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第5章 告白
告白(2)
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ビジネスホテルの部屋に入り、同じベッドに互いに腰かけた。俺はそんなことしないけど、そんなに無防備で襲われたらどうするんだと思った。
「それでどうかしたの?」
すぐに本題に入るのもやめてほしい。
俺は仕方なく別のことを聞いた。
「この髪の毛、愛良ちゃんを好きだって気付いて染めたんだろ?」
そう言いながら藤越の髪の毛を触ると、さらさらしていて気持ちよかった。普段だったら絶対にこんなことはしない。ちょっと自分は大胆になっているかもしれない。
「よくわかったね」
やっぱりと思った。
「髪染めたのは、ぼたんさんが黒い髪の方が好きって言ったからだよ」
俺の予想通りだったから、特に驚きもしなかった。相手の好みの逆にするなんて藤越らしい気もする。
「まあそっちの方がいいよ」
「何それ」
つい口にしてしまって、慌てて口を押える。ずっとそう思っていたからかもしれない。俺はごまかすように話題を戻した。
「お前は愛良ちゃんに言う気ないのか?」
「言わないよ。でもそれが何か関係ある?」
「ないけど」
俺は気まずい空気に耐えられず、ついため息をつくと、「あまりため息ばっかりついてると幸せが逃げるよ」とか言う。
「そんなものもう残ってないよ」
と答えながら、もう一度聞いた。
「お前は愛良ちゃんが誰かと付き合ったり、結婚したりしたら耐えられるのか?」
「そんなこと何で答えなきゃいけないの」と、少し怒ったように言われた。
俺は言葉につまった。ここからどう立て直せばいいのかわからなくなる。
「ねえ、さっきから何が言いたいの?」
まじまじと見つめられて、俺は仕方なく目をそらす。
いつまでも意気地がない自分に呆れる。
「お前もう気付いてるんだろ?」
「何が?」
「何がって」
これ以上口にできないのは、俺の勇気が足りないからなのか。
「そんな話しかしないんなら、帰るよ」
藤越が立ち上がろうとしたので、俺は慌てて腕を引っ張った。
「待てよ」
ああもう。自分は何をやってるんだ。藤越を無理やり座らせ、俺は口にした。
「だから俺はお前が」
「最後まで言わなきゃわかんないよ」
この期に及んでそういうことを言う。この言葉を口にするのにどれだけの覚悟がいるのか、こいつにわかるはずもない。
この言葉を口にしたら自分の中の何かが壊れそうで怖かった。
「好きだよ」
そう言った直後、まともに藤越の顔が見れなかった。
その後に藤越が、「ごめんね。無理に言わせたりして」と言った言葉に、俺はカチンときた。
「無理なんかじゃねえよ」
心外だった。そんなこと言われたくない。藤越の正面に向き直って言った。
「こんなんでよかったらいくらでも言ってやる」
「もういいよ。わかったから」
それでも俺は続けた。
「好きだよ。好き。好きだ」
自分はちょっと壊れかけていたのかもしれない。
藤越はため息をついて、俺に聞いてきた。
「それで、どうしたいの?」
「は?」
「俺とこういうことしたいってこと?」
藤越の唇が俺の唇に当たる。いきなりすぎてよけきれなかった。
「やめろよ」
俺は藤越の体を手で押し、後ずさった。一体何する気なんだ。
「嫌なの?」
「嫌とか嫌じゃないとかじゃなくて」
自分でも何言ってるかわからない。
「本当に好きだったら、キスしたい。やりたいって思うのは普通でしょ」
「知るかよ」
「高橋っちさ」
「だからっちってつけるなって」
そう言ったら名前で呼ばれてしまった。
「忠敏はさ、童貞じゃないんでしょ」
「だったらなんだよ」
「それにしては言ってることややってることが小学生みたいなんだもん」
ほっとけと思った。
「キスぐらいでうろたえすぎじゃない?」
「うるせえな」
藤越はこれだから嫌だ。どうせ軽い気持ちでしたに決まってる。俺が動揺する顔を見て楽しんでいるように見える。
「だから俺はそういうことしたいわけじゃないんだって」
「じゃあ何で言ったの?」
「振られに来たんだって」
「それっておかしくない」
「だってお前は愛良ちゃんが好きなんだろ」
「それとこれとは別でしょ」
「別じゃねえよ」
何が違うのか俺には全くわからない。藤越は、仮に別に好きな人がいても付き合うことだってあるとかなんとか言う。確かにそういうこともあるかもしれないけど、俺はそんなことつゆほども考えていない。
その時ふと思った。愛良ちゃんを想い続ける藤越の代わりに見本になろうという考えは、ただのきれいごとだったんじゃないか。
俺は最初から、こいつとどうにかなろうなんて全く考えていなかった。ただ言って楽になりたかっただけだと気付いた。
