38 / 58
第8章 子育てと寄り道
寄り道(2)
しおりを挟む
つぐみさんが連れて来たのは、おしゃれなイタリアンレストランだった。一人だったら絶対に入らないところ。藤越の子供が生まれる前にファミレスぐらいは何回か行ったが、普段からこんな店に入ることはない。
コース料理を注文した後、早速つぐみさんは、「好きな人ってどんな人?」と聞いてくる。めんどくさい。答えたくなかった。
「何でも一人で決めていってかっこいいんだけど、たまに見てられないぐらい寂しそうなときがあって」
って何を俺は正直に答えてるんだと思った。
「ふーん。要は片思いなんでしょ?」
「結婚してるんだ」
実際は二人は法律上結婚できないのだが、うまくごまかして養子制度などを使って家族として生活している。子供の出生届も片親にしかできないのが歯がゆいみたいだが、三親等以内の結婚は認められていないために仕方がないのだった。そんなことは絶対に口に出したりしないが。
「何それ。それでも諦められないの?」
諦められないとかじゃない。あいつが側にいてくれと言ったのだ。いや、違う。俺が側にいたいだけだ。
「最初から成就する気なんてなかったんだよ。でも、やめられない」
やめられるものならとっくにやめている。
「私が忘れさせてあげるんじゃ駄目?」
これは遠回しに告白されているんだろうか。俺は何かつぐみさんに好かれるようなことをしただろうか。
「何で俺?」
「最初はなんとなくかっこいいと思って。でも、そういう一途なとこいいなって」
別に一途なわけじゃない。他に誰もいなかっただけだ。つぐみさんは何もわかっていない。
「悪いけど、期待には応えられないよ」
「他の人思ってたっていいから」
どうしてそこまで食い下がるのだろう。正直めんどくさくなってきた。
「とりあえず、食べようぜ」
と言って運ばれてきた前菜に集中した。生ハムやカモ肉、野菜などが彩りよくきれいに並べられている。おしゃれな店はやっぱり違うと思った。
メイン料理を終え、デザートを待っている時につぐみさんから質問された。
「今まで付き合った人っている?」
俺は適当に数人と答えた。やっただけの女も含めたらそれぐらいだろう。続けてどんな人とも聞かれたが、ほとんど覚えていなかった。
「ほとんどすぐ別れたし、別に好きじゃなかったから覚えてない」
「何それ」
不信な目で見られたため、このまま嫌われてしまおうかと俺は余計なことまで口にした。
「やり目的だったし」
「最低」
藤越と同じことを言われてちょっとへこんだ。最低だと嫌われても良かったのだが、ついいいわけがましく言ってしまった。
「十代の男子なんてそんなもんだろ。わかってない女子だって悪いと思うけどな」
と言うと、「確かに」と同意された。
「付き合うってことがどういうことかわかってない子供だったのかもね」
「まあ、ラッキーと思って付き合った俺も俺だけどさ」
俺は頭をかいた。癖になってしまってる。
「私たちは大人の付き合いをしましょうよ」
とつぐみさんは言う。
「このあとホテル取ってあるの」
俺は嫌な予感がした。
「へ?」
「っていってもビジネスホテルだけど。ねえ、こう言えばわかるでしょ?」
わかりたくない。
「まじで無理だから」
「別にいいから。やるだけでも。その後好きになってもらう予定」
どうしてそんなに前向きでいられるんだろう。俺にはわからない。
「それでも好きになれなかったら?」
「きっぱり諦めるわ。お願い恥をかかせないで」
俺は別につぐみさんを放って帰ることもできた。でも、少し魔が差した。それは、数年前の藤越とのことがあったから。
ただ、あの時あいつとやった記憶を塗り替えたかった。新しい記憶に。
「わかった」
俺は誘いに乗ってしまったのだった。
コース料理を注文した後、早速つぐみさんは、「好きな人ってどんな人?」と聞いてくる。めんどくさい。答えたくなかった。
「何でも一人で決めていってかっこいいんだけど、たまに見てられないぐらい寂しそうなときがあって」
って何を俺は正直に答えてるんだと思った。
「ふーん。要は片思いなんでしょ?」
「結婚してるんだ」
実際は二人は法律上結婚できないのだが、うまくごまかして養子制度などを使って家族として生活している。子供の出生届も片親にしかできないのが歯がゆいみたいだが、三親等以内の結婚は認められていないために仕方がないのだった。そんなことは絶対に口に出したりしないが。
「何それ。それでも諦められないの?」
諦められないとかじゃない。あいつが側にいてくれと言ったのだ。いや、違う。俺が側にいたいだけだ。
「最初から成就する気なんてなかったんだよ。でも、やめられない」
やめられるものならとっくにやめている。
「私が忘れさせてあげるんじゃ駄目?」
これは遠回しに告白されているんだろうか。俺は何かつぐみさんに好かれるようなことをしただろうか。
「何で俺?」
「最初はなんとなくかっこいいと思って。でも、そういう一途なとこいいなって」
別に一途なわけじゃない。他に誰もいなかっただけだ。つぐみさんは何もわかっていない。
「悪いけど、期待には応えられないよ」
「他の人思ってたっていいから」
どうしてそこまで食い下がるのだろう。正直めんどくさくなってきた。
「とりあえず、食べようぜ」
と言って運ばれてきた前菜に集中した。生ハムやカモ肉、野菜などが彩りよくきれいに並べられている。おしゃれな店はやっぱり違うと思った。
メイン料理を終え、デザートを待っている時につぐみさんから質問された。
「今まで付き合った人っている?」
俺は適当に数人と答えた。やっただけの女も含めたらそれぐらいだろう。続けてどんな人とも聞かれたが、ほとんど覚えていなかった。
「ほとんどすぐ別れたし、別に好きじゃなかったから覚えてない」
「何それ」
不信な目で見られたため、このまま嫌われてしまおうかと俺は余計なことまで口にした。
「やり目的だったし」
「最低」
藤越と同じことを言われてちょっとへこんだ。最低だと嫌われても良かったのだが、ついいいわけがましく言ってしまった。
「十代の男子なんてそんなもんだろ。わかってない女子だって悪いと思うけどな」
と言うと、「確かに」と同意された。
「付き合うってことがどういうことかわかってない子供だったのかもね」
「まあ、ラッキーと思って付き合った俺も俺だけどさ」
俺は頭をかいた。癖になってしまってる。
「私たちは大人の付き合いをしましょうよ」
とつぐみさんは言う。
「このあとホテル取ってあるの」
俺は嫌な予感がした。
「へ?」
「っていってもビジネスホテルだけど。ねえ、こう言えばわかるでしょ?」
わかりたくない。
「まじで無理だから」
「別にいいから。やるだけでも。その後好きになってもらう予定」
どうしてそんなに前向きでいられるんだろう。俺にはわからない。
「それでも好きになれなかったら?」
「きっぱり諦めるわ。お願い恥をかかせないで」
俺は別につぐみさんを放って帰ることもできた。でも、少し魔が差した。それは、数年前の藤越とのことがあったから。
ただ、あの時あいつとやった記憶を塗り替えたかった。新しい記憶に。
「わかった」
俺は誘いに乗ってしまったのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

運命の人
悠花
BL
今この瞬間、どれだけの人が恋人に恋をしているのだろう―。タイプの異なる二組のカップルが出会ったとき、抑えていた想いが動き出す。
鬼塚優人という完璧な恋人のいる椿咲久は、優人に連れて行かれたパーティーでその男に出会った。第一印象は、嫌いなタイプだと思った。それなのに、会うたび恋人がいる男に惹かれていき――。
その一方で、同棲している恋人との関係に退屈を感じている小鳥遊純は、咲久の恋人である優人との時間を楽しむようになっていて――。
タブーを侵すのは誰なのか。四角関係の行方は。
二組のカップルが織りなす恋模様です。タブー要素がありますのでご注意ください。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

【短編BL】退路は既に断たれていたらしい【完結】
riy
BL
腹ペコで行き倒れていた男を拾った黒川悠希は、近くの肉屋で買ったコロッケとメンチカツをその場で奢る。
その男が悠希の通う高校に転入してきてしまった。
ゼロ距離で悠希の生活に入り込み、悠希も距離感もをバグらせてしまうが!?
高校生男子同士のピュアッピュアな全年齢ラブストーリー。
悠希の前でだけ溺愛系従順わんこ(他人から見れば番犬&狂犬)×然からの執着に微塵も気が付いていない内面男前受け(顔は可愛い)

【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる