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第8章 子育てと寄り道
寄り道(4)
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帰ったら藤越に聞いてみた。
「大西つぐみさんって知ってる?」
「つぐみちゃんがどうかしたの?」
「お前に会いたいって」
「やっぱり知り合いだったんだ」
藤越は俺とつぐみさんが会っていたのを知っていたようだった。
「やっぱばれてたか」
「日曜に見かけたでしょ?」
「俺気付かなかったんだって」
「つぐみちゃんが忠敏の方じっと見てたから何かあるのかなって」
ああ、そういうことか。俺とやったのがばれてたわけじゃないのか。でもそれも時間の問題な気がする。
「前に飲み会に来ててさ、気に入られたのかな。よくわかんないけど」
そういえば好きとか別に言われてなかったと思った。
「でやったの?」
「お前何でそういうとこ直球なんだよ」
もう答えたくなくなってきた。
「そんなのわかるに決まってるでしょ」
普通わからないと思ったけど、反論はしない。
「で、どうだったの?」
「どうだったもこうだったもねえ」
「何それ」
「いちいちそんなこと答えたくないし、俺は」
お前が好きだって言ってんだろという言葉を飲み込む。愛良ちゃんの気配がした。
「とにかく会ってやれよ」
「別にいいけど」
その話はそこで終わらせた。やっぱり調子が狂う。なんか藤越に当てつけのようなことをしている自分が嫌になる。
藤越は愛良ちゃんに内緒で仕事帰りにつぐみさんに会っていたようだった。ちょうど俺が先に帰ってて藤越が遅い日があったからその日だろう。
実際週末前の金曜につぐみさんから聞いたのだが。
「もう高橋さんとは会わない」
「へ?」
「私が馬鹿だったの。強引に誘ったりして」
「いや、俺の方が悪かったけど」
「それももういいから」
俺は急にそんなこと言い出したつぐみさんがおかしいと感じた。
「藤越と何かあった?」
「あったといえばあったけど、でも最初から私が無理に誘ったから」
「別にそんなことは」
ついていった俺も俺だしと思ったのだけど。
「ありがとう。こんな私に付き合ってくれて」
「そんなこと言われても」
「もういいから。本当に」
なんとなくつぐみさんが泣きそうに見えた。
「ごめん。俺」
「謝らないでよ」
「ありがとう」
「礼を言うのもなし。もう」
つぐみさんは顔をうつ向かせた。泣き顔を見られたくないのかもしれない。俺は少し目をそらす。
「あのさ、俺」
これって振ったんだろうかと思いながら、口にする。
「本当に馬鹿だから。あいつのことしか考えられない。つぐみさんの気持ちには答えられない」
「知ってるわよ」
「うん」
俺はこれ以上言う言葉がなくなってしまった。
そしたら急につぐみさんが変なことを言いだした。
「もしかして透馬さんと間接……」
なぜか途中で口ごもる。
間接も何も直接やったしなと思うが、もちろんそんなことは言わない。
「それどうでもよくないか」
「ごめん。変なこと考えちゃった」
そう言って顔を上げたつぐみさんは笑っていた。俺はこれで良かったんだよなと思った。
つぐみさんとは二度と会うことはなかった。
「大西つぐみさんって知ってる?」
「つぐみちゃんがどうかしたの?」
「お前に会いたいって」
「やっぱり知り合いだったんだ」
藤越は俺とつぐみさんが会っていたのを知っていたようだった。
「やっぱばれてたか」
「日曜に見かけたでしょ?」
「俺気付かなかったんだって」
「つぐみちゃんが忠敏の方じっと見てたから何かあるのかなって」
ああ、そういうことか。俺とやったのがばれてたわけじゃないのか。でもそれも時間の問題な気がする。
「前に飲み会に来ててさ、気に入られたのかな。よくわかんないけど」
そういえば好きとか別に言われてなかったと思った。
「でやったの?」
「お前何でそういうとこ直球なんだよ」
もう答えたくなくなってきた。
「そんなのわかるに決まってるでしょ」
普通わからないと思ったけど、反論はしない。
「で、どうだったの?」
「どうだったもこうだったもねえ」
「何それ」
「いちいちそんなこと答えたくないし、俺は」
お前が好きだって言ってんだろという言葉を飲み込む。愛良ちゃんの気配がした。
「とにかく会ってやれよ」
「別にいいけど」
その話はそこで終わらせた。やっぱり調子が狂う。なんか藤越に当てつけのようなことをしている自分が嫌になる。
藤越は愛良ちゃんに内緒で仕事帰りにつぐみさんに会っていたようだった。ちょうど俺が先に帰ってて藤越が遅い日があったからその日だろう。
実際週末前の金曜につぐみさんから聞いたのだが。
「もう高橋さんとは会わない」
「へ?」
「私が馬鹿だったの。強引に誘ったりして」
「いや、俺の方が悪かったけど」
「それももういいから」
俺は急にそんなこと言い出したつぐみさんがおかしいと感じた。
「藤越と何かあった?」
「あったといえばあったけど、でも最初から私が無理に誘ったから」
「別にそんなことは」
ついていった俺も俺だしと思ったのだけど。
「ありがとう。こんな私に付き合ってくれて」
「そんなこと言われても」
「もういいから。本当に」
なんとなくつぐみさんが泣きそうに見えた。
「ごめん。俺」
「謝らないでよ」
「ありがとう」
「礼を言うのもなし。もう」
つぐみさんは顔をうつ向かせた。泣き顔を見られたくないのかもしれない。俺は少し目をそらす。
「あのさ、俺」
これって振ったんだろうかと思いながら、口にする。
「本当に馬鹿だから。あいつのことしか考えられない。つぐみさんの気持ちには答えられない」
「知ってるわよ」
「うん」
俺はこれ以上言う言葉がなくなってしまった。
そしたら急につぐみさんが変なことを言いだした。
「もしかして透馬さんと間接……」
なぜか途中で口ごもる。
間接も何も直接やったしなと思うが、もちろんそんなことは言わない。
「それどうでもよくないか」
「ごめん。変なこと考えちゃった」
そう言って顔を上げたつぐみさんは笑っていた。俺はこれで良かったんだよなと思った。
つぐみさんとは二度と会うことはなかった。
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