俺はもう正直に藤越に言った。
「本当は、言って楽になりたかったんだ。どうせ俺は最低だよ」と。
それなのに藤越はそんなことないと言うのだった。
「それでどうかしたの?」
すぐに本題に入るのもやめてほしい。
俺は仕方なく別のことを聞いた。
「この髪の毛、愛良ちゃんを好きだって気付いて染めたんだろ?」
そう言いながら藤越の髪の毛を触ると、さらさらしていて気持ちよかった。普段だったら絶対にこんなことはしない。ちょっと自分は大胆になっているかもしれない。
「よくわかったね」
やっぱりと思った。
「髪染めたのは、ぼたんさんが黒い髪の方が好きって言ったからだよ」
俺の予想通りだったから、特に驚きもしなかった。相手の好みの逆にするなんて藤越らしい気もする。
「まあそっちの方がいいよ」
「何それ」
つい口にしてしまって、慌てて口を押える。ずっとそう思っていたからかもしれない。俺はごまかすように話題を戻した。
「お前は愛良ちゃんに言う気ないのか?」
「言わないよ。でもそれが何か関係ある?」
「ないけど」
俺は気まずい空気に耐えられず、ついため息をつくと、「あまりため息ばっかりついてると幸せが逃げるよ」とか言う。
「そんなものもう残ってないよ」
と答えながら、もう一度聞いた。
「お前は愛良ちゃんが誰かと付き合ったり、結婚したりしたら耐えられるのか?」
「そんなこと何で答えなきゃいけないの」と、少し怒ったように言われた。
俺は言葉につまった。ここからどう立て直せばいいのかわからなくなる。
「ねえ、さっきから何が言いたいの?」
まじまじと見つめられて、俺は仕方なく目をそらす。
いつまでも意気地がない自分に呆れる。
「お前もう気付いてるんだろ?」
「何が?」
「何がって」
これ以上口にできないのは、俺の勇気が足りないからなのか。
「そんな話しかしないんなら、帰るよ」
藤越が立ち上がろうとしたので、俺は慌てて腕を引っ張った。
「待てよ」
ああもう。自分は何をやってるんだ。藤越を無理やり座らせ、俺は口にした。
「だから俺はお前が」
「最後まで言わなきゃわかんないよ」
この期に及んでそういうことを言う。この言葉を口にするのにどれだけの覚悟がいるのか、こいつにわかるはずもない。
この言葉を口にしたら自分の中の何かが壊れそうで怖かった。
「好きだよ」
そう言った直後、まともに藤越の顔が見れなかった。
その後に藤越が、「ごめんね。無理に言わせたりして」と言った言葉に、俺はカチンときた。
「無理なんかじゃねえよ」
心外だった。そんなこと言われたくない。藤越の正面に向き直って言った。
「こんなんでよかったらいくらでも言ってやる」
「もういいよ。わかったから」
それでも俺は続けた。
「好きだよ。好き。好きだ」
自分はちょっと壊れかけていたのかもしれない。
藤越はため息をついて、俺に聞いてきた。
「それで、どうしたいの?」
「は?」
「俺とこういうことしたいってこと?」
藤越の唇が俺の唇に当たる。いきなりすぎてよけきれなかった。
「やめろよ」
俺は藤越の体を手で押し、後ずさった。一体何する気なんだ。
「嫌なの?」
「嫌とか嫌じゃないとかじゃなくて」
自分でも何言ってるかわからない。
「本当に好きだったら、キスしたい。やりたいって思うのは普通でしょ」
「知るかよ」
「高橋っちさ」
「だからっちってつけるなって」
そう言ったら名前で呼ばれてしまった。
「忠敏はさ、童貞じゃないんでしょ」
「だったらなんだよ」
「それにしては言ってることややってることが小学生みたいなんだもん」
ほっとけと思った。
「キスぐらいでうろたえすぎじゃない?」
「うるせえな」
藤越はこれだから嫌だ。どうせ軽い気持ちでしたに決まってる。俺が動揺する顔を見て楽しんでいるように見える。
「だから俺はそういうことしたいわけじゃないんだって」
「じゃあ何で言ったの?」
「振られに来たんだって」
「それっておかしくない」
「だってお前は愛良ちゃんが好きなんだろ」
「それとこれとは別でしょ」
「別じゃねえよ」
何が違うのか俺には全くわからない。藤越は、仮に別に好きな人がいても付き合うことだってあるとかなんとか言う。確かにそういうこともあるかもしれないけど、俺はそんなことつゆほども考えていない。
その時ふと思った。愛良ちゃんを想い続ける藤越の代わりに見本になろうという考えは、ただのきれいごとだったんじゃないか。
俺は最初から、こいつとどうにかなろうなんて全く考えていなかった。ただ言って楽になりたかっただけだと気付いた。
俺はもう正直に藤越に言った。
「本当は、言って楽になりたかったんだ。どうせ俺は最低だよ」と。
それなのに藤越はそんなことないと言うのだった。
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