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第十一章

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 帰ろうとしたら、託に止められた。
「今日は泊まってきな」
 僕は迷った。
「明日俺が会社ついてく」
「い、いいよ」
「あいつ多分懲りてないよ」
 そんなのわかってたけど、託にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「仕事やめるから」
「何で簡単にそんなこと決めるの?」
 だって目を付けられてしまったら逆らえるわけないから。
「鈴也の会社うちとも取引あるし、うちの方が大きいから、交渉できるって」
「交渉?」
 そんなこと思いつきもしなかった。
「あんな男に鈴也がいいようにされるなんて我慢できない」
「でも」
 託の立場だって悪くなるんじゃないかと思った。

「何でいつもそうなの? 鈴也のことなんだから、もっと怒ったら?」
「託にはわかんないよ。支配される側の気持ちなんて。Subになったことないんだから」
 言ってしまった。こんな八つ当たりみたいなこと言いたくなかったのに。

「鈴也?」
「ご、ごめん」
 こんなこと言うつもりじゃなかったのに。
「確かにそうだね」
「た、託」
 怒られると思った。
「だから俺をいじめてたの?」
「え、あ」
 託の目をそらすことができない。
「支配される側の気持ちをわからせようとした?」
「違う」
 ただ怖かった。何も抵抗できずに支配されてしまうと思うと怖かったのだ。

「ごめん。ごめんなさい」
「謝ってほしいわけじゃない」
 射貫くような目で見つめられた。再会した時みたいだった。
「Subのことちゃんと理解したいから」

「教えて」
 託はそのつもりなかったんだろうけど、少しグレアがもれていた。

「支配される側だなんて認めたくなくて、託にだけは支配されたくなかった」
 口から勝手に漏れる言葉に驚いた。言葉が止まらない。どうしよう。
「逆に託を支配したかった。僕は託が」
「黙って」
 託の命令に僕の言葉が止まった。
 僕、今何を言おうとしてた?
「鈴也、ごめん」
 託が謝り、我に返った。
「言わせる気だったわけじゃないんだ」
 黙れと言われたから何も言えない。

「いい子」
 頭を撫でられた。
「楽にしていいよ。もうコマンドは終わり」
 ふわっと力が抜けた。
「託?」
「ただ知りたかったんだ。鈴也が何を考えてたか。でも、無理矢理言わせるもんじゃないね。ごめん」
 謝る必要なんかないのに。
 本当は言ってしまいたかった。命令で言わせられたら言い訳できるから。
 僕は自分の卑怯な考えに愕然とした。

「とにかく今日は泊まってきな。もうだいぶ遅いし」
 そういえば、託の家に泊まるかどうかって話から発展したのだと思い出した。
「うん」
 泊まることに抵抗はない。ただ、会社に着いてきてもらうなんて子供みたいだと思った。社会人3年目で、とっくに自立した大人なのに。
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