してあげようと思ったんだよ」
「解放?」
「俺から」
そういうことを言うなと思った。
「無理だってわかってんだろ」
「忠敏は馬鹿だね」
そういう言い方はやめてほしい。
「本当に馬鹿だね」
もう一度言う。俺はそのまま透馬を抱きしめた。やっとここに戻ってきた。俺のもとに。もうどこにも行かせないと思った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

【短編BL】退路は既に断たれていたらしい【完結】
riy
BL
腹ペコで行き倒れていた男を拾った黒川悠希は、近くの肉屋で買ったコロッケとメンチカツをその場で奢る。
その男が悠希の通う高校に転入してきてしまった。
ゼロ距離で悠希の生活に入り込み、悠希も距離感もをバグらせてしまうが!?
高校生男子同士のピュアッピュアな全年齢ラブストーリー。
悠希の前でだけ溺愛系従順わんこ(他人から見れば番犬&狂犬)×然からの執着に微塵も気が付いていない内面男前受け(顔は可愛い)
【純愛BL】心が読める推しとアイドルユニットを組んだモノガタリ
立坂雪花
BL
アイドルの 水樹 遥斗には誰も知らない特殊能力がある。
それは、人の心が読めること。
読めることが原因で人間の裏表を知り、人間不信気味だったり、所属していたボーイズグループが解散したり。
ある日、ソロで活動していた遥斗はユニットを組むよう事務所の社長に指示される。
その相手とは、遥斗の大ファンであり、イベントではいつも心の中がお母さんみたいだなと感じていた『白桃 大知』だった。
ユニット名は白桃大知が考えた
『balloon flower』
(桔梗:花言葉は永遠の愛)
に決定される。
彼のお陰で遥斗は前向きな気持ちになっていき、そして彼に対し特別な感情も抱くようにもなる。
だけど、自分の白桃大知に対しての気持ちを認めた瞬間、遥斗は人の心が読めなくなり――。
🌸例えば一緒に映る時は、推しの映りの良さがなによりも大事
お読みくださりありがとうございます
読んでくださり反応も
書く励みとなっております。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。


それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる