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第3章 会っても会わなくても
中島(2)
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家まで結構歩くのは、普段は自転車だからだという。中島は渋谷で仕事をしているようだ。俺の会社は表参道で、今日は渋谷で飲んでいた。
「あんまきれいじゃないけど」
と通された部屋は、片付けられていて、俺の部屋よりきれいだった。
適当に座るように言われたので、くつろいでいたら、中島の携帯が鳴って、誰かと話し出した。藤越ではないようだ。
電話が終わったら、「片岡。友達」と一言で説明された。
「藤越となんか話してた?」
「ああ。そう」
さっきの飲み会で俺の知らない奴の話をしていた。その名前が片岡だった。
「あいついちいち心配性なんだよ」
と言う。片岡という奴は元々高校の同級生で、中島がやばかった時に藤越を頼ったらしい。藤越とはそこからの縁だとか。片岡はそれから中島を心配して毎日連絡してきたり、顔を出したりするとか。
「忙しいのによくやるよな」と言うが、俺は何も言えることがなかった。
俺が大学を出てない理由を聞かれた。中島自身もそうなので、人のこと言えないけどと言う。
高校を中退して資格を取るために工業高校に編入した話をすると、どこの高校か聞かれた。
「閉失」
「同じかよ」
中島の話では、閉失を高校三年の時に中退したらしい。
「でも、お前の方が頭いいよ。俺もさっさとやめておけばよかった」
と、中島は言う。高校一年でやめていれば、変なことに関わることも、片岡や藤越に迷惑をかけることもなかったと言うが、俺にはよくわからない。
「中三の時の塾の講師に乗せられてまぐれで受かっただけだから、もともと実力不足だったんだって。俺だって最初から別のとこ行けば良かったんだよ」
と言っといた。
中島はそれでも、普通の高校出て大学行くこともできたんじゃないかと言ってきたため、俺はさっさと働きたかったことを告げる。その理由は明白だったけれど、こいつに言ったらまたからかわれるんじゃないかと思う。
「透馬さんだって中卒だけど」
「知ってる。中学も一緒だったし」
「へえ」
中島は急ににやにやしだしたので嫌な予感がした。
「しかしな。あの人のどこにそんな要素が」
「その話しつこい」
もうこれ以上聞いてくるなと思った。
「まあ顔はちょっと童顔っていうか、かわいい感じがするけど」
「そんなことはどうでもいい」
外見なんかであいつのことがどうかなんて考えたことない。やめてほしい。
「何だよ。きれんなよ」
別にきれてなんかいない。
「俺が言ってるのはさ、透馬さんって有無を言わさない時あるじゃん」
「それはお前がわざと怒らしてるんじゃないのか」
さっきの飲み会でも藤越に変なこと言って突っ込んでた気がする。まあ、あいつは怒ってなんかいなかったけど。
「まあそれもあるけど、そうじゃなくてさ。なんか本気で相手を殺しそうな怖い時」
そんなようなことを他の奴からも聞いたことがあった。でも、俺は藤越を怖いと思ったことはない。ぼたんさんに振られて俺がぼこぼこにされた時も、あいつはどこか本意じゃないように見えた。かなり手加減されてたと思う。それになんとなくあいつはふと寂しそうな表情をするのだ。
もしかしたらあいつ自身は無自覚なのかもしれない。浅木が死んだ時のような、目が死んだように無表情になる時がある。
「あいつは絶対そんなことはしない。いや、できない」
「へ?」
「お前にはわかんねえよ」
「何だよそれ」
だから答えたくなかったのだ。どうせ言っても誰にもわからない。どうしてあいつのことがこんなに気になるのか。なんとなく俺は気付き始めていた。
「なんかやっぱおかしいし」
「うるせえよ」
わかってるんだよ。こいつに言われなくたってそんなことは。
「お前がホモだとかそんなことを言ってるんじゃなくて」
ホモとかなんとか言われるのは嫌だが、もうそれも仕方ない気がしていた。
「思いつめすぎじゃねえか」
「そうかな」
俺は頭をかく。
「重いっていうか」
重いと言われて、俺は藤越がぼたんさんに言われていたのを思い出す。そんなはずはなない。あいつみたいに人を好きになれるなら、こんなに悩む必要はなかった。
ふと、あいつのセリフを思い出す。
「ぼたんさんに言わせると男は成長が遅いんだって。だから高橋だってこれからあるんじゃない?」
そんなものやっぱりわからねえよと思う。
「もういいだろ。この話はやめようぜ」
「わかったよ」
それ以上中島は触れなかったし、後はくだらない話をしながら過ごした。
朝帰りをしたら母ちゃんに「彼女でもできたんじゃないかい」と言われたけど。
「飲み会だよ。飲み会」
と俺はごまかした。もちろん嘘は言ってないが、今度から終電を逃さずに帰ろうと思った。
そのことがあって、中島が頻繁にメールを送ってくるようになる。
