33 / 58
第7章 リスタート
内省
しおりを挟む
自然に寄り添う二人を見て、俺は当てられてる気がした。あいつが幸せならそれでいいと思っていたのに、欲が出てきたのは俺の方だ。
どこに泊まっているのかと聞くと、ホテルはチェックアウトしたという。まさかうちに泊まる気なんじゃと思って聞いてみると、「できればそうしたい所なんだけどね」と答える藤越に呆れた。
とりあえず家に泊まるかどうかはともかくとして、車で俺の家まで案内することにした。
俺が免許持ってたのに驚かれたが、藤越は持っていないらしい。
俺はアクセルを踏み込んだ。こいつが来ると強引で調子が狂う。まだ半年しか経ってないのに懐かしい感じがした。
道もすいてたので一時間ほどで借りてるマンションについた。
「兄貴、迷惑じゃないの? またどっかホテル探せば?」
うちの前まできて愛良ちゃんが言い出した。
「せっかくきたんだから寄ってけば。片付いてないけど」
と言ってもほとんどものはない。着る物と食べるものぐらいだ。
「全然きれいじゃん」
「そりゃ買い足すものもないし」
ウィークリーマンションのいい所は、家具や電化製品があらかじめついていることだった。ちょっと値は張るけど、敷金礼金がない所がいい。どうせ半年ぐらいで出ようと思ってたからちょうどいい。
「お邪魔します」
愛良ちゃんはそう言って藤越の分も靴を揃えた。藤越はさっさと上がってるっていうのに兄弟でもこの違いはなんだろう。
「お前もちょっとは愛良ちゃんを見習えよ」
「何で?」
「自分の家かのように入るなよ」
「それ誰かにも言われたな。良和かな」
どこの家でも同じようなことしてんのかと思って呆れた。
「キッチン使ってないね。どうせカップ麺とかで済ましてるんでしょ」
「お前に言われたくねえよ」
一人暮らししてわかったのは母親のありがたみかもしれない。
「俺だって最近はお湯沸かしたり、ご飯炊いたり、洗い物ぐらいやってるよ」
つまり最近になるまでそれすらやってなかったってことか。まあ俺も人のこと言えないけど。
「兄貴、それ自慢できるほどのことじゃないよ」
「いつになったら呼び方変わるのかね」
「仕方ないでしょ。長年呼んでたんだから。そんなすぐ直んないの。高橋さんだってそうですよね」
「え?」
いきなり俺に話を振られても困る。
「そうそう。名字変わったのにずっと呼び続けるしね」
何でお前が答えるんだと思った。
「でも私も宮部に慣れるのに時間かかったよ」
藤越の両親が離婚して、母親の姓になったため、宮部というのが二人の新しい姓だったが、俺は一度も呼んだことがない。
夕飯がないので、食べに行くことにしたら、二人はのろけだした。正直のろけなら外でやってろと思った。俺はさっき疑問に思ったことを聞いてみた。
「愛良ちゃんの結婚は?」
「だから」
藤越が答えようとしたのを制して愛良ちゃんが言った。
「結婚はやめたんです。お母さんは許してくれたけど、相手の人に迷惑をかけてしまったし、ほとぼりが覚めるまで家を離れることにしたんです」
ここにいる時点でだいたいのことはわかったけど、そういうことかと思った。
「じゃあこれからどうすんだ?」
「さあ。またどっか家探さないとね。やっぱりまた二世帯かな」
「二世帯?」
愛良ちゃんが聞き返す。
「忠敏も一緒に暮らすんでしょ?」
「それ本気だったのかよ」
「言ったことを曲げる気なの?」
俺はてっきり今まで通りたまに会う程度でいいと思ったのだが、それを言うと
「だって忠敏いなくなったじゃん」と言われてぐうの音も出なかった。
「だからそれは」
上手く説明できない。本当はただ、これ以上気持ちが膨らむのが怖かった。
「勝手にいなくなって、残された者の気持ち考えたことある?」
俺は何も言えなくなった。
「兄貴それ人のこと言えないよ」
「俺は結局最後まで実家に帰らなかったよ。そのぐらいの覚悟で出てきたの?」
藤越の言う通りだと思った。俺は結局ここに逃げて来ただけ。覚悟も何もあったもんじゃない。
「兄貴」
愛良ちゃんが口を挟もうとしたのを、藤越が止めた。
「俺が原因だと思って黙ってたけど、お母さんは本当に心配してたよ」
「わかってるよ。ちゃんと帰るって。ちょっとここで待てよ」
俺は部屋の外で母親に電話をかけた。ずっと電源を切っていた携帯だった。
母ちゃんには第一声で馬鹿やろうと怒られたけど、俺はひたすら謝った。家を出た理由も、あいつのことも後で全部話すと言って電話を切った。
部屋に戻って藤越に言った。
「今から東京行きの便取れるかな」
「帰るの?」
「ああ。母ちゃんには電話した。それからのことは帰ってから考えるんでいいか?」
「うん。でも、せっかくだからもう一日観光でもして帰れば?」
「そう言うと思った」
俺は笑った。明日の朝一で帰ろう。
俺も佐多岬以外行ってないので、二人を案内がてら観光名所を回った。
結局二人は家に泊まっていった。二人にベッドを提供して俺はソファで寝た。
どこに泊まっているのかと聞くと、ホテルはチェックアウトしたという。まさかうちに泊まる気なんじゃと思って聞いてみると、「できればそうしたい所なんだけどね」と答える藤越に呆れた。
とりあえず家に泊まるかどうかはともかくとして、車で俺の家まで案内することにした。
俺が免許持ってたのに驚かれたが、藤越は持っていないらしい。
俺はアクセルを踏み込んだ。こいつが来ると強引で調子が狂う。まだ半年しか経ってないのに懐かしい感じがした。
道もすいてたので一時間ほどで借りてるマンションについた。
「兄貴、迷惑じゃないの? またどっかホテル探せば?」
うちの前まできて愛良ちゃんが言い出した。
「せっかくきたんだから寄ってけば。片付いてないけど」
と言ってもほとんどものはない。着る物と食べるものぐらいだ。
「全然きれいじゃん」
「そりゃ買い足すものもないし」
ウィークリーマンションのいい所は、家具や電化製品があらかじめついていることだった。ちょっと値は張るけど、敷金礼金がない所がいい。どうせ半年ぐらいで出ようと思ってたからちょうどいい。
「お邪魔します」
愛良ちゃんはそう言って藤越の分も靴を揃えた。藤越はさっさと上がってるっていうのに兄弟でもこの違いはなんだろう。
「お前もちょっとは愛良ちゃんを見習えよ」
「何で?」
「自分の家かのように入るなよ」
「それ誰かにも言われたな。良和かな」
どこの家でも同じようなことしてんのかと思って呆れた。
「キッチン使ってないね。どうせカップ麺とかで済ましてるんでしょ」
「お前に言われたくねえよ」
一人暮らししてわかったのは母親のありがたみかもしれない。
「俺だって最近はお湯沸かしたり、ご飯炊いたり、洗い物ぐらいやってるよ」
つまり最近になるまでそれすらやってなかったってことか。まあ俺も人のこと言えないけど。
「兄貴、それ自慢できるほどのことじゃないよ」
「いつになったら呼び方変わるのかね」
「仕方ないでしょ。長年呼んでたんだから。そんなすぐ直んないの。高橋さんだってそうですよね」
「え?」
いきなり俺に話を振られても困る。
「そうそう。名字変わったのにずっと呼び続けるしね」
何でお前が答えるんだと思った。
「でも私も宮部に慣れるのに時間かかったよ」
藤越の両親が離婚して、母親の姓になったため、宮部というのが二人の新しい姓だったが、俺は一度も呼んだことがない。
夕飯がないので、食べに行くことにしたら、二人はのろけだした。正直のろけなら外でやってろと思った。俺はさっき疑問に思ったことを聞いてみた。
「愛良ちゃんの結婚は?」
「だから」
藤越が答えようとしたのを制して愛良ちゃんが言った。
「結婚はやめたんです。お母さんは許してくれたけど、相手の人に迷惑をかけてしまったし、ほとぼりが覚めるまで家を離れることにしたんです」
ここにいる時点でだいたいのことはわかったけど、そういうことかと思った。
「じゃあこれからどうすんだ?」
「さあ。またどっか家探さないとね。やっぱりまた二世帯かな」
「二世帯?」
愛良ちゃんが聞き返す。
「忠敏も一緒に暮らすんでしょ?」
「それ本気だったのかよ」
「言ったことを曲げる気なの?」
俺はてっきり今まで通りたまに会う程度でいいと思ったのだが、それを言うと
「だって忠敏いなくなったじゃん」と言われてぐうの音も出なかった。
「だからそれは」
上手く説明できない。本当はただ、これ以上気持ちが膨らむのが怖かった。
「勝手にいなくなって、残された者の気持ち考えたことある?」
俺は何も言えなくなった。
「兄貴それ人のこと言えないよ」
「俺は結局最後まで実家に帰らなかったよ。そのぐらいの覚悟で出てきたの?」
藤越の言う通りだと思った。俺は結局ここに逃げて来ただけ。覚悟も何もあったもんじゃない。
「兄貴」
愛良ちゃんが口を挟もうとしたのを、藤越が止めた。
「俺が原因だと思って黙ってたけど、お母さんは本当に心配してたよ」
「わかってるよ。ちゃんと帰るって。ちょっとここで待てよ」
俺は部屋の外で母親に電話をかけた。ずっと電源を切っていた携帯だった。
母ちゃんには第一声で馬鹿やろうと怒られたけど、俺はひたすら謝った。家を出た理由も、あいつのことも後で全部話すと言って電話を切った。
部屋に戻って藤越に言った。
「今から東京行きの便取れるかな」
「帰るの?」
「ああ。母ちゃんには電話した。それからのことは帰ってから考えるんでいいか?」
「うん。でも、せっかくだからもう一日観光でもして帰れば?」
「そう言うと思った」
俺は笑った。明日の朝一で帰ろう。
俺も佐多岬以外行ってないので、二人を案内がてら観光名所を回った。
結局二人は家に泊まっていった。二人にベッドを提供して俺はソファで寝た。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

【短編BL】退路は既に断たれていたらしい【完結】
riy
BL
腹ペコで行き倒れていた男を拾った黒川悠希は、近くの肉屋で買ったコロッケとメンチカツをその場で奢る。
その男が悠希の通う高校に転入してきてしまった。
ゼロ距離で悠希の生活に入り込み、悠希も距離感もをバグらせてしまうが!?
高校生男子同士のピュアッピュアな全年齢ラブストーリー。
悠希の前でだけ溺愛系従順わんこ(他人から見れば番犬&狂犬)×然からの執着に微塵も気が付いていない内面男前受け(顔は可愛い)

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる