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第12章 追いかけっこ
関本さん
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関本加奈子さん。彼女とは小3小4の時と、中2で同級生だった。
彼女とのことはよく覚えている。それもそのはず、初めてセックスをした相手だから。
関本さんが担任だという二年一組の前に行くと、まだ四時間目の授業の途中のようだった。邪魔しちゃ悪いので俺は授業が終わるまで待っていた。もちろん学校には透馬の姿は見当たらない。
授業が終わって、関本さんが教室から出てくると、すぐ俺に気付いた。
「高橋君?」
だいぶ老けたけど昔の面影がある。
「久しぶり」
「覚えててくれたんだ」
「そりゃ、ね」
なんとなく気恥ずかしい感じがする。関本さんも同じのようだ。
「嫌だ。もしかして授業見てた?」
「最後のちょっとだけ」
関本さんは困ったようにはにかんだ。
「今日は珍しいことが起こるわね。さっきも藤越君が」
「やっぱりあいつ来てた?」
「高橋君?」
つい、腕を揺さぶってしまい、慌てて手を放す。
「ごめん。その、あいつを捜してて」
「藤越君がどうかしたの?」
と、その時生徒が「関本先生」と呼んで、関本さんは生徒に答えていた。
関本さんはここだと生徒の注目の的だからと、準備室のような所に俺を連れて来た。
「それで、何で二人してここに?」
「あいつ何か言ってた? どこ行くとか」
「さあ。それは聞いてないけど」
「他に何を言ってた?」
「その、藤越君と何かあったの?」
俺はどう答えようか迷った。
「よくわからない。朝起きたらいなくなってて」
「え?」
「一緒に住んでるんだ。って言ってもだいぶ前から、二十年ぐらい」
関本さんは知らなかったと言う。まあ、そりゃそうだろう。
「高橋君と藤越君ってどういう関係?」
と聞かれたので返答に困った。
「藤越君に聞いたら、忠敏に聞けって」
あいつは全く人に押し付けやがってと思った。
「恋人なのかな」
「え?」
「変な話で悪いけど」
「本当に?」
俺は仕方なく頷く。
「そっか」
関本さんは妙に納得した顔をしたので、俺はどう答えていいかわからなかった。
「おかしいと思ったんじゃなくて、そんな気がしたの。だって藤越君、私に手を出すなみたいなすごい顔してたから」
あいつは一体何をやってるんだと思う。
「って言っても、最近で、二十年前から住んでたのは別の理由だから」
と、つい言い訳をするが、あまり意味はないかもしれない。どちらにしろ俺はその前からずっとあいつのことしか考えていなかった。
「そうなんだ」
「あのさ、あいつ、透馬他に何か」
「心配しないでとは言ってたけど」
またそれ。俺は別に心配してるわけじゃない。ただ、会いたいんだ。
「どこに行くとかは聞いてないよな?」
「うん」
これ以上追いかけるべきなのか迷いが生まれる。俺のそばにいたくないのかと考えてしまう。
「本当はよくわからないんだよ。あいつの側にいていいのか」
「そんなこと。だって、藤越君だって高橋君のこと好きなんじゃないの?」
「でも、何も言わずに出て行った」
「わからない。でも、私はそんな簡単に気持ちがなくなるとは思えない。きっと、何かやることがあったんだよ。そんなことを言ってたような」
関本さんが必死で慰めようとしてくれるのがおかしかった。
「ありがとう。他を探してみる」
「あの、高橋君」
「ん?」
「あのね。私」
関本さんは言いにくそうに間を置いて言った。
「私、高橋君が」
「それは、聞かないでおくよ」
今言われても困る。俺には何も返せない。
「知ってた?」
「気づいたのは最近。透馬にも言われたけど、俺ホント鈍いから、ごめん」
「謝らないで」
「あ、ごめん。じゃなくて、ありがとう」
「うっ」
関本さんが泣き出したので、俺は少し目をそらした。
「関本さんの気持ちはうれしいよ」
透馬にそう言われたことを思い出した。
「俺はホント馬鹿で、あいつ、透馬のこと以外何も考えられない馬鹿で。そんな風に今まで誰かの気持ちを傷つけてきたことも何度もあったと思う」
「私、高橋君が最初の相手で良かった。本当にありがとう」
「俺、あの時」
「言わなくていいよ。わかってるから。それでも、単純にうれしかったから、ありがとう」
お礼を言われるようなことは何もないと思ったけど、黙って聞いていた。
念のため、藤越がまたここに来た時のために連絡先を交換した。でも、多分もうここにはこないだろう。
俺は関本さんにさよならをし、井口の学校を後にした。
彼女とのことはよく覚えている。それもそのはず、初めてセックスをした相手だから。
関本さんが担任だという二年一組の前に行くと、まだ四時間目の授業の途中のようだった。邪魔しちゃ悪いので俺は授業が終わるまで待っていた。もちろん学校には透馬の姿は見当たらない。
授業が終わって、関本さんが教室から出てくると、すぐ俺に気付いた。
「高橋君?」
だいぶ老けたけど昔の面影がある。
「久しぶり」
「覚えててくれたんだ」
「そりゃ、ね」
なんとなく気恥ずかしい感じがする。関本さんも同じのようだ。
「嫌だ。もしかして授業見てた?」
「最後のちょっとだけ」
関本さんは困ったようにはにかんだ。
「今日は珍しいことが起こるわね。さっきも藤越君が」
「やっぱりあいつ来てた?」
「高橋君?」
つい、腕を揺さぶってしまい、慌てて手を放す。
「ごめん。その、あいつを捜してて」
「藤越君がどうかしたの?」
と、その時生徒が「関本先生」と呼んで、関本さんは生徒に答えていた。
関本さんはここだと生徒の注目の的だからと、準備室のような所に俺を連れて来た。
「それで、何で二人してここに?」
「あいつ何か言ってた? どこ行くとか」
「さあ。それは聞いてないけど」
「他に何を言ってた?」
「その、藤越君と何かあったの?」
俺はどう答えようか迷った。
「よくわからない。朝起きたらいなくなってて」
「え?」
「一緒に住んでるんだ。って言ってもだいぶ前から、二十年ぐらい」
関本さんは知らなかったと言う。まあ、そりゃそうだろう。
「高橋君と藤越君ってどういう関係?」
と聞かれたので返答に困った。
「藤越君に聞いたら、忠敏に聞けって」
あいつは全く人に押し付けやがってと思った。
「恋人なのかな」
「え?」
「変な話で悪いけど」
「本当に?」
俺は仕方なく頷く。
「そっか」
関本さんは妙に納得した顔をしたので、俺はどう答えていいかわからなかった。
「おかしいと思ったんじゃなくて、そんな気がしたの。だって藤越君、私に手を出すなみたいなすごい顔してたから」
あいつは一体何をやってるんだと思う。
「って言っても、最近で、二十年前から住んでたのは別の理由だから」
と、つい言い訳をするが、あまり意味はないかもしれない。どちらにしろ俺はその前からずっとあいつのことしか考えていなかった。
「そうなんだ」
「あのさ、あいつ、透馬他に何か」
「心配しないでとは言ってたけど」
またそれ。俺は別に心配してるわけじゃない。ただ、会いたいんだ。
「どこに行くとかは聞いてないよな?」
「うん」
これ以上追いかけるべきなのか迷いが生まれる。俺のそばにいたくないのかと考えてしまう。
「本当はよくわからないんだよ。あいつの側にいていいのか」
「そんなこと。だって、藤越君だって高橋君のこと好きなんじゃないの?」
「でも、何も言わずに出て行った」
「わからない。でも、私はそんな簡単に気持ちがなくなるとは思えない。きっと、何かやることがあったんだよ。そんなことを言ってたような」
関本さんが必死で慰めようとしてくれるのがおかしかった。
「ありがとう。他を探してみる」
「あの、高橋君」
「ん?」
「あのね。私」
関本さんは言いにくそうに間を置いて言った。
「私、高橋君が」
「それは、聞かないでおくよ」
今言われても困る。俺には何も返せない。
「知ってた?」
「気づいたのは最近。透馬にも言われたけど、俺ホント鈍いから、ごめん」
「謝らないで」
「あ、ごめん。じゃなくて、ありがとう」
「うっ」
関本さんが泣き出したので、俺は少し目をそらした。
「関本さんの気持ちはうれしいよ」
透馬にそう言われたことを思い出した。
「俺はホント馬鹿で、あいつ、透馬のこと以外何も考えられない馬鹿で。そんな風に今まで誰かの気持ちを傷つけてきたことも何度もあったと思う」
「私、高橋君が最初の相手で良かった。本当にありがとう」
「俺、あの時」
「言わなくていいよ。わかってるから。それでも、単純にうれしかったから、ありがとう」
お礼を言われるようなことは何もないと思ったけど、黙って聞いていた。
念のため、藤越がまたここに来た時のために連絡先を交換した。でも、多分もうここにはこないだろう。
俺は関本さんにさよならをし、井口の学校を後にした。
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