たいがいはくだらない内容なので、たまにしか返さなかったが、飲み会に何度も誘ってくるので、困った。
正直藤越にはあまり会いたくなかった。
「あんまきれいじゃないけど」
と通された部屋は、片付けられていて、俺の部屋よりきれいだった。
適当に座るように言われたので、くつろいでいたら、中島の携帯が鳴って、誰かと話し出した。藤越ではないようだ。
電話が終わったら、「片岡。友達」と一言で説明された。
「藤越となんか話してた?」
「ああ。そう」
さっきの飲み会で俺の知らない奴の話をしていた。その名前が片岡だった。
「あいついちいち心配性なんだよ」
と言う。片岡という奴は元々高校の同級生で、中島がやばかった時に藤越を頼ったらしい。藤越とはそこからの縁だとか。片岡はそれから中島を心配して毎日連絡してきたり、顔を出したりするとか。
「忙しいのによくやるよな」と言うが、俺は何も言えることがなかった。
俺が大学を出てない理由を聞かれた。中島自身もそうなので、人のこと言えないけどと言う。
高校を中退して資格を取るために工業高校に編入した話をすると、どこの高校か聞かれた。
「閉失」
「同じかよ」
中島の話では、閉失を高校三年の時に中退したらしい。
「でも、お前の方が頭いいよ。俺もさっさとやめておけばよかった」
と、中島は言う。高校一年でやめていれば、変なことに関わることも、片岡や藤越に迷惑をかけることもなかったと言うが、俺にはよくわからない。
「中三の時の塾の講師に乗せられてまぐれで受かっただけだから、もともと実力不足だったんだって。俺だって最初から別のとこ行けば良かったんだよ」
と言っといた。
中島はそれでも、普通の高校出て大学行くこともできたんじゃないかと言ってきたため、俺はさっさと働きたかったことを告げる。その理由は明白だったけれど、こいつに言ったらまたからかわれるんじゃないかと思う。
「透馬さんだって中卒だけど」
「知ってる。中学も一緒だったし」
「へえ」
中島は急ににやにやしだしたので嫌な予感がした。
「しかしな。あの人のどこにそんな要素が」
「その話しつこい」
もうこれ以上聞いてくるなと思った。
「まあ顔はちょっと童顔っていうか、かわいい感じがするけど」
「そんなことはどうでもいい」
外見なんかであいつのことがどうかなんて考えたことない。やめてほしい。
「何だよ。きれんなよ」
別にきれてなんかいない。
「俺が言ってるのはさ、透馬さんって有無を言わさない時あるじゃん」
「それはお前がわざと怒らしてるんじゃないのか」
さっきの飲み会でも藤越に変なこと言って突っ込んでた気がする。まあ、あいつは怒ってなんかいなかったけど。
「まあそれもあるけど、そうじゃなくてさ。なんか本気で相手を殺しそうな怖い時」
そんなようなことを他の奴からも聞いたことがあった。でも、俺は藤越を怖いと思ったことはない。ぼたんさんに振られて俺がぼこぼこにされた時も、あいつはどこか本意じゃないように見えた。かなり手加減されてたと思う。それになんとなくあいつはふと寂しそうな表情をするのだ。
もしかしたらあいつ自身は無自覚なのかもしれない。浅木が死んだ時のような、目が死んだように無表情になる時がある。
「あいつは絶対そんなことはしない。いや、できない」
「へ?」
「お前にはわかんねえよ」
「何だよそれ」
だから答えたくなかったのだ。どうせ言っても誰にもわからない。どうしてあいつのことがこんなに気になるのか。なんとなく俺は気付き始めていた。
「なんかやっぱおかしいし」
「うるせえよ」
わかってるんだよ。こいつに言われなくたってそんなことは。
「お前がホモだとかそんなことを言ってるんじゃなくて」
ホモとかなんとか言われるのは嫌だが、もうそれも仕方ない気がしていた。
「思いつめすぎじゃねえか」
「そうかな」
俺は頭をかく。
「重いっていうか」
重いと言われて、俺は藤越がぼたんさんに言われていたのを思い出す。そんなはずはなない。あいつみたいに人を好きになれるなら、こんなに悩む必要はなかった。
ふと、あいつのセリフを思い出す。
「ぼたんさんに言わせると男は成長が遅いんだって。だから高橋だってこれからあるんじゃない?」
そんなものやっぱりわからねえよと思う。
「もういいだろ。この話はやめようぜ」
「わかったよ」
それ以上中島は触れなかったし、後はくだらない話をしながら過ごした。
朝帰りをしたら母ちゃんに「彼女でもできたんじゃないかい」と言われたけど。
「飲み会だよ。飲み会」
と俺はごまかした。もちろん嘘は言ってないが、今度から終電を逃さずに帰ろうと思った。
そのことがあって、中島が頻繁にメールを送ってくるようになる。
たいがいはくだらない内容なので、たまにしか返さなかったが、飲み会に何度も誘ってくるので、困った。
正直藤越にはあまり会いたくなかった。
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