俺の人生を捧ぐ人

宮部ネコ

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第3章 会っても会わなくても

飲み会

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 工業高校を卒業し、IT関係の会社にプログラマーとして就職した。

 会社の飲み会で入った居酒屋でたまたま藤越の仲間と一緒になった。解散したとかいいながらまだ馬鹿みたいに集まってる奴らは一体何なんだろう。結局ただ集まって飲んでだべりたいだけなのか。
 俺は気付かれたくなかったので、端の方でこっそり座っていた。個室じゃないので、周りの席からは丸見えで、あまり意味はなかったかもしれない。
「あれ、高橋っちじゃん」
 だいたい何で最初に気付くのがあいつなんだ。
 藤越がそう言うと、他の奴らがこっちに覗きに来た。いちいち会社の人間に説明しなきゃいけないのが面倒だった。気にせず飲んでればいいのにと思う。
「友達?」と聞かれたので、「そんなようなものです」と適当に答えた。藤越はともかく、他の奴らなんかほとんど知らないけど。

 会社の飲み会が終わってもまだあいつらはいたので、仕方ないから混ざることにした。このまま帰ったら色々言われそうだから。
「あ、えーとここあいてる?」
 と座ろうとしたら、「野上さんの」と言われて見回すと、がたいのいい男がトイレから戻ってきてどけと言われた。一体何なんだと思ったが、おとなしくどく。
 あまり知っている奴がいなくて居心地が悪かった。やっぱり気にせず帰れば良かったと思う。
「お前見たことないけど、いついたんだ?」
 と聞かれて俺は困った。ちょくちょく顔を出してはいたけれど、藤越の様子を見ていただけで、他の奴らとはほとんど交流していなかった。全く興味なかったから仕方ない。
「えーと、今はいないみたいだけど多村が」
 と言うと、「多村?」と聞き返される。多村のことは知っている奴がいるようだ。
「多村っちに誘われたの?」
 と藤越に聞かれる。
「知らなかったのかよ」
 とつい口にすると、
「透馬さんへの口の利き方に気をつけろよ」
 と言ってくる奴がいた。
 どうしてそんなこと言われなきゃいけないのか。めんどくさいと正直思った。
「俺は別に構わないけど」
 と何故か藤越が言う。
「でも、透馬さん」
「俺一度も敬語でしゃべれなんて言ったことないんだけどね」
 といつものように肩をすくめる。しばらくぶりのあいつは元気そうで安心したが、周りの奴らが心底うっとうしかった。何をそんなに藤越をあがめたり奉ったりしているのか。意味が分からない。いや、元々思ってた。何でボスとかリーダーとかやっているのか。
 あんまり藤越がそういうのが好きそうには見えないのだが、そうでもないんだろうか。
「えーじゃあ俺もため口利いていいっすか?」
 と誰かが言うと、「中島っちはだめ」と藤越が突っ込む。本気で言ってるわけじゃなくて、からかっているようだった。そいつが中島だという名前なのはわかった。
 みんなは笑い出す。俺のことはうやむやになる。もしかして庇われたんだろうか。それはそれで気に入らなかった。別に藤越が庇ってくれなくたって構わない。
「で、これ何のために集まってるんだ?」
 と聞いてみた。
「さあ。なんとなく」
 と藤越が答えると、みんなが非難するように、「透馬さん!」と呼ぶ。
「別にみんな飲みたくて適当に集まってるだけでしょ」
「そうですけど」
「まあいいじゃんか」
 と言ったのはさっきの中島という奴だった。
「中島っちは俺をあがめてたたえないと駄目」
 また藤越がふざけた調子で言う。俺が見たことない顔だった。慕われたりあがめられたりするのはそれなりの理由があるのか。中島という奴は、頭が上がらないみたいに言う。
「勘弁してくださいよ」
「今日片岡っちは?」
「大学が忙しいみたいで」
「ふーん」
 俺の知らない話をし出した。なんとなく疎外感を感じる。やっぱり自分は場違いな気がした。
 ほとんど酒に口をつけてないのを見て、「飲まないのか?」と誰かに聞かれた。
「え、あ。あんまり強くないから」
 ぼたんさんの店で飲んだ失敗はしたくなかった。それにまだ一応未成年だし。
「俺も高橋っちもまだ飲んじゃいけない年齢だけどね」
 と藤越が口を挟む。
「え、透馬さんと同じ年?」
 ここにいる奴らはほぼ年上のようだった。何だよ年下かよと見下されたので、多分そうなのだろう。
「同級生だから」
 確かにそうなのだが、そもそも学生時代にほとんど話した覚えはない。小学校の時はいじめていたわけだし。こいつらにそれがばれたらやばそうだなと思った。
「同級生?」
「別に仲良くなかったけど」
 と口を挟むと、藤越は
「何でわざわざそういうこと言うのかね」
 と言って肩をすくめる。
 わざとだった。気に入らなかった。今だって友達でも何でもない。ここにいる意味なんて本来はない。俺はこいつらの仲間なんかじゃない。
「仲良くないのに何で参加するんだよ」
 と誰かにすごまれた。もうどうでもよくなっていた。このまま完璧に嫌われてしまおうかと思う。そしたら二度とこんな飲み会には誘われないだろう。
「俺が声かけたからじゃない」
 藤越に庇われるのが一番気に入らない。
「別にそのまま帰るのも空気悪いと思っただけで、およびじゃないなら帰るよ」
 俺は立ち上がった。
 その時無意識で藤越の方を見た。無表情で、別に止めようともしない。俺は背を向けて居酒屋の入口まで歩いた。藤越の様子は見れたしもうこんなところに用はないと思った。
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